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2012年02月18日

独学院 窃盗の罪から

参りましょう。

<窃盗の罪>

 窃盗の罪には、窃盗罪[235条]及び不動産侵奪罪[235条の2]がある。前者は他人の財物を窃取する犯罪であり、後者は他人の不動産を侵奪する犯罪である。
 いずれの未遂も処罰される。

<窃盗罪の客体>

 窃盗罪の客体となるのは、他人の占有する他人所有の財物である。
 ただし、自己の所有の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、他人の財物とみなされ、窃盗罪の客体となる[242条]。

★ 公務所とは、官公庁その他公務員が職務を行う所をいう。場所又は建造物のことではく、制度としての組織体をさす。
「公務所の命令により他人が看守するものであるとき」とは、例えば、執行官が差押・仮処分の対象とした物を第三者に保管させている場合である。

<窃盗罪の占有>

 235条の「占有」とは、財物に対して事実上の支配を有する状態をいう。

※民法上の占有との違い

 民法の占有とは異なり、より現実的な観念であって、自己のためにする意思[民法180条]は不要であり、また代理占有[同法181条]のような「観念的な占有」や「占有の相続」は認められないとされている。それゆえ、「所持」ともよばれる。

 刑法の占有が認められるためには、「占有の事実」と「占有の意思」が必要であると解されている。

≪占有の事実≫・・・財物を事実上支配しているという事実[客観的要件]
≪占有の意思≫・・・財物を事実上支配するという意思[主観的要件]

<占有の有無>

 窃盗罪の客体となるのは、「他人の占有する他人の財物」である。所有者が占有を喪失した財物は、窃盗罪の客体ではなく遺失物横領罪の客体となる。

 必ずしも財物を現実に握持することや、手元に置いて監視していることは必要ではないと解されている。
 社会観念上、物に対する支配が及んでいると認められる場合であればよい。

<占有が「ある」と認められた場合[→遺失物横領罪ではなく窃盗罪]>

@ 財物をある程度離れた場所においても、社会観念上、占有があると認められる場合がある。

・バスを待つ行列の移動中に置き忘れた写真機について、約5分後19.58メートル離れたところで気づいた場合→占有あり

※被害者が財物を「置いたことを忘れた」のではなく、「意識してそこに置いた」場合には、より広く占有が認められ易い。

・関東大震災の際に、Aが自己所有の財物を一時公道に置いて非難したものの、その財物の存在を認識し、かつ、これを放棄する意思が無かった場合には、Aの占有が認められる。

※これに対し、「被害者が置き忘れた場合」には、占有が認められにくくなる。

A 自分が排他的に支配している場所の中にある財物については、たとえそこを離れても、占有が認められる。

・Aが自宅に置いてきた本の占有はAの下にある。

B 他人が排他的に支配している場所の中にある財物については、その他人に占有が移転する。

・宿泊先の旅館の客室で、前日の宿泊客Aが置き忘れた財布を発見し、これを取得した場合→財布の所有者Aは、財布の占有を失っている。しかし、旅館内にある財布の占有は、「旅館の管理者」にある[→財布の所有者Aから旅館の管理者に占有が移転したとみることができる。]。その占有を侵害して他人Aの財布を盗取しているので、窃盗罪が成立する。

※その他の例

 飼いならされた犬が所有者の事実上の支配を及ぼし得べき地域外に出て行っても、その習性として飼育者のもとに帰来するのを常としているものは、特段の事情の生じない限り、直ちに飼育者の所持を離れたものであるとはいえない。

 海中に取り落とした物件については、落とし主の意に基づきこれを引き上げようとする者が、その落下場所の大体の位置を指示し、その引揚方を人に依頼した結果、その物件がその付近で発見されたときは、依頼者は、その物件に対し管理支配意思と支配可能な状態とを有するものといえるから、事実上の支配管理を有する。

<占有が「ない」とされた事例[→窃盗罪ではなく遺失物横領罪]>

<出題例1>

・終電で帰宅中、他の通勤客が網棚の上に置いた鞄を置いたまま途中の駅で降りたのを確認したうえ、終着駅でそれを取得した場合→窃盗罪ではなく遺失物横領罪になる。
 被害者[=鞄の所有者]の占有は失われている。また、旅館の場合と異なり、電車内は「一般人の立入りが可能」であって、電車の管理者[=車掌]の排他的支配が及んでいるとはいえないので、網棚に置き忘れられた鞄の占有が「電車の管理者」[=車掌]にあるとも認められない。網棚の上に置き忘れられた鞄には、誰の占有も及んでおらず、それを取得する行為には、窃盗罪は成立しない。

※「『電車の中の忘れ物』を取得→窃盗罪不成立」がポイント!

<出題例2>

・電車の車掌が、走行中の車内を点検中、下車した客が置き忘れたカメラを発見し、息子に与えるため、それを自宅に持ち帰る行為→窃盗罪ではなく遺失物横領罪。電車内に置き忘れられたカメラには、誰の占有も及んでいないから。

※「『電車の中の忘れ物』を取得→窃盗罪不成立」がポイント!

<占有の帰属>

 窃盗罪の客体となる財物は、「他人の占有」に属するものでなければならない。「自己の占有」する他人の財物は、窃盗罪ではなく横領罪の客体となる。窃盗罪と横領罪は次の点で異なる。

・窃盗罪の客体・・・「他人の」占有する他人の物
・横領罪の客体・・・「自己の」占有する他人の物

ポイントになるのは、「犯人の実行行為の時点で、財物の占有が被害者自身にあったのか、それとも犯人にあったのか」である。次のように異なる。

・財物の占有が「被害者自身」にあり→犯人はその占有を侵害して、財物を密かに奪取した→窃盗罪
・財物の占有が「犯人」にあり→犯人がその財物を領得した→横領罪

※占有の帰属が問題となる場合としては、「上下主従間の占有」、「共同占有」、「封緘[ふうかん]・施錠等が施された包装物の占有」がある。

<上下主従間の占有>

 例えば、○×酒店の店員Bが、店長Aの目を盗んで店の商品「大吟醸 夢雫」を自分のものにしたとする。この場合、Bの行為は窃盗罪なのか、横領罪なのか。

「大吟醸 夢雫」の占有が「店員B」にあるとすると→Bの行為は「横領罪」
「大吟醸 夢雫」の占有が「店長A」にあるとすると→Bの行為は「窃盗罪」

 判例は、雇用関係のように上下主従の関係にある者の間で事実上物を共同支配している場合においては、刑法上の占有は「上位者」[例えば、店の主人]にあり、「下位者」[例えば、店員]は占有補助者にすぎないと解している。
 したがって、例えば、商店の店員が商店内の商品を、店の主人に無断で持ち出した場合には、「窃盗罪」が成立する。

<共同占有>

 共同占有は、数人が共同して他人の財物を保管する場合である。判例は、共同保管者の1人が他の保管者の同意を得ることなく、不正に自己に領得する意思をもってその財物を自己単独の占有に移す行為は、共同占有者である他の保管者の占有を侵害して他人の財物を自己の支配内に移し不法に領得することになるので、その行為は窃盗罪を構成する、とした。

<封緘[ふうかん]・施錠等が施された包装物の占有>

 判例は、包装物全体の占有は受託者に属するが、内容物の占有は委託者に帰属するとしている。したがって、次のようになる。

≪受託者が包装を破らず、「包装物全体」を取得した場合≫・・・委託物横領罪
≪受託者が包装を破るなどし、「内容物」を取得した場合≫・・・窃盗罪

例えば、他人からその所有の衣類が入っている行李1個を預かり、保管していたような場合は、所有者である他人は行李に入っている衣類に対しては、その所持を失うものではなく、その衣類に質権を設定する目的で梱包を解き、行李から衣類を取り出したときは、衣類について窃盗罪を構成する。

<出題例>

・郵便集配人が、配達中の信書を開けて在中の小切手を取り出し、取得した場合→判例の趣旨に照らすと、窃盗罪が成立する。

・友人から留守番を一時頼まれた者が、その友人宅の金品を勝手に持ち出す行為→横領罪ではなく窃盗罪。「留守番を一時頼んだ」というだけでは、友人宅内部の金品の占有を犯人に移転したとはいえない。友人宅内の金品の占有は、依然として友人にある。

つづく・・・
タグ:刑法各論
posted by 94条2項の類推適用されずじまい at 11:18| Comment(0) | 刑法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年02月17日

独学院 財産犯から

さむいっすね、参りましょう。

<財産犯>

 個人財産の侵害を内容とする犯罪を、「財産犯」という。
 財産は、生命、身体、自由と並んで、個人の社会生活にとって重要な意義を有する。そこで、刑法は、財産犯を規定し、「個人財産の保護」を図っている。

 財産犯には、窃盗の罪、強盗の罪、詐欺の罪、横領の罪、背任の罪、恐喝の罪、盗品等に関する罪、毀棄及び隠匿の罪がある。

<財産犯〜行為の態様による分類>

 財産犯は、行為の類型によって、「領得罪」と「毀棄罪」に分類することができる。

≪領得罪≫・・・他人の財産を取得する罪←直接領得罪と間接領得罪からなる。
≪毀棄罪≫・・・他人の財産を損壊又は滅失させる罪

 さらに、直接領得罪は、「被害者から行為者のもとへの占有の移転を伴うか」により、「奪取罪」と「[広義の]横領罪」に分類することができる。

≪奪取罪≫・・・被害者から行為者のもとへの占有の移転を伴う。
≪[広義]横領罪≫・・・被害者から行為者のもとへの占有の移転を伴わない。もともと行為者のもとにある物を領得するもの。横領罪[252条・253条]と遺失物横領罪[254条]がこれにあてはまる。

 さらに、奪取罪は、被害者の意思に反して占有を移転するのか否かにより、次のように分類することができる。
≪被害者の意思に反して占有を移転させるもの≫・・・窃盗罪「235条」・不動産侵奪罪[235条の2]・強盗罪「236条」
≪被害者の瑕疵ある意思に基づいて占有を移転させるもの≫・・・詐欺罪「246条」・恐喝罪[249条]

<財産犯〜行為の客体による分類>

 財産犯は、行為の客体が[財物]であるか「財産上の利益」であるかによって、「財物罪」と「利得罪」に分類することができる。

≪財物罪≫・・・行為の客体が「財物」であるもの。財物は、背任罪を除くすべての財産犯の客体となる。
≪利得罪≫・・・行為の客体が「財産上の利益」であるもの。財産上の利益が客体となりうるものは、強盗罪、恐喝罪及び背任罪に限られる。

※財産上の利益を対象とする強盗罪、詐欺罪及び恐喝罪は、いずれも2項に定められているので、これらを「二項犯罪」という。

 また、財産犯の成立要件として被害者に「損害」が発生することを要するが、どのような場合に「損害」が発生したと認められるかという点について、「個別財産に対する罪」と「全体財産に対する罪」に分類される。

≪個別財産に対する罪≫・・・被害者の個々の財物や債権等が侵害されれば、「損害」の発生が認められる。
≪全体財産に対する罪≫・・・被害者の全体としての財産が減少しなければ、「損害」の発生が認められない。

※「個別財産に対する罪」は、被害者の全体としての財産が減少しなくとも、被害者が個々の財物の占有を喪失することにより、犯罪が成立するという点で、「全体財産に対する罪」と区別させる。
「全体財産に対する罪」は、「背任罪だけ」である。

