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2012年02月29日

独学院 放火罪の保護法益から

参りましょう。

<放火罪の保護法益>

 放火罪は、放火によって住居、建造物等を焼損し、公衆の生命・身体・財産に対して危険を生じさせる犯罪である。
 保護法益は複合的なものであり、具体的には次のように解されている。

 まず、本罪は公共危険罪である。したがって、不特定又は多数人の生命・身体・財産の安全が第1次的な保護法益である。

 また、本罪は、放火の目的物である住居・建物等について、人が現に住居に使用[現在]し、又は現に人がいる[現在]かどうかによって法定刑を異にしている。これは、本罪が2次的には人の生命・身体の安全を保護法益としているからであると説明される。

 すなわち、人が現住する建造物に対する放火[現住建造物等放火罪]の刑は、死刑、無期懲役又は5年以上の懲役であり、殺人罪[死刑、無期懲役又は5年以上の懲役]と刑が等しいのに比し、人が現住していない建造物に対する放火[非現住建造物等放火罪]については、死刑も無期懲役もなく下限も懲役2年である。これほどの刑の軽重が設けられたのは、本罪が人の生命・身体に対する罪としての性格を有するからに他ならない。

 さらに、本罪は、財産犯的性格、特に毀棄罪[損壊罪]の性格をも持ち合わせている。目的物が自己所有であるか他人所有であるかによって法定刑に大きな差異を設けているからである。そのため本罪は、人の財産をも保護法益とするものであるといえる。

<放火罪の種類>

 放火罪には、主に次のような種類があり、それぞれ放火の目的物が何であるかによって区別される。

@ 現住建造物等放火罪[108条]・・・現に人が住居に使用し、又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱抗[こうこう]
A 非現住建造物等放火罪[109条]・・・現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱抗
B 建造物等以外放火罪[110条]・・・@A以外の物[例えば、自動車、人の現在しない電車]

 非現住建造物等放火罪及び建造物等以外放火罪については、その目的物が、他人の所有するものであるか[他人所有]、自己の所有する物であるか[自己所有]によって法定刑に差が設けられている。
 また、非現住建造物等放火罪が自己所有の物に係る場合、及び建造物等以外放火罪[他人所有・自己所有]については、放火によって目的物が焼損するだけでなく、公共の危険を生じさせることが必要である。

<抽象的危険犯と具体的危険犯>

 現住建造物等放火罪及び非現住建造物等放火罪[他人所有]については、放火により目的物が焼損すればよく、具体的な公共の危険の発生は不要である[抽象的危険犯]。所定の目的物に対する放火により、公共の危険が発生したものと擬制されるのである。

 これに対し、非現住建造物等放火罪[[自己所有]及び建造物以外放火罪については、放火による焼損だけでなく、具体的に公共の危険の発生が必要である[具体的危険犯]。
 判例は、110条に関して、「公共の危険」とは、一般不特定の多数人をして、他の建造物等に延焼する結果を発生するおそれがあると思わせるのに相当な状態をいう。

<現住者等の承諾の効果>

 放火罪は、公共危険罪であるとともに、建造物等に現在する人の生命・身体に対する罪としての側面や財産犯的側面も有することから、現住者等が承諾し、又は現住者等が行為者になることによって、成立する犯罪が異なる場合がある。

 建造物等の現住者が放火を承諾すると、現住建造物等放火罪[108条]ではなく、非現住建造物放火罪[109条]となる。これは、放火罪が人の生命・身体に対する罪としての側面を有するため、現住者の承諾があれば、人の現住しない建造物等と同視されることになるからである。

 なお、放火犯人が1人で住居している場合には、現住者の承諾があったのと同じであるから、非現住建造物等放火罪として処断される。
 また、建造物等の所有者が放火を承諾すると、他人所有物の放火ではなく、自己所有物の放火として扱われる。これは、放火罪が財産犯的性格を有するからである。
 なお、現住建造物等放火罪[108条]については、その犯罪性が重大であることから、その建造物等に現住していない所有者が承諾していても、何ら犯罪の成否に影響を及ぼさない。