<財物の意義>

 財産罪の侵害の対象となるのは「財物」であるが、財物の内容をどのように解するかが争われている。財物とは「有体物」に限られるのか、あるいは、財物には「有体以外のエネルギー」も含まれるのかという点である。

≪有体物説≫

 民法85条が民法における「物とは有体物という」と規定している。刑法上の財物も有体物に限定すべきである。エネルギーは財物に含まれない。

≪管理可能性説〜判例・通説≫

 財物は「管理することのできるもの」[管理可能性]であれば足り、必ずしも有体物であることは要しない。エネルギーも財物に含まれる。

※単に「管理可能性のあるもの」というと、財物の範囲が拡大しすぎてしまう懸念がある。そこで、現在では、「物理的に」管理可能なものに限られると解されている[物理的管理可能性説]。
※電気については、245条が定められている。

※ 判例上、いわゆる電気窃盗事件において、エネルギーである電気が「財物」にあたるかが争われた(現行の245条が無い時代)。
 大審院は、可動性及び管理可能性の有無が窃盗罪の目的となる物とそうでない物とを区別する基準であると述べ、管理可能性説に立つことを明らかにした。
 電気については、その後、245条が設けられ、立法的解決が図られた。ただ、電気以外のエネルギーが「財物」に含まれるかは、現在でも問題となる。
※ 245条「この章の罪については、電気は、財物とみなす。」

<財物の範囲>

 「財物」といえるためには、一定の財産的価値のあることを要するか。
 判例は、財物とは、必ずしも財産的価値を有するものに限られず、財産権の対象となる物であれはよいとしている。消印済みの収入印紙であっても「財物」にあたるとした。

※ 学説の立場

 学説は、「財物」といえるためには、刑法上の保護に値するだけの財産的価値を要すると解している。ただ、その「財産的価値」とは、客観的交換価値のあるものに限られず、主観的使用価値でもよいとされている(被害者本人にとって大事な物であれば、他人にとってそうでもないものでもよい。)。つまり、「価値○○円」などの値段のつかない物(例えば、友人からの手紙など)でも、「財物」にあたるとしている。

<「他人の財物」には、禁制品も含まれるのか>

 財産犯の客体となるものは、「他人の財物」でなければならない。たとえ「財物」であっても、他人の所有権の対象とならないものは、財産犯の客体とはならない。

 それでは、禁制品は「他人の財物」に含まれるのか。
 「禁制品」とは、あへん、麻薬、覚せい剤、銃砲刀剣類のように、私人による所有・占有が法令上禁止されている物のことをいう。

 禁制品といえども、それを没収するためには、法律上、所定の手続を経ることが必要であり、そのような手続によらない限りは没収されないという限度で、占有が可能である。したがって、禁制品の占有を奪うことも刑法上禁止されるべきであり、財物にあたると解されている。

 判例も、当初は、偽造文書について何人の所有も許されず、所有権の目的となり得ないことを理由として、詐欺罪の成立を否定したが、その後、いわゆる隠匿物資を騙し取った事案において、詐欺罪の成立を肯定し、さらに密造酒の窃盗につき窃盗罪の成立を肯定した。

<財産犯の保護法益>

 財産犯の保護法益については、それをどのように解するかが争われており、本権説、占有説[所持説]等が主張されている。
 これは、242条をいかに解するのかという問題である。

※242条 「自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。」

≪本権説≫

 財産犯の保護法益は「所有権その他の本権」であるとする考え方。「本権」とは、占有を正当化する実質的権利のことをいう。

≪占有説≫

 財産の保護法益は事実上の占有であるとする考え方。
 本件の所在とは別に、まず「事実上の占有」そのものが保護されなければ、社会秩序の安定を期待することはできない。

 判例は、大審院時代は、本権説に立っていたが、最高裁になってからは、恐喝罪、詐欺罪について、順次、占有説に立つことを明らかにし、次いで窃盗罪についても、自己の所有に係るが、他人の事実上の支配内にある自動車を無断で運び去った所有者の行為を窃盗罪にあたるとして、占有説をとることを明らかにした。

<242条の理解[H16−27]>

 「自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。」
 この242条について、本権説と占有説での説明の仕方が異なる。

≪本権説≫・・・本権説は、242条の「自己の財物であっても、他人が占有」するものとは、「賃借権等の権限にもとづいて占有するもの」を指すと解する。
 究極の本権である所有権を有する者による取戻し行為については、本来であれば、窃盗罪が成立するはずはない。したがって、242条はその例外を定めた「例外規定」である。ただ、例外であるからあまり広く解するべきではなく、242条が適用されるのは、占有者に少なくとも「法的権原」がある場合に限られる。

≪占有説≫・・・占有説は、242条の「自己の財物であっても、他人が占有」するものとは、「権原に基づいて占有するものに限られず、他人の占有する物すべて」を指すと解する。占有説を採る限り、これは当然の結論である。242条は当然のことを確認した「注意規定」である。

[1]窃盗の被害者である「所有者Aが」窃盗犯人Bから自己の所有物をひそかに取る行為
≪本権説≫・・・Bの占有は「権原に基づく占有」ではないので、242条は適用されない。よって、Aは不可罰。
≪占有説≫・・・Bの占有についても、242条が適用される。よって、Aの行為については、窃盗罪が成立しうる[ただし、自救行為として違法性が阻却される場合がありうる。]。

[2]窃盗の被疑者以外の「第三者Cが」窃盗犯人Bからその窃盗に係る財物[所有者A]をひそかに取る行為
≪本権説≫・・・Bの占有については、242条は適用されない。ただ、Cの行為は、Bによって侵害されたAの所有権をさらに侵害する行為にあたる[再度の所有権侵害]。よって、Cの行為についても、窃盗罪が成立しうる。
≪占有説≫・・・Bの占有についても、242条が適用される。よって、Cの行為については、窃盗罪が成立しうる。

[3]賃貸人が賃貸借終了後に目的物を賃借人にからひそかに取る行為
≪本権説≫・・・賃貸借は終了しており、Bの占有はもはや「権原に基づく占有」ではないので、242条は適用されない。よって、Aは不可罰。
≪占有説≫・・・Bの占有についても、242条が適用される。よって、Aの行為については、窃盗罪が成立しうる。

<不法領得の意思>

≪事例1≫

 Aは、Bの所有する自転車を、Bに無断でこっそりと持ち出した。
@Aは、自転車を自分のものにするつもりで持ち出した。
AAは、自転車を買い物へ行くため一時的に借用するつもりであったにすぎず、用が済んだら、すぐに返すつもりであった。

≪事例2≫

 Aは、通勤先の同僚Bが使用している万年筆を、Bに無断でこっそりと持ち出した。
BAが万年筆をもちだしたのは、その万年筆がほしくなったからであった。
CAが万年筆をもちだしたのは、海中に投棄して同僚Bに嫌がらせをしようと考えたからであった。

@Bの場合には、Aに窃盗罪が成立する。
それでは、ACの場合のAにも窃盗罪が成立するのか。
判例の採る見解によると、ACの場合のAには、窃盗罪は成立しないという結論になる[Aでは無罪、Cでは器物損壊罪]。

 なぜ、@Bの場合には窃盗罪が成立し、ACの場合には窃盗罪が成立しないのかというと、それは、@BのAには「不法領得の意思」が認められ、ACのAには「不法領得の意思」が認められないからだと説明される。刑法に明文規定は無いものの、窃盗罪の成立要件として、「不法領得の意思」が必要であると解されているのである[毀棄罪を除く他の財産犯も同じ。]。

<不法領得の意思とは何か>

 窃盗罪も故意犯であるから、窃盗罪が成立するためには、窃盗の故意が必要である。
 そして、窃盗罪の客観的構成要件該当行為は「他人の占有する財物を奪取する行為」であるから、窃盗の故意は「他人の占有する財物を奪取すること」の表象・認容である。

 しかし、それだけでは、不可罰な使用窃盗と通常の窃盗とを区別することができないし[事例1の@とAの区別]、また、窃盗罪と毀棄罪を区別することができなくなっていまい[事例2のBとCの区別]、不都合であるという。そこで、毀棄罪を除く財産犯について、故意以外に、主観的超過要素※として、「不法領得の意思」を要求する。

※ 主観的超過要素

 窃盗罪の客観的な構成要件的行為は、「他人の占有を侵害して他人の財物を取得する行為」である。窃盗罪の故意は、みずからが「その客観的な構成要件的行為を行っていることの表象・認容」、すなわち、「みずからが他人の占有を侵害して他人の財物を取得することの表象・認容」である。
 不法領得の意思は、それを超えて(超過して)要求される主観的要素という意味で、「主観的超過要素」だと言われる。

 不法領得の意思の内容について、判例は、「権利者を排除して、他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思」であるとする。

 判例の対場によると、不法領得の意思には、次の[a][b]の二つの要素がある。

* 学説には、不法領得の意思を必要だとする見解(A説)と、不要だとする見解(B説)とがある。さらに、必要説(A説)は、不法領得の意思の内容として(a)(b)のうちのどれを要求するかによって、「(a)(b)両方を要求する見解」、「(a)のみを要求する見解」、「(b)のみを要求する見解」に分かれる。

[a] 権利者を排除して、所有者としてふるまう意思

 いわゆる「使用窃盗」は、このaが欠けるので、不可罰であると考えられる。「使用窃盗」とは、他人の財物を無断で一時使用することをいう。例えば、「後刻、元に戻しておく意思で友人の自転車を短時間無断借用しても、窃盗罪は成立しない。

[b] その経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思

 毀棄罪とそれ以外の財産犯を区別するための要件。このbが欠けるのが毀棄罪であり、bがあるのが窃盗罪だという。これによって毀棄罪と窃盗罪の区別がされる。

 前述の事例1のAの場合には「権利者を排除して、他人の物を自己の所有物とする意思」が欠け、事例2のCの場合には「その経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思」が欠けるので窃盗罪が成立しないと説明される。

※ただし、「一時使用」と「経済的」には、それぞれ注意すべき点がある。

<権利者を排除して、所有者としてふるまう意思1>

 いわゆる「使用窃盗」は、この「権利者を排除して、所有者としてふるまう意思」が欠けるので、不可罰であると考えられている。
 例えば、「後刻、元に戻しておく意思で友人の自転車を短時間無断借用しても、窃盗罪は成立しない。
 しかし、「返還する意思」があっても、自動車を相当長時間無断使用する場合には、a「権利者を排除して、所有者としてふるまう意思」が欠けることはなく、不法領得の意思が認められると解されている。

<権利者を排除して、所有者としてふるまう意思2>

★「一時使用目的の持ち去り」であっても、次のような場合には、不法領得の意思が認められる[H19−26]。

≪乗り捨ての意思で持ち出し→不法領得の意思○≫

 一時使用のつもりではあるが、「乗り捨てるつもり」で自転車の占有を奪う行為については、不法領得の意思が認められ、窃盗罪が成立する。

→「返還する意思」がない場合。a「権利者を排除して、所有者としてふるまる意思」があり、不法領得の意思が認められる。

≪他人の自動車を長時間無断使用する行為→不法領得の意思○≫

 他人所有の普通乗用自動車[250万円相当]を、数時間にわたって完全に自己の支配下に置く意図のもとに、所有者に無断で乗り出し、その後4時間余りの間、同市内を乗り廻していたというのであるから、たとえ、使用後に、これを元の場所に戻しておくつもりであったとしても、被告人はその自動車に対する不法領得の意思があったというべきであり、窃盗罪が成立する。

→「返還する意思」がある場合。しかし、自動車を相当長時間無断使用する場合には、a「権利者を排除して、所有者としてふるまう意思」が認められると解されている。同判決は、次の点を考慮したものと考えられる。

・目的物が「自動車」であって、それを使用することに高い財産的価値[=価値の消費]が認められること
・「短時間・短距離]の使用ではなく、「長時間・長距離」の使用であったこと

≪コピー目的での秘密資料の持ち出し→不法領得の意思○≫

 コピーをとってその内容を他に漏らす目的で持ち出しの禁止された秘密資料を持ち出した場合には、そのあと直ちにもとの場所へ返還する意思があっても、窃盗罪が成立する。

→新薬の開発に関わる秘密資料が他にも存在するということになると、秘密資料の所有者の独占的排他的利用が損なわれてしまう。「一時的にでも権利者を完全に排除して自己の所有物として振る舞う意思のある場合」ないし「目的物の価値を費消する意思のある場合」にあたるので、不法領得の意思が認められると解されている。

<その[経済的]用法に従いこれを利用し又は処分する意思>
 
 領得罪である窃盗罪は、毀棄罪である器物破損罪よりも刑が重い。
 領得行為が毀棄行為に比べて重く処罰される理由は、領得行為の方がより誘惑的な行為で犯しやすく、それゆえ厳しく禁圧する必要があるからである。

第234条(窃盗)

 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

第261条(器物損壊等)

 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

 そして、領得行為と毀棄行為はどのような点でことなるかというと、「その[経済的]用法に従いこれを利用し又は処分する意思」があるか否かという点である。

≪[経済的]用法に従いこれを利用する意思が「ある」場合≫→「領得行為」→領得罪の問題へ
≪[経済的]用法に従いこれを利用する意思が「ない」場合≫→「毀棄行為」→毀棄罪の問題へ

 判例は、不法領得の意思の内容として、「経済的用法に従い・・・意思」と述べている。しかし、実際には「経済的用法」といえない場合でも、不法領得の意思を肯定している。例えば、性的目的で下着を盗る行為にも、不法領得の意思が存在するとした。

 学説は、「経済的用法」に限られず「本来的用法」に従って利用し又は処分する意思であれば足りるとか、「経済的用法」「本来的用法」に従うことも不要で、その財物のもつ利益や効用を享受する意思があれば足りると解している。

●嫌がらせのために、勤務先の同僚が毎日使う道具を持ち出して水中に投棄した。[H19−26の事例]

→bが欠けるので、窃盗罪は成立しない。器物損壊罪となる。

●「商店から商品を無断で持ち出し、その直後に返品を装ってその商品を商店に返還し代金相当額の交付を受ける目的」で持ち出したとき

→bがあり、不法領得の意思の存在が認められる。特殊な「用法」であるが、それによって直接利益を得ることを目指している以上、不法領得の意思が認められる。

●水増し投票をする目的で投票用紙を持ち出した場合

→bがあり、不法領得の意思の存在が認められる。行為者に経済的利得を得る意思は無いものの、その財物の典型的な利用方法にあたるので、bが肯定されると解されている。

つづく・・・
タグ:刑法各論
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2012年02月16日

独学院 名誉毀損罪から

おはっす、参りましょう。

<名誉毀損罪>

 公然と事実を摘示し、人の名誉を棄損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処せられる。[230条1項]。

 人[自然人、法人等]の名誉を保護法益とする。

 「名誉」とは、人に対する社会的評価をいう。

 名誉毀損罪の行為は、公然と事実を摘示して、人の社会的評価を害するおそれのある状態を生じさせることである。
 「公然」とは、不特定又は多数の者が認識できる状態をいう。
 「事実の摘示」は、人の社会的評価を害するおそれのある事実を示すことである。例えば、万引きをした事実を示すことは事実の摘示にあたるが、「馬鹿者」といった評価を示しても事実の摘示にはあたらない。

 事実の摘示により、人の社会的評価を害するおそれのある状態を生じさせればよく、現実に社会的評価が害されなくてもよい[危険判、大判S12.2.28]。

 本罪の故意は、人の社会的評価を低下させるに足りる事実を公然と摘示することについて認識があれば足りる。

<真実性の証明>

 名誉毀損罪にあたる行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、罰せられない。[230条の2第1項]。

 この場合に、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなされる[同条2項]。

 名誉毀損罪にあたる行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、罰せられない[同条3項]。

 人の社会的評価を害する事実が摘示された場合には、その事実が真実であるか否かを問わず、原則として、名誉毀損罪が成立する。
 しかし、一方で、憲法は表現の自由を保障する[憲法21条]。民主主義社会においては、公共的な利益にかかわる事実について、表現の自由が最大限に保障されなければならない。
 そこで、表現の自由と人の名誉の調和を図るため、名誉毀損罪に該当する行為であっても、公共の利害に関する事実については、その事実が真実であることの証明があること等の要件を充たせば不可罰とされる。

<真実性の証明による不可罰の要件>

 名誉毀損行為が不処罰とされるには、以下の要件が必要である。

@ 摘示された事実が公共の利害に関するものであること
A 摘示の目的がもっぱら公益を図るためのものであること
B 事実が真実であることの証明があること

 公訴提起前[刑事裁判にかけられる前]の人の犯罪行為に関する事実については、公共の利害に関する事実とみなされるので、目的の公益性Aと真実性の証明Bの要件を充たせば処罰されない「230条の2第2項」。
 また、公務員又は公選による公務員の候補者[選挙の立候補者]に関する事実については、真実性の証明Bの要件を充たせば処罰されない[同条3項]。

 さらに、判例は、真実であることを証明できなかった場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉棄損の罪は成立しないとした[最判S44.6.25]。

<侮辱罪>

 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処せられる[231条]。
 人[自然人、法人等]の名誉[社会的な評価]を保護法益とする。

 本罪の行為は、事実の摘示をしないで侮辱することである。「侮辱」とは、他人の人格を蔑視する価値判断を示すことをいう。例えば、「売国奴」、「選挙ブローカー」と怒鳴ったりするように、抽象的に人をけなす行為である。
 事実の摘示がない点で名誉毀損罪と区別される。

<信用毀損罪>

 虚偽の風説[ふうせつ]を流布「るふ」し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損した者は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる[233条前段]。

 本罪は、個人の経済的信用、つまり、人の支払能力や支払意思に対する社会的信頼を保護法益とする。

 「虚偽の風説を流布し」とは、実際の事実とは異なった事項を内容とするうわさを不特定又は多数の者に知られわたるような態様で伝達することをいう。特定の人に告知する場合でも、順次多数人に伝播する可能性を認識していればよい。

 「偽計を用いて」とは、相手方の錯誤又は不知を利用し、又は社会生活上受容できる限度を超え不当に相手方を困惑させる手段術策をいう。
 
 「人の信用を毀損する」とは、人の経済的信用に対する社会の信頼を低下させる恐れのある状態を作出すればよく、現実に低下させたことを要しない。

<業務妨害罪>

 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる[233条後段]。
 威力を用いて人の業務を妨害した者も、上記の例により処罰される[243条]。

 本罪は、人の社会的活動の自由を保護法益とする。

 「業務」とは、自然人、法人その他の団体が社会生活上の地位に基づいて反復・継続して従事する事務をいう。

・本罪は人の社会的活動の自由を保護法益とする犯罪であるから、娯楽として行う行為や人の家庭生活上の行為は含まれない。
・反復・継続性がなければならず、団体の結成式というような、性質上、一回的一時的なものは、業務ではないとされる。

 本罪の行為は、@虚偽の風説の流布、A偽計、B威力により、人の業務を妨害することである。@、Aの場合を偽計業務妨害罪といい、Bの場合を威力業務妨害罪という。
 
 「威力を用いる」とは、人の自由意思を制圧するに足りる勢力をいい、現実に相手方が自由意思を制圧させることは要しない。たとえば、営業中の商家の表を強制的に板囲いした場合、食堂に蛇をまき散らした場合である。

■判例の趣旨に照らすと、業務妨害罪の構成要件は、人の業務を妨害することであるが、人とは、自然人又は法人に限られるものではなく、法人格のない団体の業務も、業務妨害罪における業務にあたる。

<解説>

 判例によると、業務妨害罪における「人」とは、自然人、法人その他の団体とされているから、法人格のない団体の業務も、職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務又は事業に該当する限り、本罪における業務に当たる。

◆業務妨害罪の「業務」に公務が含まれるか。

≪公務振り分け説≫[最判S62.3.12等]

 強制力を行使する権力的公務以外の公務については、公務も「業務」に含まれる。

≪身分振り分け説≫

 非公務員の行う公務に限り、公務も「業務」に含まれる。

≪消極説≫

 公務は、「業務」には一切含まれない。

≪積極説≫

 公務もすべて「業務」に含まれる。


◆業務妨害罪の「業務」に公務が含まれるか。

≪公務振り分け説≫最判

 強制力を行使する権力的公務以外の公務については、公務も「業務」に含まれる。

[理由]

 公務もこれを行う公務員等にとっては、人の社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務であることに変わりはない。ただし、公務に対する妨害については、公務執行妨害罪が定められているが、同罪が暴行・脅迫による妨害を処罰対象としていることからすると、強制力を有する公務員[警察官等]に対する暴行・脅迫に至らない威力等による抵抗については、その強制力によって排除すればよく、刑罰の対象外としたものと解される。→偽計・威力により警察官の逮捕行為を妨害しても、業務妨害罪は成立しない。

≪身分振り分け説≫

 非公務員の行う公務に限り、公務も「業務」に含まれる。→非公務員による公務は、業務妨害罪の対象になるが、公務員による公務はその対象にならない。

≪消極説≫

 公務は、「業務」には一切含まれない。

[理由]

 公務に対する妨害については公務執行妨害罪が定められている以上、公務は公務執行妨害罪によって保護するのが法の建前である。公務執行妨害罪は国家的法益に対する罪であり、業務妨害罪は個人的法益に対する罪であるから、安易に競合させるべきではない。→非公務員による公務については、刑法上保護は与えられない。

≪積極説≫

 公務もすべて「業務」に含まれる。

[理由]

 業務妨害罪は、個人の社会的活動の自由を保護法益とするが、公務も公務員にとって社会活動である。→偽計・威力により警察官等の職務を妨害した場合には、業務妨害罪が成立する。


■判例の趣旨に照らすと、業務妨害罪における業務には、一定の公務は含まれないが、県議会の委員会において条例案の審議中に反対派住民多数が委員会室に侵入し、委員に暴言を浴びせるなどしたうえ、委員長らの退室要求を無視して同室内を占拠して、委員会の審議採決を一時不能にさせた場合、業務妨害罪が成立する。

<解説>

 業務妨害罪における業務に公務が含まれるかどうかについては、学説に争いがある。判例においても、戦前から戦後の一時期までは、公務は全面的に含まれないとしていたが、その後、国鉄職員の業務について、民営鉄道の業務と実体は同じであり、含まれるとした。さらに、国立大学の業務、郵便局の業務等も含まれるとする判例が表れた。最高裁は、「強制力を行使する権力的業務」以外の業務は、本罪における業務に含まれるとし、県議会の委員会の条例案採決を妨害した事案について、本罪の成立を認めている。