<放火・焼損の意味>

 「放火」とは、目的物の焼損を生ぜしめることをいい、それによって目的物が「焼損」に至れば既遂となる。

◆「焼損」の意義
≪独立燃焼説≫[最判]
 火が媒介物[火を付けた新聞紙等]を離れて目的物に燃え移り、独立に燃焼する状態に達したこと。

≪燃え上がり説≫
 目的物が「燃え上がったこと」、つまり、目的物の重要な部分が燃焼を開始したこと

≪効用喪失説≫
 火力により目的物の重要な部分を失い、その本来の効用を喪失したこと

≪毀棄説≫
 火力により目的物が毀棄罪にいう損壊の程度に達したこと


≪独立燃焼説≫
 火が媒介物[人つけた新聞紙等]を離れて目的物に燃え移り、独立に燃焼する状態に達したこと。
[理由]
・放火罪は公共危険罪であり、目的物が独立燃焼するに至った時点で公共の安全に対する危険が現実化したといえる。→目的物の損壊を要せず、目的物の効用を喪失しなくても、放火罪が完成する。

≪燃え上がり説≫
 目的物が「燃え上がったこと」、つまり、目的物の重要な部分が燃焼を開始したこと。
[理由]
・独立燃焼説では既遂時期が早すぎ、中止未遂が成立する余地が著しく狭い。そこで、単なる目的物の燃焼ではなく、重要な部分の燃焼を要求すべきである。

≪効用喪失説≫
 火力により目的物の重要な部分を失い、その本来の効用を喪失したこと。
[理由]
・放火罪の財産犯としての性格を反映させるべきである。

≪毀棄説≫
 火力により目的物が毀棄罪にいう損壊の程度に達したこと。
[理由]
・「焼損」とは、本来、火力によって物を損傷するという意味である。
・物の効用が喪失するまで既遂に達しないとすると、公共危険罪としての性格が損なわれる。損壊の程度に達すれば、公共の安全に対する抽象的な危険が発生したと認められる。

 近年は、耐火性の建造物が増加しており、独立燃焼説の限界が問題になっている。
 耐火性の建造物では、独立に燃焼する状態に達しないまま有毒ガスの発生等により公共の危険が生じるからである。
 毀棄説によれば、目的物の燃焼の有無にかかわらず、火力による目的物の損壊の程度によって既遂を判断することができる。また、独立燃焼に至らなくても、延焼の危険が発生する程度に酸化し高温になった時点で既遂とすべきからであるとする見解も有力である。

<現住建造物等放火罪>

 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱抗を焼損した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処せられる[108条]。

 客体は、現住建造物又は現在する建造物等である。
 「建造物」とは、家屋その他これに類する工作物であって、屋根があり壁又は柱によって支持され、土地に定着して人の起居・出入に適する構造の物をいう。したがって、畳、建具は建造物には含まれず、器物損壊罪の客体となる。また、飛行機は、本罪の客体とはならない。

 「現住」、つまり現に住居に使用するとは、人が日常生活を営む場所として利用されていることを意味する。留守であっても「現住性」は失われない。
 例えば、家人全員を殺害してから、その家屋の放火行為に及ぶ場合には、家人全員が死亡した時点で、居住者がいなくなったことから、現住性が失われる。この場合は、非現住建造物等放火罪[109条]が成立する。

 「現在」、つまり現に人がいるとは、放火行為の当時その内部に人がいることをいう。人の生命・身体に対する危険性がこわめて高いので、重く処罰される。

 本罪の故意は、所定の建造物等について現住性又は現在性があること、及び放火によってその客体を焼損することの認識である。

<客体の1個性・独立性>

 複数の建物が廊下でつながっているような場合や、耐火建築物、マンションの非現住部分の1室などは、部分に着目すれば「非現住建造物」にみえるが、全体的にみると「現住建造物」にみえる場合がある。このような場合には、何を基準として客体の1個性・独立性を考えるべきかという問題がある。

 判例は、平安神宮社殿が放火された事件において、その社殿が回廊によって人の現住する社務所や守衛詰所を一周できる構造になっており、社務所等への延焼可能性があったことから、現住建造物等放火罪の成立を認めた。
 すなわち、「社殿は、その一部に放火されることにより全体に危険が及ぶと考えられる一体の構造であり、また、全体が一体として日夜人の起居に利用されていたものと認められる。そうすると、右社殿は、物理的に見ても、機能的に見ても、その全体が1個の現住建造物であったと認めるのが相当である」とした。

 また、マンション内のエレベータのかごに放火した事件において、エベレータ―は、マンションの各居住空間の部分とともに、一体となって住宅として機能し、現住建造物であるマンションを構成しているとして、現住建造物等放火罪を認めた。

<客体に関する判例[要旨]>
◆≪判例S25.12.14≫
 畳や建具等の家屋の従物が現住建造物等放火罪の客体となる建造物たる家屋の一部を構成するには、畳や建具等が単に家屋の一部に取り付けられているだけでは足りず、当該家屋を毀損しなければ取り外せない状態にあることを要する。したがって、取外しが自由な畳を焼損しても、本罪の既遂には達しない。

◆≪大判M45.3.12≫
 庁舎と独立した建造物である宿直室は、「人の住居に使用する」建造物である。

◆≪最判S24.6.28≫
 絶えず人が出入りするわけではない別棟の待合客用の離れ座敷になっている建造物であっても、営業上客が出入りし、起臥侵食の場所として使用されている場合は、現住建造物にあたる。

◆≪最判H9.10.21≫
 競売手続の進行を妨げる目的で、従業員を、休日以外の毎日交代で宿泊させていた家屋は、この従業員が旅行に連れ出され不在であっても、従業員が旅行から帰れば再びこの家屋での宿泊が続くと認識していた場合には、「現に人が居住に使用」する建造物にあたる。

<非現住建造物等放火罪>

 放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱抗を焼損した者は、2年以上の有期懲役に処せられる[109条1項]。
 上記の物が自己の所有に係るときは、6月以上7年以下の懲役に処せられる。ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない[同条2項]。

 1項は、他人所有物の放火、2項は、自己所有物の放火である。
 自己所有物であっても、@差押えを受け、A物権を負担し、B賃貸し、C保険に付した場合は、他人所有物として扱われる[115条]。

 非現住建造物等放火罪が他人所有に係る場合は、抽象的危険犯であり、焼損をもって既遂となる。自己所有に係る場合には、公共の危険が発生しなければ処罰されない。「公共の危険」とは、一般不特定の多数人をして、他の建造物等に延焼する結果を発生するおそれがあると思わせるのに相当な状態をいう。

 本罪の故意は、他人所有の場合には、@他人の所有であること、A非現住・非現在であること、B放火して客体を焼損することの認識が必要である。自己所有の場合には、@が自己所有であることの認識である。
 判例は、自己所有の場合について、焼損の結果、公共の危険を発生させることまでの認識は不要としているものと考えられる。

<非現住建造物等放火罪に関する判例[要旨]
◆≪大判S7.5.5≫
 1人で居住する者が自己の住居に使用する他人の所有の建造物に放火した場合は、他人所有の非現住建造物の目的物に放火に該当する。

◆≪大判T6.4.13≫
 父母を殺害し、その後その死体のある家屋を焼損した場合、他に住居者や現住者がいないときは、非現住建造物等放火罪にあたる。

<建造物等以外放火罪>
 
 放火して、現住建造物等放火罪、非現住建造物等放火罪に規定する以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、1年以上10年以下の懲役に処せられる[110条1項]。
 上記の物が自己の所有に係るときは、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられる[同条2項]。

 本罪の客体は、例えば、自動車、航空機、畳、建具、産業廃棄物である。このような客体を放火により焼損し、公共の危険を生じさせた場合に限り、罰せられる。

 本罪の故意として、目的物の焼損の事実以外に、公共の危険が生じることの認識までも必要かどうかが問題となる。

 判例は、公共の危険が生じることの認識は不要であると解している。条文上「よって」公共の危険を生じさせとあることから、本罪は、公共の危険の発生という重い結果が生じた場合の結果的加重犯であるとし、結果の発生について認識を必要としないと解している。

<建造物等以外放火罪に関する判例[要旨]>

◆≪大判M44.2.24≫
 建造物等以外放火罪の「公共の危険」とは、一般不特定の多数人が、放火罪における現住建造物等や非現住建造物等に延焼するおそれがあると思わせるのに相当な状態をいう。

◆≪最判H15.4.14≫
 建造物等以外放火罪の「公共の危険」とは、放火罪における現住建造物等や非現住建造物等への延焼の危険のみに限られるものであはなく、不特定多数の人々の生命身体のみならず、建造物等以外の財産に対する延焼の危険をも含まれる。 

<延焼罪>

 自己所有に係る非現住建造物等放火罪又は、自己所有に係る建造物等以外放火罪を犯し、よって現住建造物等放火罪、他人所有に係る非現住建造物等放火罪に規定する物に延焼させたときは、3月以上10年以下の懲役に処せられる[111条1項]。