■ 判例の趣旨に照らすと、業務妨害罪における「業務」とは、自然人、法人その他の団体が社会生活上の地位に基づいて反復・継続して従事する事務をいい、報酬や、収入の有無は問われない。
 したがって、「業務」[233条・234条]とは、報酬又は収入を伴うものでなくても良い。

■ 判例の趣旨に照らすと、業務妨害罪における「業務」には、娯楽のために行われる自動車の運転は含まれない。

<解説>

 業務妨害罪における「業務」とは、自然人、法人その他の団体が社会生活上の地位に基づいて反復・継続して従事する事務をいう。
 もっとも、本罪は、人の社会的活動の自由を保護法益とすることから、反復・継続して従事する事務であっても、娯楽で行うものや、日常の家庭生活上の仕事は含まれない。
 したがって、娯楽のために行われる自動車の運転は、業務妨害罪における業務には含まれない。なお、業務上過失致死傷害罪[211条1項前段]における業務には、娯楽のために行われる自動車の運転も含まれる。

■ 判例の趣旨に照らすと、業務妨害罪における業務とは、職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務又は事業をいうから、嫌がらせのために夜中に人家の前で大声をあげるなどしてその家の家人の睡眠を妨害しただけでは、業務妨害罪は成立しない。

<解説>

 判例によると、業務妨害罪における業務とは、精神的であると経済的であるとを問わず、広く職業その他社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務又は事業を総称するとされている。したがって、会社創立事業、宗教団体の社会奉仕活動等は業務と言えるが、娯楽としての行為や日常の家庭生活、1回限り行われる団体の結成式等は業務とはいえない。よって、家人の睡眠を妨害しただけでは、本罪は成立しない。

■ 判例の趣旨に照らすと、業務妨害罪における業務は、適法なものに限られるわけではなく、その業務が許可制であるにもかかわらず、その許可を得ずに行われている場合であっても、その業務は業務妨害罪における業務にあたることもある。

<解説>

 判例によると、業務妨害罪における業務は、「事実上平穏に行われている一定の業務」であって、反社会性が明らかな場合は格別、その業務が開始される原因をなった契約が民法上有効であること、その業務に関する行政上の許可が存在すること、行政取締法規に違反する不適格な点がないこと等は、必ずしも刑法上保護される「業務」の要件ではない。
 具体的には、耕作権のない者が行う農業、県知事の許可を得ていない湯屋営業の業務、風俗営業法で禁止されているパチンコ景品買入業務等が、業務妨害罪における業務にあたるとされている。

■ 判例の趣旨に照らすと、業務妨害罪の構成要件は、必ずしも「業務を妨害した」とこに限られるものではなく、業務妨害罪が成立するには、業務の遂行に対する妨害の結果を発生させるおそれのある行為をしただけで足り、現実に業務妨害の結果が発生したことは必要ではない。

<解説>

 判例によれば、業務妨害罪における妨害行為は、単に業務の執行自体を妨害する行為だけでなく、広く業務の運営を阻害する一切の行為を含むと解されていおり、業務の遂行に対する「妨害の結果を発生させるおそれのある行為」をしただけで足りるとしている。ただし、条文には「妨害した者」とあるので、結果の発生が必要であるとする説もある。

つづく・・・
 
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2012年02月15日

独学院 脅迫罪から

ささ、参りましょう。

<脅迫罪>

 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる。[222条1項]。
 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、同様に処せられる[同条2項]。
 脅迫罪の保護法益は、個人の意思決定の自由及び身体活動の自由である。

 「脅迫」とは、人を畏怖させるに足りる害悪を告知することをいう。
 脅迫の内容は、相手方又はその親族の生命、身体、自由、名誉、財産に対し害悪を加えることを内容とするものに限られる。
 いわゆる村八分の決議の告知は、名誉に対する害悪の告知として脅迫罪が成立するとされる。

 告知の方法は、文書や口頭によるほか、方法を問わない。相手方に害悪が認識された時点で既遂となる。

 本罪の故意は、害悪の告知について認識があれば足りる。たとえ、脅迫した者が、害悪の発生を望まなくても、脅迫罪が成立し、さらには、相手方が畏怖心に陥らなくても、脅迫罪が成立する。

<強要罪>

 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処せられる[223条1項]。

 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、同様に処せられる[同条2項]。
 これらの未遂は、罰せられる[同条3項]。

 強要罪の保護法益は、個人の意思決定の自由及び身体活動の自由である。
 暴行・脅迫をしたが、人に義務のないことを行わせることや、権利の行使を妨害することができなかったときは、未遂罪として罰せられる。

<強要罪の構成要件>

 強要罪は、脅迫又は暴行により、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害することを内容とする犯罪である。
 「脅迫」とは、脅迫罪にいう脅迫と同義であり、人を畏怖させるに足りる害悪を告知することをいう。
 「暴行」とは、人に対する不法な有形力の行使をいう[広義の暴行]。机をひっくり返す行為のように、暴行が直接身体に加えられなくても良い。

 「義務のないことを行わせ」とは、行為者が相手方にある行為をさせる権利又はさせない権利がないにもかかわらず、これを相手方に強制することをいう。
 権利・義務があるかないかは法的な問題であり、論理的な問題とは異なる。したがって、社会論理上は、謝罪するのが当然と思われるような場合であっても、謝罪文を要求する法的権利がないのに暴行・脅迫により謝罪文の作成・交付を強制した場合には、強要罪が成立する。

 「権利の行使を妨害」するとは、例えば、選挙権の行使を阻止する等公法上の権利行使を妨害したり、契約による家の明渡しを阻止する等私法上の権利行使を妨害することである。
 
 本罪の故意は、暴行又は脅迫により人に義務のないことを行わせる認識、又は権利の行使を妨害する認識があれば足りる。

<逮捕・監禁罪>

 不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3月以上7年以下の懲役に処せられる[220条]。
 本罪の保護法益は、人の身体活動の自由である。したがって、全く任意に行動することができない生後間もない嬰児、意識不明の状態の者については、本罪は成立しない。

 「逮捕」とは、人の身体を直接拘束することをいう。
 身体を縛り上げるといった有形的な方法によると、詐欺・脅迫といった無形的な方法によるとを問わない。

 「監禁」とは、人の行動の自由を場所的に拘束することをいう。
 人を部屋に閉じ込めてカギを掛ける有形的な方法によると、脅迫により畏怖させて逃げだせないようにするといった無形的な方法によるとを問わない。

 監禁罪が成立するには、被害者に対する拘束が完全である必要はなく、一定の場所からの脱出が著しく困難である場合にも成立するとされている。

◆身体的自由の意義[@]及び自由の侵害に対する認識の要否[A]

≪可能的自由説≫[通説・京都地判S45.10.12等]

@ 身体的自由は、その主体が行動したいときに行動できること[可能的自由]を意味する。
したがって、自然的、事実的意味において任意に行動しうる者であれば、監禁罪の保護に値する。

A 被害者が身体的自由を侵害されていることを認識する必要はない。自由が侵害されている認識がなくても、任意に自由な行動ができない以上、潜在的・可能的自由が侵害されていることにかわりはないからである。

≪現実的自由説≫

@ 身体的自由は、その主体が現実に行動する自由[現実的自由]を意味する。現実に行動する自由は、被害者が行動の意思ないし能力を有することを前提とするものである。

A 被害者が身体的自由を侵害されていることを認識する必要がある。現実的な身体・行動の自由は、被害者が現実に行動しようとしたがそれができない場合に侵害されるのであって、侵害について認識を欠く場合には、身体活動の現実的な自由は害されないからである。

 可能的自由説→睡眠中の者や泥酔者について逮捕・監禁罪が成立する。
          →生後1年7ヵ月の這いまわったり伝い歩きができる幼児について逮捕・監禁罪が成立する。
          →強姦の意図を秘して家まで送ると欺き女性を車に乗せて走行する場合、逮捕・監禁罪が成立する。

 現実的自由説→睡眠中の者や泥酔者について逮捕・監禁罪は成立しない。
          →強姦の意図を秘して家まで送ると欺き女性を車に乗せて走行する場合、逮捕・監禁罪は成立しない。

<略取及び誘拐の罪>

 略取[りゃくしゅ]及び誘拐の罪は、人をそれまでの生活環境から離脱させ、不法に自己又は第三者の実力的な支配内に移す行為を内容とする犯罪である。
 略取又は誘拐される者を被拐取者[ひかいしゅしゃ]というが、この被拐取者の自由及びその親族等の監護権を保護法益とする。

 略取と誘拐は、いずれも他人をその生活環境から不法に離脱させて、自己又は第三者の実力的支配内に移す行為である。
 このうち「略取」は、暴行・脅迫を手段として行う場合であるのに対し、「誘拐」は、欺く行為・誘惑を手段として行う場合である。
 略取と誘拐をあわせて拐取[かいしゅ]という。

<未成年者略取・誘拐罪・営利目的等略取・誘拐罪>

 略取及び誘拐の罪は、その客体や目的によって異なる罪が定められている。

・未成年者略取・誘拐罪[224条]・・・略取・誘拐の対象が未成年者である場合に成立する。ただし、拐取について特定の目的があれば、他の拐取罪が成立する。

・営利目的等略取・誘拐罪[225条]・・・略取・誘拐の目的が、「営利」、「わいせつ」、「結婚」又は「生命若しくは身体に対する加害」である場合に成立する。
 「営利」の目的とは、拐取した女子に風俗業をさせる目的等、拐取行為によって財産上の利益を得る目的をいい、身代金を得る目的とは異なる。

<身代金目的略取・誘拐罪、身代金要求罪>

 身代金目的の略取及び誘拐の罪は次のとおりである。

・身代金要求罪[227条4項後段]・・・略取・誘拐された者を収受した者が身代金を交付させ、又は要求した場合に成立する。

 身代金の交付・要求は、被拐取者の親族その他被拐取者の安否を憂慮する者に向けられものであることが必要である。
 「安否を憂慮する者」とは、被拐取者と近しい親族その他これに準ずる特殊な人的関係があるため被拐取者の生命又は身体に対する危険を親身になって心配する立場にある者をいう。判例では、銀行の社長が誘拐された場合の銀行の幹部が「安否を憂慮する者」にあたるとされた。
 「収受」とは、被拐取者の身柄を受け取って自己の実力的支配の下に置くことをいう。

 身代金目的の拐取罪を犯した者が、公訴が提起される[刑事裁判にかけられる前]に被拐取者を安全な場所に解放したときは、その刑が減軽される[228条の2]。
 身代金目的の拐取罪は、犯罪の性質上、被拐取者が殺害されるおそれが高い。そこで、被拐取者の生命の安全を図るため、被害者を解放した犯人については政策的に刑の減軽が認められている。

<住居侵入罪>

 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入した者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられる[130条前段]。

 保護法益は、住居に誰を立ち入らせ、誰の滞留を許すかを決める自由[住居権・管理権]であるとされる。

 住居者又は看守者が住居等への立ち入りを承諾ないし同意した場合には、住居侵入罪は成立しない。ただし、承諾等は、任意かつ真意に基づくものでなければならない。したがって、強盗の意図を秘して「こんばんは」と挨拶したのに対し、家人が来客であると誤信して「お入り」といったような場合、真意に基づく承諾がないので、住居侵入罪が成立する。

つづく・・・
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2012年02月14日

独学院 堕胎罪から

参りましょう。

<堕胎罪>

 堕胎罪とは、自然の分娩期に先立って人為的に胎児を母体から分離させる行為を内容とする犯罪である。
 第一次的には胎児の生命・身体の安全を、第二次的には母体の生命・身体の安全を保護法益とする。
 堕胎罪が成立するには、堕胎の結果、胎児が死亡したか否かは問題にならず、堕胎の方法にも制限はない。

 堕胎罪には、次のものがある。

@ 自己堕胎罪「212条」・・・妊娠中の女子が自ら堕胎する場合
A 同意堕胎罪「213条」・・・女子の嘱託・承諾があって堕胎する場合
B 業務上堕胎罪「214条」・・・医師、助産師、薬剤師又は医薬品販売業者が妊婦の嘱託・承諾があって堕胎する場合
C 不同意堕胎罪[215条]・・・女子の嘱託・承諾なく堕胎する場合

 自己堕胎罪以外の堕胎罪については、堕胎の結果、女子に死傷が生じた場合の結果的加重犯の定めがある。

<遺棄罪>

 老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者を遺棄した者は、1年以下の懲役に処せられる[217条]。
 遺棄罪は、人の生命・身体の安全を保護法益とする犯罪である。

 遺棄罪の客体は、扶助を必要とする者[要扶助者]である。すなわち、老年、幼年、身体障害又は疾病によって精神上又は身体上の欠陥があり、他人の扶持助力がなければ、自ら日常の生活を営むべき動作をすることができない者をいう。

 「遺棄」とは、要扶助者を場所的に移転することと解されている。要扶助者を場所的に移転して生命・身体に危険を生じさせれば足り、現実に生命・身体に危険を生じさせたことは必要ではない。

 故意は、要扶助者を生命・身体に危険な場所に移転することの認識があれば足りる。

<保護責任者遺棄罪>

 老年者、幼年者、身体障害者又は疾病を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の懲役に処せられる[218条]。

 保護責任者遺棄罪は、遺棄罪と同様、人の生命・身体の安全を保護法益とする犯罪であるが、行為者が乳幼児の親等、要扶助者を保護する責任のある者であるため、遺棄罪よりも刑が加重されている「身分犯」。

<保護責任者遺棄罪の構成要件>

 本罪の主体は、老年者、幼年者、身体障害者又は疾病を保護する責任のある者である。保護責任は、法令[民法による親の子に対する監護義務等]や契約[寝たきりの老人との介護契約等]に基づくもののほか、事務管理、慣習・条理に基づくものである。
 判例は、自動車の運転者が過失により通行人に歩行不能の重傷を負わせた場合に、運転者は保護責任者として被害者を保護すべき義務があるとした。これは、道路交通取締役等に定める救護義務、過失により重傷を負わせた先行行為[条理]に基づいて保護責任を認めたものと解される。

 本罪の行為は、「遺棄」又は[生存に必要な保護をしないこと」である。
 「遺棄」には、要扶助者を場所的に[移転]する行為のほか、要扶助者を従来の場所に置いたままで立ち去る[置き去り]も含まれると解されている。
 [生存に必要な保護をしない」とは、場所的隔離をともなわずに、要扶助者の日常生活における行動に必要な保護を与えないことをいう。例えば、親が乳幼児にミルクを与えない行為がこれにあたる。

 故意は、要扶助者を生命・身体に危険な場所に移転すること、置き去りにすること又は生存に必要な保護をしないことの認識である。また、保護責任の基礎となる事実「川でおぼれかけている子供が自分の子供である等」を認識していることも必要である。

<遺棄致死傷罪>

 遺棄罪又は保護責任者遺棄罪の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断される。
 本罪は、遺棄罪及び保護責任者遺棄罪の結果的加重犯である。
 傷害の結果が生じた場合には、傷害罪[15年以下の懲役又は50万円以下の罰金]、死亡の結果が生じた場合には、傷害致死罪[3年以上の有期懲役]の法定刑を、遺棄罪[1年以下の懲役]または保護責任者遺棄罪[3月以上5年以下の懲役]の法定刑と比較して、法定刑の上限と下限について重い方の刑が科せられる。

 具体的には次のようになる。

@ 遺棄罪の結果障害が生じた場合・・・1月以上15年以下の懲役
A 遺棄罪の結果死亡させた場合・・・3年以上20年以下の懲役
B 保護責任者遺棄罪の結果傷害が生じた場合・・・3月以上115年以下の懲役
C 保護責任者遺棄罪の結果死亡させた場合・・・3年以上20年以下の懲役

つづく・・・
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2012年02月13日

独学院 刑法各論の意義・体系から

参りましょう。

<刑法各論の意義・体系>

 刑法総論では、全ての犯罪に共通する成立要件[構成要件→違法性→有責性など]が検討される。刑法各論では、個々の犯罪について、固有の成立要件が検討される。

 刑法第2編「罪」の各犯罪は、保護法益の種類に応じて、「個人的法益に対する罪」「社会的法益に対する罪」「国家的法益に対する罪」に類型化される。

・「個人的法益に対する罪」は、さらに、@生命・身体に対する罪、A自由に対する罪、B名誉・信用に対する罪、C財産に対する罪に分類される。

・「社会的法益に対する罪」は、さらに、@公衆の安全に対する罪、A公衆の信用に対する罪、B風俗に対する罪に分類される。

・「国家的法益に対する罪」は、さらに、@国家存立に対する罪、A国家作用に対する罪、B国交に対する罪に分類される。

<生命及び身体に対する罪>

 人間の生命・身体は、あらゆる価値の根源であって、個人的法益の中でも最も重要なものであるから、人間の生命・身体に対する罪は、最も重大な犯罪である。

 人間の生命・身体に対する罪として、殺人の罪、傷害の罪、過失傷害の罪、堕胎の罪、遺棄の罪が規定されている。

<殺人の罪>

 殺人の罪は、殺人罪「199条」、自殺関与・同意殺人罪「202条」及びこれらの未遂罪[203条]からなる。さらに殺人罪については予備行為も処罰される[201条]。

<殺人罪の客体>

 殺人罪の客体は、人である。人とは、生きている自然人をいう。すなわち、その出生から死亡までが「人」として保護される。まだ出生していない胎児を殺しても、殺人罪とはんらない[→「堕胎罪」へ]。

≪人の始期≫

 胎児はいつから人になるのか。
 判例・通説は、胎児が母親から一部露出した時に出生があり、「人」になると解している。なぜなら、胎児が母親から一部露出した状態になれば、外部から死亡に至る侵害を加えることができるからである。

≪人の終期≫

 人の終期は死亡した時点である。死亡をどのような基準で判定するのかについては、「三徴候説」[通説]と「脳死説」がある。

<殺人罪の実行行為、罪数>

[1]殺人とは、殺人の故意をもって、自然の死期に先立って他人の生命を奪うことである。
仮に死期が確実であっても、自然死に先んじて死を促進させた場合は殺人行為である。例えば、事故で瀕死の状態にある者を包丁で刺したというような場合も殺人にあたる。
 殺人の手段・方法には制限はない。有形的な方法はもとより、たとえば強度の精神的衝撃を与える等の無形的な方法によっても良い。

[2]殺人罪の罪数は、行為の客体である「人」[=被害者]の数が基準とされる。生命は各人に固有の一身専属的な法益であって、各被害者ごとに独立して評価されるべきだからである。

・1人の人間に対して数回殺人行為を行い、最終的に殺害した場合、殺人罪「一」罪が成立する。

・1個の行為で3人を殺害した場合には3個の殺人罪が成立する。ただし、1個の行為で行っているので「観念的競合」[54条1項前段]となる。

<自殺関与・同意殺人罪>

 人を教唆し、若しくは幇助して自殺させ[自殺関与罪]、または人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した[同意殺人罪]者は、6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処せられる「202条」。

 一般に、自殺することは違法ではないと解されている。ただ、生命は本人だけが左右することのできるものであり、他人がそれに干渉したり原因を与えたりする行為は違法である。それゆえ本条が定められた。本条は、刑法総則の一般的な犯罪規定[61条・62条]の教唆・幇助とは全く別個に、他人の生命の否定に関与する行為を独自に処罰したものだと解されている。

<自殺関与罪の行為>

[1]自殺関与罪の行為は、教唆若しくは幇助である。

 「教唆」とは、自殺の意思のない者に、故意に基づいて何らかの手段を講じ自殺の意思を生じさせ自殺させることをいう。
 「幇助」とは、すでに自殺を決意している者に対して、その自殺行為を援助し、自殺を容易にさせることをいう。

[2]同意殺人罪の行為は、被殺者の嘱託を受け、又はその承諾を得て殺すことである。

・「嘱託」とは、被殺者がその殺害を依頼することをいう。
・「承諾」とは、被殺者がその殺害の申込みに同意することをいう。

 嘱託、承諾は、「真意に基づいて」なされたものでなければならない。すなわち、死亡することの意味を熟慮した上、自由な意思により殺害を依頼し、又は同意するものでなければならない。
 また、嘱託、承諾は、普通の事理弁識能力を有する被殺者自身が表明し、また殺害行為時に存在していなければならない。

<傷害罪・傷害致死罪>

 人の身体を傷害した者は、傷害罪として、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる「204条」。
 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、傷害致死罪として、3年以上の有期懲役に処せられる[205条]。

 傷害罪は、人の身体の安全を保護法益とする。
 傷害の結果、被害者が死亡した場合には、傷害罪の結果的加重犯として傷害致死罪が成立する。

<傷害の意義>

 「傷害」とは、具体的にどのような状態をさすのか。殴ってけがをさせたりすれば、「傷害」に当たることは問題ない。それでは、女性の髪を根元から剃って丸坊主にしてしまう行為について、傷害罪が成立するか。

 傷害の意義をいかに解するかについては、次の2説が対立する。
・A説・・・「傷害」とは、「生理的機能」を害することをさす。
・B説・・・「傷害」とは、「身体の完全性」を害することをさす。

 女性の頭を丸坊主にしてもその「生理的機能」は害されないが、「身体の完全性」は害される。

・A説・・・女性の髪を根元から剃ると、傷害罪ではなく暴行罪
・B説・・・女性の髪を根元から剃ると、傷害罪

 判例は、A説に立ち、暴行罪「208条」が成立するにとどまるとした。

≪その他「傷害」にあたるとされた例≫

・病毒を感染させる
・メチルアルコールを飲ませて疲労・倦怠感を覚えさせる

<傷害罪の客体>

 傷害罪の客体は、「人の身体」である。

・「人の身体」とは、「自然人である他人の身体」を意味する。
・「人の身体」に「自己の身体」は含まれない。
 自分の身体を傷害しても[「自傷行為」という。]、傷害罪は成立しない。

<傷害行為>

 傷害には、殴る、蹴るといった「暴行による場合」だけでなく、「暴行によらない場合」もある。
 たとえば、嫌がらせの電話を繰り返しかけて、相手方に不眠症や精神に異常をもたらす行為も、傷害行為にあたるとされる。