 自己所有に係る建造物等以外放火罪を犯し、よって、他人所有に係る建造物等以外放火罪の規定する物に延焼させたときは、3年以下の懲役に処せられる[同条2項]。

 いずれも結果的加重犯であり、所定の基本犯[109条2項・110条2項]が成立したことを要する。
 延焼の結果について認識がある場合には、その客体について放火罪が成立する。つまり、自己所有の自動車を放火により焼損する際に、人が現住する隣の住宅に延焼するかもしれないという認識があり、自動車を焼損した結果、隣の住宅まで延焼した場合には、現住建造物等放火罪[108条]が成立する。

<放火罪の罪数>

 数個の放火行為によって数個の現住建造物を焼損した場合、それが、1個の公共の危険を発生させたにすぎなければ、現住建造物等放火罪[108条]が1個だけ成立する。これは、放火罪の保護法益が第1次的には公共の安全だからである。

 現住建造物を焼損する目的で、非現住建造物を媒介として利用し、これに放火して焼損させたが、現住建造物には燃え移らなかったという場合、現住建造物等放火罪の未遂罪のみが成立する。
 この場合、既遂の非現住建造物等放火罪が成立するようにみえるが、これは重い現住建造物等放火未遂犯に吸収される。

 また、現住建造物に延焼させる目的で、自己所有の物置等に放火し、これを焼損するだけで終わったような場合も、現住建造物等放火罪の未遂罪のみが成立する。

 放火罪は、毀棄罪[損壊罪]としての性格を有する。現住建造物を焼損する場面で、家具等さまざまな器物を損壊していく過程を想像すれば、理解しやすい。放火による文書や器物等の損壊は放火罪の通常の因果の流れとして把握されているといえる。したがって、放火罪が成立するときには、放火による毀棄罪は、成立しない。

つづく・・・
タグ:刑法各論
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2012年02月27日

独学院 毀棄・隠匿の罪から

参りましょう。

<毀棄・隠匿の罪>

 毀棄・隠匿の罪は、公用文書等毀棄罪[258条]、私用文書等毀棄罪[259条]、建造物等損壊罪及び同致死傷罪[260条]、器物損壊等の罪[261条]、境界損壊罪[262条の2]、信書隠匿罪[263条]から成る。

 これらは、いずれも、「他人の財物の効用を害しその利用を妨げる罪」である。他人の財物を不法に領得する「領得罪」と異なり、単に利用を妨害するにとどまるため、刑が軽いと解されている。
 私用文書等毀棄罪[259条]、器物損壊等の罪[261条]、信書隠匿罪[263条]は、親告罪である[264条]。

<公用文書等毀棄罪>

 公務の用に供する文書または電磁的記録を毀棄した者は、3月以上7年以下の懲役に処せられる[258条]。

[1]客体
 「公務所の用に供する文書」とは、公務所において現に使用され、又は使用の目的で保管される文書をいう。
 「私文書であっても、警察が証拠物として保管中のもの」であれば、公務所が使用するための文書として、公用文書とされる。
 「電磁的記録」とは、電子的方式、磁気的方式等、人の知覚によって認識できない方式により作成された記録であって、電子計算機による情報処理の用に供せられるものをいう[7条の2]。例えば、不動産登記ファイル、住民登録ファイルがこれにあたる。

[2]行為
 「毀棄」とは、文書または電磁的記録の効用を害する一切の行為をいう。破り捨てる、印紙を剥離する等も毀棄罪である。

<出題例>

 市役所の課税台帳を閲覧中、その中の1枚を抜き取り、閲覧室内のくずかごに丸めて投げ捨てた。→公用文書等毀棄罪が成立する。公用文書を丸めて捨てることは、文書の効用を害する行為にあたるので、「毀棄」にあたる。

<私用文書等毀棄罪>

 権利又は義務に関する他人の文書または電磁的記録を毀棄した者は、5年以下の懲役に処せられる[259条]。
 「権利又は義務に関する」文書とは、権利・義務の存否・得喪・変更等を証明するための文書である。
 「他人の」文書とは、「他人名義の文書」という意味ではなく、「他人が所有する文書」という意味である。

<出題例>
 友人を訪れた際、同人に差し入れた自己名義の借用証書をほしいままに破り捨てた。→私用文書等毀棄罪が成立する。「自己名義」の文書ではあるが、「他人所有の文書」だから。

<建造物等損壊罪・同致死傷罪>

 他人の建造物又は艦船を損壊した者は、5年以下の懲役に処せられる。よって人を死傷させた者は傷害の罪と比較して重い刑により処断される[260条]。

[1]「建造物」とは、屋根を有し障壁又は柱材により支えられている状態のもので、土地に定着し、人がその内部に出入りできるものをいう。

<出題例>
 他人の家の竹垣を切り倒した。→「建造物等損壊罪」は成立しない。竹垣は「建造物」にあたらない。本問の行為は「建造物等損壊罪」ではなく「器物損壊罪」にあたる。

[2]「他人の」とは、「他人の所有する」という意味である。

[3]「損壊」とは、物理的に損壊すること、又は「その他の方法」によって、それらの使用価値を滅却若しくは減損することをいう。

★物理的損壊「以外」の方法による場合でも、「損壊」にあたり得る。

 判例は、労働争議において、建造物の壁、窓ガラス、扉等に数千枚のビラを糊付けし、その建造物の効用を害した行為について、建造物等損壊罪が成立するとした。

<器物損壊罪・動物傷害罪>

 公用文書等毀棄罪、私用文書等毀棄罪、建造物等損壊罪及び同致死傷罪に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処せられる[261条]。

[1]本罪の客体は、「『公用文書・私用文書[電磁的記録を含む]、建造物、艦船』以外の物」である。公用文書等毀棄罪、私用文書等毀棄罪の客体にあたらない電磁的記録も含まれる。
「物」とは、財物のことである。「動物」も含まれる。

[3]「損壊」とは、物の本来の効用を失わせることをいう。物理的に毀損する行為に限られない。

★「物を物理的に壊す方法『以外』の方法」でも、「損壊」にあたりうる。

≪判例上、「損壊」にあたるとされたもの≫
・学校の校庭に杭を打ち込むなどして、保健体育の授業に支障を生じさせる行為
・街頭に設置された政党の候補者ポスターに「殺人者」と書かれたシールを貼り付ける行為
・飲食用のすき焼き鍋及びトックリに放尿する行為

「傷害」とは、動物を毀棄することをいう。「物理的に殺傷すること」だけでなく、[飼主にとっての]「動物としての効用を害する行為」を含む。
 例えば、動物をオリやカゴから「逃がす」行為も「傷害」にあたりうる[養魚池の鯉を逃がす行為について、大判M44.2.27]。

<自己の物の損壊等>

 自己のものであっても、差押を受け、物権を負担し、又は賃貸したものを損壊し、又は傷害したときは、私用文書等毀棄罪、建造物等損壊及び同致死傷罪、器物損壊罪等の例によって処罰される[262条]。
 本条は、差押債権者等の財産的利益をも併せて保護する趣旨である。

<境界損壊罪>

 境界標を損壊し、移動し、若しくは除去し、又はその他の方法により、土地の境界を認識することができないようにした者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる[262条の2]。

[1]趣旨
 本罪の趣旨は、土地の権利関係の確定に重要な意義を有する「境界の明確性」を保護することである。

[2]客体
 「境界標」とは、土地の境界を示す標識をいう。立木等の自然物でもよい。他人の物でも、自己の物でもよい。

[3]行為
 「損壊し、移動し、若しくは除去し、又はその他の方法により、土地の境界を認識することができないようにすること」

 本罪が成立するには、境界を認識することができなくなるという「結果の発生」が必要である。この結果が生じないときは、器物損壊罪[261条]が成立する。

<出題例>

 自己の所有地とこれに隣接する他人の所有地との境界に、自らの費用で埋設しておいた境界標を引き抜いて、境界を不明にした。→境界損壊罪が成立する。

つづく・・・
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2012年02月26日

独学院 接盗品等に関する罪から

参りましょう。

<盗品に関する罪>

 盗品その他財産に対する罪にあたる行為によって領得された物を無償で譲り受けた者は、3年以下の懲役に処せられる[256条1項]。
 上記の物を運搬し、保管し、若しくは有償で譲り受け、又はその有償の処分のあっせんをした者は、10年以下の懲役及び50万円以下の罰金に処せられる[同条2項]。

≪盗品に関する罪の本質について≫

 盗品等に関する罪は、犯罪の被害者による被害物の追求回復を困難にする行為を罰するものである。すなわち、被害者の追求権を保護することを、その本質とする[追求権説]。
 もっとも、盗品等に関する罪は、本罪の犯罪を助成し誘発させたり、その分配にあずかるという意味で、「事後従犯的性格」を併せ持っていると解されている。

<盗品関与罪の主体>

 「本犯の正犯者[共同正犯者を含む。]」がみずから盗品等を処分するなどしても、不可罰的事後行為として罰せられなり。
 これは、本犯[窃盗罪]によって、盗品等の処分についても違法評価し尽くされており、新たな法益侵害がないと考えれられるからである。