※暴行とは、人に対する不法な有形力の行使をいう。

◆≪最決H17年3月29日≫

 隣家の住人に精神的ストレスによる傷害を生じさせることを認識しながら、約1年半の間、連日朝から深夜ないし翌朝まで、窓際やその付近に置いたラジオや目覚時計を大音量で鳴らし続け、隣家の住人を慢性頭痛症などにさせた場合は、傷害罪にあたる。→騒音まき散らし行為は、「暴行」には当たらない。「暴行によらない傷害」の一例。

※ところで、傷害罪には未遂犯処罰規定が存在しない。

・「暴行の方法」による場合、傷害の故意で、暴行の結果しか発生しなかった場合には、暴行罪が成立する。

・「暴行以外の方法」による場合、傷害の故意で、傷害の結果が発生しなかった場合には、「犯罪は不成立」である。

<傷害罪の故意>

 判例は、傷害罪が成立するためには、必ずしも「傷害の故意」のあることを必要とせず、「暴行の故意」でもよいとしている。傷害罪は、「傷害の故意犯」であると同時に、「暴行罪の結果的加重犯」でもある。

 暴行の方法による傷害罪の場合、次のようになる。

[1]暴行の故意で、傷害の結果→傷害罪。傷害罪は暴行罪の結果的加重犯でもあるから。
<例> 「怪我をさせずに単に殴る」つもりで殴ったところ、怪我をさせた場合には、傷害罪が成立する。

[2]傷害の故意で、暴行の結果→暴行罪。傷害罪の未遂犯処罰規定はないから。
<例> 「怪我をさせる」つもりで殴ったところ、怪我をさせることができなかったという場合には、暴行罪が成立する。

<傷害致死罪の故意>

 傷害致死罪は、「傷害の故意」で人に傷害を与え、その結果被害者が死亡に至った場合に成立する。つまり、傷害致死罪は、「傷害罪の結果的加重犯」である。

 さらに、傷害致死罪は、「暴行の故意」で人に傷害を与え、その結果被害者が死亡に至った場合にも、成立する。「暴行罪のニ重の結果的加重犯」であると解されている。

[1]「殺さずに怪我をさせる」つもりで殴ったら、被害者が死亡。
 「傷害」の故意で、死亡の結果→傷害致死罪が成立する。

[2]「殺さずに、かつ怪我をさせずに、単に殴る」つもりで殴ったら、被害者が死亡。
 「暴行」の故意で、死亡の結果→傷害致死罪が成立する。

<同時傷害の特例[207条]>

 「二人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共犯の例による。」

[趣旨]

 2人以上の者が意思の連絡なしに暴行を加えて人を傷害した場合には、傷害罪の共同正犯は成立しない。よって、各行為者は、それぞれ、みずからの行為との間に因果関係のある傷害結果についてのみ責任を負うことになる。
 しかし、同時犯としての暴行が行われた場合には、それぞれの暴行と傷害の因果関係を特定するのは困難であることが多い。その因果関係が不明であるときは、各行為者は暴行罪の範囲で処罰されるはずである。
 しかし、それでは被害者保護に欠けることから、立証の困難を救済するため、本条が定められた。

 本条の法的性格については、@挙証責任の転換とA法律上の擬制を認めたものだと解されている[通説]。

@ 挙証責任の転換

 訴訟上の挙証責任を被告人に転換し、被告人が自らの暴行と傷害との因果関係がないことを証明しない限り、共同正犯の責任を負うとした。

A 法律上の擬制

 実際には共同正犯ではない者たちであっても、共同正犯とするとして、法律上の擬制を認めた。

※ 判例は、207条は「傷害致死罪」にも適用されるとする。これに対しては、反対する学説がある。

<暴行罪>

 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処せられる「208条」。
 暴行罪は人の身体の安全を保護法益とする。

 暴行罪の「暴行」とは、人の身体に対する不法な有形力の行使のことをいう。

・殴る、蹴る、手で他人の肩を押して土間に転落させる行為は、「暴行」にあたる。

・傷害の結果を生じさせる恐れのない行為でも、それが「直接人の身体に加えられる」のであれば、「暴行」にあたる。[つば吐き」とか、「塩のふりかけ」とかである。

・傷害結果発生の具体的危険性を発生させる行為であれば、直接被害者の身体に触れることなくともよい。狭い室内で日本刀の抜き身を振り回す行為も暴行にあたる。

 暴行罪の故意は、人の身体に対して不法な有形力を行使する認識で足りる。

<暴行の意義の多義性>

 暴行罪以外の罪でも「暴行」を犯罪の構成要件とするものが数多くある。しかし、犯罪によって「暴行」の意義は様々である。

@ 最広義の暴行・・・「人」に対すると「物」に対するとを問わず、不法な有形力の行使のすべてをいう。内乱罪[77条]、騒乱罪[106条]等にいう暴行である。

A 広義の暴行・・・「人」に対する不法な有形力の行使をいう。
 直接身体に向けられたものでなくてもよく、人の身体に物理的に強い影響を与え得るものであればよい。公務執行妨害罪[95条1項]、強要罪[223条1項]等にいう暴行である。

B 狭義の暴行・・・人の「身体」に対する不法な有形力の行使をいう。暴行罪[208条]にいう暴行である。

C 最狭義の暴行・・・人の犯行を抑圧するに足りる程度の不法な有形力の行使をいう。強姦罪[177条]、強盗罪[236条]にいう暴行である。

<過失傷害の罪>

 過失傷害の罪は、過失行為によって他人の身体・生命を侵害する犯罪である。
 過失行為とは、法律上の注意義務に違反する行為である。過失傷害の罪は、過失行為により人に死傷の結果を生じさせたことを要する。

 過失傷害の罪は、次の通りである。

@ 過失傷害罪[209条1項]
 過失により人を傷害した者[30万円以下の罰金又は科料]

A 業務上過失致死罪[211条1項後段]
 重大な過失により人を傷害させた者[5年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金]

<業務上過失致死傷罪・重過失致死傷罪>

[1]過失行為により死傷の結果が生じた場合に、それが業務上の過失にもとづくときは、「業務上過失致死傷罪」[211条1項前段]が成立する。過失致死傷罪・過失致死罪に比べて刑が加重される。

≪過失致傷罪・過失致死罪に比べて刑が加重される理由≫

 一定の業務に従事する者には、一般人よりも「特別に高度の注意義務」がかせられており、これに違反して死傷結果を発生させたことに基づくと解されている。

 本条の「業務」とは、人が生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、かつその行為は他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものをいい、行為者の目的がこれによって収入を得るとその他の欲望を充たすにあるとを問わない。

※ 「社会生活上の」とは、「個人的な生活活動」[育児、家事など]はそこに含まれないとの意味である。

※ 業務上過失致死傷罪の「業務」には、「それ自体人の身体生命に対する危険性のある行為」だけでなく、「危険の発生しやす生活関係において、人の生命・身体の危険を防止することを目的とする職務」も含まれる。例えば、建物の管理者たる地位に基づく管理事務などである。

※ 「反復継続」がポイント。

・「反復継続」であれば、職業上・営業上の行為に限らない。
例えば、トラック運転手が余暇の浜遊びのために自動車を運転することとか、娯楽のための狩猟行為なども、反復継続して行うかぎり、「業務」にあたる。
・反復継続して行う意思があれば、1回の行為でも業務にあたる。「初めての運転で事故」でも、本罪が成立する。
・「業務」は、適法な業務に限られない。無免許運転などでも、本罪が成立しるう。

[2]わずかな注意を払えば注意義務を尽くすことができたのに、これを怠ったというように、「注意義務違反の程度が著しい場合」には、重過失致死傷罪が成立する。「注意義務違反の程度が著しい」ことに基づいて、刑が加重されている。

つづく・・・
タグ:刑法各論
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2012年02月12日

独学院 刑の執行猶予から

参りましょう。

<刑の執行猶予>

 刑の執行猶予とは、刑を言い渡すにあたり、犯情により必ずしも刑の現実的な執行を必要としない場合に、一定の期間、その執行を猶予し、猶予期間を無事に経過したときは、刑罰権の消滅を認める制度をいう[25条以下]。

 刑の執行猶予制度は、刑の執行による弊害[失業、家族離散、刑務所内での悪風感染等]や、刑務所帰りというラベリングによる就職の困難等の弊害を回避し、かつ、条件に違反すれば取消しによる刑の執行が待っているという心理的強制により、犯人の自覚に基づく再犯防止を図ることを目的とする。

<執行猶予の要件>

 刑の執行猶予は、初度の執行猶予[25重1項]と、現に執行が猶予されている場合に再び罪を犯し、再度その執行を猶予する場合[同条2項、再度の執行猶予]とでは、その要件が異なる。

■ 初度の執行猶予の要件

 刑の執行の猶予がなされるのは、前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者、または、前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者でなければならない。

 執行猶予は、上記の者が、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けた場合に、情状によって許される[同条1項]。

 「前に」とは、執行猶予の判決の言渡しの前に、という意味であり、既に刑に処せられた罪が現に審判すべき犯罪の前後いずれに犯されたかは問わない。

<執行猶予の要件>

 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を猶予された者が、1年以上の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときにも、その執行を猶予することができる。ただし、25条の2第1項の規定によって保護観察に付せられ、その期間内にさらに罪を犯した者については、再度の執行猶予は許されない。

 初度の執行猶予の場合と異なり、再度の執行猶予の場合には、猶予の期間中は必要的に保護観察に付さなければならない[25条の2第1項]。

 執行猶予の期間は、初度か再度かを問わず、裁判が確定した日から1年以上5年以下である[25条1項]。

<刑の執行猶予の取り消し>

 刑の執行猶予は、一定の事由がある場合には取り消される。取消しが確定すると、判決で言い渡された刑罰が現実に執行される。
 刑法は、刑の執行猶予の取消事由として、必要的取消事由[26条]と任意的取消事由[26条の2]の2種類を定めている。

■ 必要的取消し

@ 猶予の期間内にさらに罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき[26条1項]。
A 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき[同条2項]。
B 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき[同条3号]。

■ 任意的取消し

@ 猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき[26条の2第1号]
A 25条の2第1項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき[2号]。
B 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その執行を猶予されたことが発覚したとき[3号]。

<刑の執行猶予の効果>

 刑の執行が猶予される。
 しかし、刑の言渡しは存在したのであるから、刑の言渡しに伴う法的不利益を免れるものではない。たとえば、その施行猶予が、次の刑の執行猶予を制限する事由となり[25条2項]、また、法令による一定の資格制限の事由となる[国家公務員法38条・裁判所法46条等]。

 刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過した時は、刑の言渡しは、効力を失う[27条]。[刑の言渡しは、効力を失う」とは、単に刑の執行が免除されるだけでなく、刑の言渡しの効力が将来的に消滅するという意味である。

<第25条>[執行猶予]

@ 次に掲げる者が、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
ニ 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

A 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第1項の規定に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第1項の規定により保護観察に付され、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

■ 判例の趣旨に照らせば、執行猶予の期間中の者に懲役刑を言い渡す場合には、その刑の執行を猶予することができる。

<解説>

 刑の執行猶予の対象となる者は、再度の施行猶予については、「前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を猶予された者」[25条2項]である。
 そして、下級審は、「執行を猶予された者」とは、裁判時において現に執行猶予中の者を指すとする。したがって、執行猶予中の者に懲役刑を言い渡す場合には、再度の執行猶予の問題となり、25条2項の他の条件[1年以下の懲役刑の言渡しでかつ情状が特に酌量すべき者であること]をみたせば、刑の執行を猶予することができる。