<出題例>

 他人から宝石を預かっている者と共謀して当該宝石を処分することとし、自己において買受けた場合→盗品等に関する罪は成立しない。本犯の正犯者[共同正犯者を含む。]がみずから盗品等を処分するなどしても、不可罰的事後行為として罰せられない。

★これに対し、「本犯の教唆犯や幇助犯」が、窃盗犯人から盗品等を譲り受ける等の行為をすると、窃盗罪の教唆犯・幇助犯のほかに、盗品等に関する罪も成立する。
 窃盗教唆罪・幇助罪によって、その後の盗品等の処分まで違法評価し尽くされているとは言い難いからである。そして、教唆犯又は幇助犯と盗品等に関する罪とは併合罪[45条]。

 他人に窃盗を教唆し、その結果窃盗を実行した者から窃取した財物を買受けた場合→窃盗教唆罪と盗品等有譲受罪が成立し、両罪は併合罪[45条]となる。

<窃盗品等に関する罪の客体>

 盗品等に関する罪の客体は、「盗品その他財産に対する罪にあたる行為によって領得された物」であり、被害者が法律上追求することのできる物でなければならない[追求権説による説明]。

<客体〜財産犯によって領得された財物でなければならない>

 本罪の客体は、「財産に対する罪」、つまり窃盗罪、強盗罪、詐欺罪、恐喝罪又は横領罪によって領得された財物である。
 したがって、財産罪「以外」の犯罪の客体である偽造文書、偽造貨幣、賄賂、密輸品、賭博によって得た金銭、偽証の謝礼等は、盗品等に関する罪の客体とはなりえない。[超重要]

<客体〜本犯との関係>
「a」 本犯の行為は「構成要件該当性」「違法性」の要件を充たしていればよい。「有責性」の要件を欠く場合、刑が免除される場合、控訴事項が完成して起訴されない場合でもよい。条文上、「財産犯に『当たる』行為」とあるのは、その趣旨である。
 例えば、14歳未満の刑事未成年者[責任無能力者]によって盗まれた自動車も、「盗品」にあたる。

<出題例>

 親父から盗んできた物であることを知って、これを質受した場合→盗品保管罪[256条2項]が成立する。この場合、被害者が本犯者の直系尊属であるから、本犯者は「刑を免除」される[244条1項]。この刑法244条は「一身的処罰阻却事由」であって、本犯の行為は「構成要件該当性・違法性」に欠けるわけではない。

[b] 本犯は「既遂」に達していなければならない。例えば、窃盗を決意した者に依頼されて、その者が将来摂取すべき財物の売却をあっせんするしても、盗品有償譲受罪は成立しない。

<出題例>

 友人から窃盗の意思を打ち明けられ、盗品の買い取りを約束した場合→盗品等に関する罪は成立しない。本犯である財産犯が「既遂」に達していないからである。

<客体〜被害者が法律上追求することのできる物でなければならない>

 本罪の本質は「被害者の追求権を侵害すること」にあると解されている。よって、被害者が盗品等に対する法理上の追求権を失ったときには、本罪は成立しない。
 例えば、本犯の被害物が即時取得、添付などの対象となったときには、その物について盗品等に関する罪は成立しなくなる。

[a] 即時取得との関係

・「盗品や遺失物」については、第三者がその物を即時取得[民192条]した場合でも、盗難
・遺失の時から2年間は被害者がその物の回復を請求できるので[民193条]、被害者がこのような追求権を行使できる間は、本罪の客体となるとされる。

・「横領罪の被害品」については、第三者が即時取得した場合、2年間の回復請求の定め[民192条]は適用されない。即時取得によって被害者は追求権を失い、本罪の客体にはならない。

<出題例>

 横領罪の被害者が第三者により即時取得された場合には、これにより被害者の当該被害物に対する追求権は失われるから、以後、盗品等に関する罪は成立しない。→「横領罪の被害物」だから、民法193条の回復請求を問題にする必要はない。

[b] 被害者が取消権を行使する以前であっても、盗品等にあたる。

 本犯の行為が詐欺・恐喝の場合には、その盗品等の所有権は一応犯人に移転し、「取り消すことができる」にすぎない[民96条1項]。被害者が取消権を行使する以前には、その財物は「盗品等」にあたらないとも思える。
 しかし、被害者が取消しの意思表示をする以前にも、「取消権を行使した場合には、原状回復請求権を行使することができるという可能性」があり、その「可能性」を含む意味での法律上の追求権が認められることから、その物は盗品等に「あたる」と解されている。

<出題例>

 「本犯が詐欺罪の場合、欺罔による財産移転の意思表示を取り消す前には、被害者は、当該財産に対する追求権を有しないから、盗品等に関する罪は、成立しない。」というわけではない。→取消前であっても、回復を請求する「可能性」はあり、その可能性を含む意味での追求権は認められるから。

<盗品等の同一性>

 盗品等に関する罪の客体である「盗品等」は、被害者の追求権の及ぶものでなければならない。「盗んだ自動車を換金して得た金銭」などのように、「盗品等がその同一性を失った場合」には、被害者の追求権が及ばなくなるから、盗品等に関する罪は成立しない。

 しかし、「金銭などのように代替性を有するもの」については、それ自体が所有権の対象となるのではなく、金額又は一定の数量として所有権の対象となると解されており、例えば、盗品である金銭を両替して他の金銭に換えても、盗品性は失われないと解されている。

≪盗品等との同一性が失われる場合≫
・盗んだ金銭→カレーライスを御馳走
・盗品→金銭に換金
≪盗品等との同一性が失われない場合≫
・横領した紙幣→両替して得た金銭
・詐取した小切手→現金化して得た金銭

<出題例>

 本犯の被害物が同一性を失った場合には、被害者の当該被害物に対する追求権は失われるから、本犯の被害物の売却代金である金銭の贈与を受けても、盗品等に関する罪は、成立しない。→本犯の被害物の売却代金である金銭は、もはや本犯の被害物との同一性を失っているから、「盗品等」にはあたらない。

 「本犯の被害者が同一性を失った場合には、被害者の当該被害物に対する追求権は失われるから、本犯の被害物である紙幣を両替していた金銭の贈与を受けても、盗品等に関する罪は、成立しない。」というわけではない。→金銭を両替して得た金銭は、「盗品等」にあたる。

※ポイント
 「物→¥金銭」では盗品性「なし」、「¥金銭→¥金銭」、「小切手→¥金銭」では盗品性「あり」

<盗品等に関する罪の行為>
[1]「無償で譲り受け」るとは、代価を支払わないで取得することをいう。「単なる約束」では足りず、「盗品等の引渡し」が必要である。

[2]「運搬」とは、委託により盗品等の所在を移転することをいう。

★判例は、窃盗の被害者に警察への通報を断念させた上で、金銭を出させて盗品を被害者宅まで運搬した事案において、盗品の運搬は窃盗犯人の利益のためにその領得を継受したものであるとして、盗品等運搬罪の成立を認めた。

 追求権説に従えば、被害物を本犯の被害者宅に運搬している以上、被疑者の追求回復を困難にするものではなく盗品等に関する罪は成立しないとも思える。
 しかし、盗品が被害者宅に戻っても、その返還が犯人の利益のためになされた時には、「正常な回復ではない」から、盗品等に関する罪が成立すると解されている。

[3]「保管」とは、委託を受けて盗品等を保管することをいう。有償・無償を問わない。当初は盗品等であることを知らなかったものの、後に盗品等であることに気づいて保管を続けた場合には、それ以後について盗品等保管罪が成立する。

[4]「有償で譲り受け」るとは、代価を提供して取得することをいう。有償取得の契約を締結するだけでは足りず、「盗品等の引渡し」が必要である。

★盗品と知りつつ買受けた場合であっても、被害者に返還する目的で買い取った場合には、本罪は成立しない。

<出題例>

 被害者に返還する目的で、盗品と知りながこれを買い取った場合、盗品等に関する罪が「成立しない」。

[5]「有償の処分のあっせん」とは、盗品等について売買、交換、質入等、有償的処分をあっせんすることをいう。処分については有償であることを要するが、あっせん行為自体は有償でなくてもよい。
 あっせんをした事実があれば、あっせんにより売買等の契約が完成しなくても、盗品等有償処分あっせん罪は成立する。

※判例は、「本犯の被害者」を相手方として本犯の被害物の有償処分のあっせんをする場合であっても、「被害者による盗品等の正常な回復を困難にするばかりでなく、窃盗等の犯罪を助長し誘発するおそれのある行為であるから、刑法256条2項という盗品等の「有償の処分のあっせん」に当たる」とした。

<親族間の犯罪に関する特例>

・「配偶者との間又は直系血族、同居の親族若しくはこれらの者の配偶者との間で前条の罪を犯した者は、その刑を免除する。[257条1項]
・「前項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。」[257条2項]