■ 判例の趣旨に照らせば、執行猶予の判決が確定した後、その確定前に犯した罪について刑を言い渡す場合には、その刑の執行を猶予するこができる。

<解説>

 判例は、併合罪の関係にある罪数が前後して起訴され、前に起訴された罪について執行猶予が確定した後、後に起訴された余罪が同時に審判されていたならば一括して執行猶予が言い渡されていたであろうときは、後に起訴された施行猶予確定前に犯した余罪について、25条1項によりさらに執行猶予を言い渡すことができるとする。
 これは、仮に同時に審判されていたならば、一括して25条1項により刑の執行猶予がなしえたはずであることを考慮したのである。

■拘留20日の刑に処する場合は、その執行を猶予することができない。

<解説>

 執行猶予を付することのできる刑は、懲役、禁錮、罰金である。したがって、拘留に執行猶予を付することはできない。

■ 罰金100万円の刑を言い渡す場合には、その刑の執行を猶予することができない。

 執行猶予を付することのできる刑は、懲役・禁錮・罰金であり、そのうち、罰金刑につき執行猶予を付することができるのは、初度の執行猶予の場合だけである。そして、初度の執行猶予については、法定の条件をみたす者が「50万円以下の罰金」の言渡しを受けた場合[25条1項]に、執行猶予を付することができるとされている。したがって、罰金100万円の刑を言い渡す場合には、執行猶予を付することはできない。

■ 「前に禁錮以上の刑を受けてその執行を終わった者に懲役3年の刑を言い渡す場合には、その刑の執行を猶予することができない」というわけではない。

<解説>

 前に禁錮以上の刑を受けてその執行が終わった者に対しては、その執行を終わった日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがなければ、懲役3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金を言い渡す場合に限り、刑の執行を猶予することができる。

■ 懲役2年の刑の執行猶予の期間中に再び犯罪を犯し、禁錮1年6月の刑に処する場合には、さらにその執行を猶予することができない。

<解説>

 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を猶予された者が、1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときには、再度の執行猶予を認めることも可能である。
 しかし設問は、禁錮1年6月の刑の言渡しを受けた場合であるから、再度の執行猶予を認めることはできない。

■ 禁錮刑の執行猶予期間に新たな罪を犯した者に対し、執行猶予期間が経過しない時点で、その新たな罪につき、保護観察に付さない執行猶予付き懲役刑を言い渡すことは、法律上許されない。

<解説>

 禁錮刑の執行猶予期間中に新たな罪を犯した者に対し、執行猶予期間が経過しない時点で、その新たな罪につき1年以下の懲役又は禁錮の言渡しをする際に、再度、その刑の執行を猶予すること自体は可能である。
 しかし、再度の執行猶予の場合には、必要的に、その執行猶予期間中保護観察に付さなければならない。これは、刑の言渡しと同時に判決で言い渡される。
 したがって設問において、その新たな罪につき、保護観察に付さない執行猶予付き懲役刑を言い渡すことは、法律上許されない。

■ 懲役刑の執行を猶予されて保護観察に付された者が、その保護観察期間中に犯した詐欺罪については、再び執行猶予にすることはできない。

<解説>
 
 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を猶予された者が、1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に斟酌すべきものがあるときには、執行猶予を認めることが可能である。
 ただし、執行を猶予された者が保護観察に付され、その保護観察期間内にさらに罪を犯した者については、執行猶予は許されない。したがって、懲役刑の執行を猶予されて保護観察に付された者が、その保護観察期間中に犯した詐欺罪については、再び執行猶予にすることができない。

■ 執行猶予の期間中の者に禁錮以上の実刑判決が言い渡された場合には、執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。

<解説>

 執行猶予の取消しとして刑法は、必要的取消しと任意的取消しの2種類を定めている。取消しが確定すると、判決で言い渡された刑罰が現実に執行される。
 必要的取消事由は、@執行猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき、A猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき、B猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき、である。
 設問においては、執行有の期間中の者に禁錮刑の実刑判決が言い渡された場合であるので、必要的取消事由の@執行猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮刑に処せられ、執行猶予がふされなかったとき、あるいはA猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮刑に処せられ、執行猶予が付されなかったとき、のいずれかにあたる。よって、裁判所は執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。

刑法総論終わり、つづく・・・

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2012年02月11日

独学院 刑の加重・減軽から

おはっす、参りましょう。

<刑の加重・減軽>

 刑罰法規の各条項に規定されている刑を法定刑というが、具体的な犯罪に対して法定刑を適用するに際して、刑の加重・減軽事由が存する場合には、法定刑に一定の加重・減軽が行われる。

 この場合に、法定刑に一定の加重・減軽を施して得られた刑を、処断刑という。この処断刑の範囲内において、具体的に決定され言い渡される刑を、宣告刑という。

 刑の加重・減軽事由には、法律上のものと裁判上のもとがある。法律上の加重・減軽事由とは、法律で刑の加重・減軽事由が定型化されている場合をいい、裁判上の加重・減軽事由とは、刑の加重・減軽が裁判官の判断に委ねられている場合をいう。

<刑の加重・減軽事由>

・法律上の刑の加重事由には、併合罪加重[45条]と累犯[再犯]加重[56条]とがある。

・法律上の刑の減軽事由には、必ず減軽すべき場合である必要的減軽事由と裁判官の裁量に委ねられている場合である任意的減軽事由とがある。

 必要的減軽事由には、従犯減軽[63条]、心神耗弱による減軽[39条2項]等があり、刑の免除と選択的に規定されているものとして、中止犯[43条ただし書き]等がある。

 任意的減軽事由には、未遂犯[同条本文]、過剰防衛[36条2項]、過剰避難[37条1項ただし書き]、法律の不知[38条3項]、自首[42条]等がある。

・裁判上の刑の減軽事由とは、酌量減軽の場合[66条]をいう。

<累犯>

 累犯とは、法律上の刑の加重事由の1つである。広義では、確定裁判を経た犯罪に対して、その後に犯された犯罪を意味するが、狭義では、広義の累犯のうち、一定の要件を具備することによって刑が加重されるものをいう。
 刑法の規定する累犯[再犯]の要件は次の通りである[56条]。この要件を満たす場合、後犯は再犯[累犯]とされる。

@ 前犯として懲役に処せられた者、又はこれに準ずるべき者であること。

A 前犯の刑の執行を終わった日、又はその執行の免除を得た日から5年以内に後犯が犯されたこと。

B 後犯についても、犯人を有期懲役に処するときであること。

 再犯の刑は、その罪について定めた懲役の長期の2倍以下とする[57条]。3犯以上の者についても、再犯の例による[59条]。

<第56条>[再犯]

@ 懲役に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときは、再犯とする。

A 懲役に当たる罪と同質の罪により死刑に処せられた者がその執行の免除を得た日又は減軽により懲役に減軽されてその執行を終わった日若しくはその執行の免除を得た日から5年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときも、前項と同様とする。

B 併合罪について処断された者が、その併合罪のうちに懲役に処すべき罪があったのに、その罪が最も重い刑ではなかったため懲役に処せられなかったものであるときは、再犯に関する規定の適用については、懲役に処せられたものとみなす。


■ 累犯加重は有期の懲役に処すべき場合に行われる。

<解説>

 累犯加重は、有期の懲役に処すべき場合に行われるのであり、禁錮に処すべき場合には累犯加重は認められない。

■ 累犯加重は懲役刑の執行中にさらに罪を犯し有期懲役に処する場合には行われない。

<解説>

 懲役に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年時内にさらに罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときに、累犯加重がなされる[56条1項]。
 したがって、累犯加重は懲役刑の執行中に更に罪を犯し有期懲役に処する場合には行われないことになる。

<自首>

 自首とは、罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に、自発的に自己の犯罪事実を申告し、その処分を求める行為をいう[42条1項]。
 同条同項は、自首が認められると「その刑を減軽することができる」と規定している。すなわち、自首は刑の任意的減軽事由とされている。

 「捜査機関に発覚する前に」とは、犯罪事実が全く捜査機関に発覚していない場合、及び犯罪事実は発覚していても、その犯人が誰であるかが発覚していない場合を含むが、犯罪事実及び犯人が誰かは発覚していて、単に犯人の所在だけが不明な場合は含まれない。

 自首は、犯人が自発的に自己の犯罪事実を捜査機関に申告することを必要とするが、申告の方法については、自ら直接行う場合はもちろん、他人を介する場合でもよく、書面でも口頭でもよい。

 また、自首は自発的なものであることを要するので、捜査機関の取調べに応じて、自己の犯罪事実を申告しても自首にはならない。

<第42条>[自首等]

@ 罪を犯した者は捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。

A 告訴がなければ公訴を提起することができない罪について、告訴をすることができる者に対して自己の犯罪事実を告げ、その措置に委ねたときも、前項と同様とする。

■ 罪を犯しても進んで捜査機関に自首した者については、刑が免除されることはなが、その刑を減軽することができる。

<解説>

 罪を犯した者が、捜査機関に発覚する前に自首した時は、その刑を減軽することがきる。すなわち、自首は任意的な刑の減軽事由であり、必要的に減軽されるわけではない。

■ 捜査機関が事件の発生を知った後でも、犯人を何ら特定しないでいる段階で進んで自己の犯罪である旨を申告すれば、自首に当たる。

<解説>

 自首とは、罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に、自発的に自己の犯罪事実を申告し、その処分を求める行為をいう。
 「捜査機関に発覚する前に」とは、犯罪事実が全く捜査機関に発覚していない場合、及び犯罪事実は発覚していても、その犯人が誰であるかが発覚していない場合を含むが、犯罪事実及び犯人が誰かは発覚していて、単に犯人の所在だけが不明な場合は含まれない。
 したがって、捜査機関が事件の発生を知った後でも、犯人を何ら特定し得ないでいる段階で進んで自己の犯行である旨を申告すれば、自首に当たる。

■ 親告罪については、捜査機関に申告しなくても、告訴権を有する者に自己の犯罪事実を申し出れば、自首したと同じ法的効果が発生する。

<解説>

 告訴がなければ公訴を適することができない罪[親告罪]について、告訴をすることができる者[告訴権者]に対して自己の犯罪事実を告げ、その措置を委ねることも、自首と同様に、刑の任意的減軽事由となる[42条2項]。
 自首を任意的減軽事由とした趣旨は、犯罪の捜査及び処罰を容易にするという政策的理由のみならず、改悛による行為者の責任減少という実体法的理由に基づくと解されているが、告訴権を有する者に自己の犯罪事実を申告して、その措置に委ねることは、捜査機関に対する自首と同様に、行為者に責任減少が認められるからである。
 したがって、親告罪については、捜査機関に申告しなくても、告訴権を有する者に自己の犯罪事実を申し出れば、自首したと同じ法的効果が発生する。

■ 自首は、必ずしも罪を犯した本人がする必要はなく、他人を介して捜査機関に自己の犯罪事実を申告してもよい。

<解説>

 自首は、必ずしも犯人自らする必要はなく、他人を介して自己の犯罪事実を捜査機関に申告した時も有効であるとされる。このような方法でも、行為者の改悛による責任減少が認められるからである。

<刑の免除>

 刑の免除の判決は、刑の免除自由、すなわち、法律上刑を免除すべき事由がある場合にさなれる。刑の免除事由には、必要的免除事由と任意的免除事由とがある。

 必要的免除事由には、内乱罪における自首[80条]等がある。また、刑の減軽と選択的となっている必要的免除事由として、中止犯[43条ただし書き]等がある。

 任意的免除事由には、親族間の犯人蔵匿・証拠隠滅[105条]、放火予備[113条]等がある。また、刑の減軽と選択的となっている任意的免除事由として、過剰防衛[36条2項]、過剰避難[37条1項ただし書き]等がある。

■ 中止未遂については、実害の発生をできるだけ防止しようとの政策的理由から、必ず刑を減軽又は免除するものとされている。

<解説>

 中止未遂[中止犯]とは、犯罪の実行に着手した者が、自己の意思により中止して犯罪の完成を阻止した場合をいう。中止未遂犯は、刑の必要的減免事由とされている[43条ただし書き]。

つづく・・・
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2012年02月10日

独学院 没収から

参りましょう。

<没収>

 没収とは、物について、その所有権を剥奪して国庫に帰属させる処分である。没収は付加刑であり、主刑を言い渡す場合にのみ言い渡すことができる。

 没収の趣旨は、当該物件から再び犯罪が起こることをの防止ということと、犯罪から得た利益を不当に犯罪者に得させないように、国家がこれを剥奪しようということの2つの理由に基づいていると解されている。

 没収には、任意的没収と必要的没収の2つがある。任意的没収とは、没収の要件を満たしていても、対象物を没収するしかしないかは、裁判官の裁量に委ねられているものをいう。必要的没収とは、要件を満たしている限り、必ず対象物を没収しなければならないものをいう。

 任意的没収の一般規定として19条がある。必要的没収については、刑法各論や特別法に規定されている。それらは、一般法である19条の特別法といえる。必要的没収の典型例として、賄賂の没収がある[197条の5]

<没収の対象物>

 没収の対象となるのは、次の4種のものである。

@ 犯罪行為を組成した物[組成物件][1号]
たとえば、偽造文書行使罪における偽造文書や賭博罪における賭金がこれにあたる。

A 犯罪行為の用に供し、または供しようとした物[供用物件][2号]
たとえば、殺人にもちいた凶器がこれにあたる。しかし、被害者を足蹴にしたときに履いていた靴は、犯人がこれを犯行の用に供する意思で着用していたのではなく、たまたま犯行に役立ったにすぎないのであるから、供用物件にはあたらない。

B 犯罪行為によって生じた物[生成物件]、犯罪行為によって得た物[取得物件]または犯罪行為の報酬として得た物[報酬物件][3号]
 生成物件の例としては、通貨偽造罪における偽造通貨、取得物件の例として、恐喝行為によって得た証書、報酬物件の例として、殺人行為の謝礼金等を挙げることができる。

C 3号に掲げる物の対価として得た物[対価物件][4号]
 たとえば、盗品等の売却代金がこれにあたる。

<没収の要件>

@ 対象物が存在すること

 没収の対象となり得る物は、原則として、19条1項に規定された物自体でなければならない。その物が滅失した場合や、その物との同一性が失われた場合は、没収することができない。金銭は、両替しても同一性を失わないので、没収することができる。
 また、主物を没収する場合には、従物も没収できる。たとえは、刀を没収するときは、その鞘も没収できる。

A 対象物が犯人以外の者に属していないこと

 没収は、犯人以外の者に属しない物に限り、これをすることができる[19条2項本文]。ただし、犯人以外の者に属する物であって、犯罪の後に犯人以外の者が情を知って取得したものであるときは、これを没収することができる[同条同項ただし書き]。
「犯人」には、共犯者も含まれる。

B 拘留・科料のみにあたる罪でないこと

 拘留又は科料のみにあたる罪については、特別の規定がなければ、没収をすることができない。ただし、組成物件の没収については、この限りではない。
 「拘留又は科料のみにあたる罪」とは、法定刑として拘留又は科料のみが規定されている罪をいい、侮辱罪[231条]がこれにあたる。


■ 犯人の所有に属する物件のうち、賄賂として提供したが受領を拒絶された金であっても没収することができる。

<解説>

 受領を拒絶されたとしても、賄賂として提供した金は、犯罪の用に「供しようとした物」として没収の対象となる。
 したがって、犯人の所有に属する物件のうち、賄賂として提供したが受領を拒絶された金であっても没収することができる。

■ 犯人の所有に属する物件のうち、殺人に使用した刀のさやも没収することができる。

<解説>

 殺人に使用された刀自体は、犯罪行為に供した物[供用物件]として没収することができる。
 そして、主物を没収する場合には、従物も没収できる。判例も、刀を没収するときは、その鞘も没収することができるとする。したがって、犯人の所有に属する物件のうち、殺人に使用した刀のさやも没収することができる。

■ 強制執行を免れるために通謀して仮装譲渡した自家用車は、刑法上の没収の対象になる。

<解説>

 設問のような、強制執行を免れるために自家用車を他人と通謀して仮装譲渡する行為については、強制執行妨害罪が成立する[96条の2]。したがって、設問の仮装譲渡された自家用車は、犯罪行為を組成した物[組成物件]として、刑法上の没収の対象となる。

■ 賭博で得た金銭を自己の銀行口座に預託して得た預金利子は、刑法上の没収の対象にならない。

<解説>

 とばくで得た金銭自体は、犯罪行為によって得た物[取得物件]として没収できる。しかし、賭博で得た金銭を自己の銀行口座に預託して得た預金利子は、19条1項各号のいずれにも該当しないと言わざるを得ない。
 したがって、賭博で得た金銭を自己の銀行口座に預託して得た預金利子は、刑法上の没収の対象にならない。

■ 違法な堕胎手術に対する報酬として得た金銭は、刑法上の没収の対象になる。

<解説>
 
 違法な堕胎手術は犯罪であるから、その報酬として得た金銭は、「犯罪行為の報酬として得た物」として没収の対象となる。


<追徴>

 追徴とは、没収が不可能な場合に、それに代わる一定の金額を国庫に納付すべきことを命ずる処分をいう。刑罰ではないが、付加刑としての没収に準ずる。
 19条の2が規定する追徴は、任意的追徴であるが、没収と同様、追徴が必要的であるとされる場合がある。
 追徴額の算定基準時について、判例によれば、没収に代えて追徴すべき金額は、その物の授受当時の価額によるとされる。

つづく・・・
タグ:刑法
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2012年02月09日

独学院 刑罰の種類から

いつもの通り、参りましょう。

<刑罰の種類>

 刑法において規定されている刑罰は、死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料があり、以上を主刑とし、没収を付加刑としている。

 主刑とは、それ自体を独立に科しうる刑罰をいい、付加刑とは、主刑を言い渡す場合に、これに付加してのみ科しうる刑罰をいう。

 死刑とは、生命刑、すなわち、受刑者の生命を剥奪する刑罰をいう。

 懲役、禁錮及び拘留は、いずれも、現行刑法上の自由刑であって、受刑者を拘禁してその自由を剥奪することを内容とする刑罰である。

 罰金及び科料は、いずれも、一定の金額を受刑者から剥奪することを内容とする財産刑である。

 没収とは、物について、その所有権を剥奪して国庫に帰属させる処分をいう。没収は付加刑である。

<自由刑>

 自由刑とは、受刑者を拘禁してその自由を制限する刑罰をいう。現行刑法においては、自由刑として懲役、禁錮及び拘留が規定されている。

 懲役と禁錮の差異は、懲役では、受刑者は「所定の作業[刑務作業]に服させられるが、禁錮ではそれがない点にある。

 懲役・禁固と拘留の差異は、期間の長短にある。すなわち、拘留は、1日以上30日未満で、刑事施設に拘留される。拘留は比較的軽微な罪の法定刑として規定されたものだからである。

 これに対して、懲役及び禁錮は、どちらも無期及び有期とされ、有期の懲役及び禁固は1月以上20年以下とされている。

 なお、死刑又は無期の懲役若しくは禁固を軽減して有期の懲役又は禁固とする場合においては、その長期を30年とし、有期の懲役又は禁固を加重する場合には、30年までに引き上げることができ、これを軽減する場合には、1月未満に下げることができる。

<財産刑>

 財産刑とは、受刑者の一定の財産を剥奪する刑罰をいう。現行刑法においては、財産刑として罰金及び科料が規定されている。

 罰金は1万円以上とし、科料は1000円以上1万円未満とされる。罰金又は科料を完納することができない者に対しては、刑事施設に付設された労役場に留置され、労役を科されるという労役場留置の制度が設けられている。

 労役場留置の期間は、罰金については、1日以上2年以下、科料については、1日以上30日以下、罰金を併科した場合又は罰金と科料とを併科した場合は、1日以上3年以下、科料を併科した場合は、1日以上60日以下である。

 判決において罰金や科料の言渡しを行うときは、その言渡しとともに罰金又は科料を完納することができない場合における労役場留置の期間を定めてこれを言い渡す。実務においては、「被告人を罰金20万円に処する。右罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。」といった判決主文が言い渡される。

<第9条>[刑の種類]

 死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。

<第10条>[刑の軽重]

@ 主刑の軽重は、前条に規定する順序による。ただし、無期の禁錮と有期の懲役とでは禁錮を重い刑とし、有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期の2倍を超えるときも、禁錮を重い刑とする。

A 同種の刑は、長期の長いもの又は多額の多いものを重い刑とし、長期又は多額が同じであるときは、短期の長いもの又は寡額の多いものを重い刑とする。

B 2個以上の死刑又は長期若しくは多額及び短期若しくは寡額が同じである同種の刑は、犯情によってその軽重を定める。


■ 科料を完納することができない者については、裁判確定後10日以内は、本人の承諾がなければ、労役場に留置することができない。

<解説>

 科料を完納することができない者には、裁判が確定した後10日以内は、本人の承諾がなければ労役場留置の執行をすることができない。この規定を反対解釈すれば、裁判確定後10日以内であっても、本人の承諾があれば、労役場に留置することができる。

■ 罰金を完納することができない者について、裁判確定後30日以内は、本人の承諾がなければ、労役場に留置することができない。

<解説>

 罰金を完納することができない者については、裁判確定後30日以内は、本人の承諾がなければ労役場留置の執行をすることができない。すなわち、裁判確定後30日以内であっても、本人の承諾があれば、労役場に留置することができることになる。

■ 法人が罰金を完納することができない場合においても、その法人の代表者を労役場に留置することはできない。

<解説>

 現行刑法上、法人が罰金を完納することができない場合に、その法人の代表者を労役場に留置することを認める規定は存在しない。したがって、現行刑法の下においては、法人が罰金を完納することができない場合においても、その法人の代表者を労役場に留置することは認められない。

■ 少年については、科料を完納することができない場合においても、労役場に留置することがはできない。

<解説>

 少年に対しては、労役場留置の言渡しをすることができない。これは、その執行による弊害[悪風感染のおそれ等]を考慮したためと解されている。

つづく・・・
タグ:刑法
posted by 94条2項の類推適用されずじまい at 10:07| Comment(0) | 刑法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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