≪本条の趣旨≫

 配偶者や親族等が身内の財産犯人のために盗品等の処分を行うことは無理からぬ面があるので、期待可能性が減少することを考慮して、一身的に刑の免除を定めた者であると解されている[「一身的処罰阻却事由」という。]。

≪親族関係は、誰と誰との間にあればよいのか≫

 本特例は、一定の親族関係にある者は、本犯者を庇護したり、またその利益に関与することは無理からぬ面もあるとして定められたものであるから、そのような関係が認められる場合、すなわち、「盗品等罪の犯人」と「窃盗罪等の本犯者」との間に親族関係があった場合に適用されると解されている。
 典型的には、息子が盗みを働いてきた場合に、その息子をかばうために母親が盗品の処分をするといった場合である。

※これに対して、「盗品等罪の犯人」と「本犯の被害者」との間に親族関係があることを要すると解する見解もある。
 しかし、この見解は、「盗品等罪の犯人と被害者が親族関係にあることは偶然的である。」と批判される。

つづく・・・
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2012年02月25日

独学院 背任罪から

参りましょう。

<背任罪>

 他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる[247条]。

 例えば、銀行の支店長が、回収の見込みがないまま無担保で勝手に多額の融資をした場合には、背任罪が成立する。本罪の本質は、このように他人のための事務処理者がその「本人との信任関係に違背して」他人の財物を害する点にある。

 信任関係に違背することを本質とする犯罪であるという点では、委託物横領罪[252条1項]と共通する。横領罪と背任罪をいかに区別するかについては、争いがある。

<背任罪の構成要件>

 背任罪が成立するためには、@「他人のためにその事務を処理する者」が、A「自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で」、B「その任務に背く行為をし、」、C「本人に財産上の損害を加えた」ことが必要である。

@「他人のためにその事務を処理する者」・・・背任罪の主体
A「自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で」これを「図利[とり]加害目的」という。
B「その任務に背く行為をし」・・・「任務違背行為」
C「本人に財産上の損害を加えた」こと

<背任罪の主体>

 背任罪の主体は、「他人のためにその事務を処理する者」である[身分犯]。

・犯罪行為が行う事務は、「他人の事務」であることを要し、「自己の事務」について背任罪が成立することはない。

≪他人の事務の例≫

・抵当権設定者が抵当権設定登記に協力すべき義務
・運送業者の運送物保管義務など。

<自己の事務の例>

・売買契約に基づく売主の目的物引渡義務、買主の代金支払義務→これらを履行しなくとも、債務不履行となるだけで背任罪は成立しない。

「事務を処理する者」というためには、行為者と本人との間に「信任関係」があることを要する。

<背任罪の行為>

 本罪の行為は、「任務に背く行為」をすることである。信任関係に違背する一切の行為をいう。

<背任罪の主観的要件>

 本罪の故意は、自己の行為が任務違背にあたること、本人に財産上の損害を与えることの表象・認容である。また、、故意のほかに「自己もしくは第三者の利益を図る目的」があることが必要である[目的犯]。一般に、これを「図利加害目的」という。
 たとえ任務違背があっても、もっぱら本人の利益を図るために行っていた場合には、背任罪は成立しない。

<財産上の損害>

・背任罪は「全体財産に対する罪」であると解されており、被害者の全体財産が減少しなければ背任罪は成立しない。
 よって、一方でマイナスがあっても、他方で対価が支払われる等のプラスがあり、全体としてマイナスにならない場合には、本罪は成立しない。

・背任罪の成立要件である「財産上の損害」の有無は、「法的に」ではなく「経済的に」判断される。
 例えば、取締役が金銭貸付けを行った場合、会社は一応貸付金債権をもつ。この場合、一応、「権利」は存在するのだから、「法的損害」は発生していないとみることもできる。しかし、それが回収困難な不良貸付であったときは、その貸金債権の経済的実価は低いので、「経済的損害」が生じたとみることができる。この場合、背任罪の成立要件である「財産上の損害」が発生したと認められる。

≪財産上の損害が発生したとみうる例≫

・回収困難な不良貸付
・違法・不当な貸付
・担保権の喪失など
・XがAのために抵当権を設定したが、その設定登記をする前に、Bのために抵当権を設定し先に登記を済ませてしまうこと[「ニ重抵当」という。]

<横領罪と背任罪の区別1>

 背任罪と横領罪は、いずれも信任関係の違背という点で共通する。
 ただ、横領罪の客体となるのは「自己の占有する他人の財物」に限られ、財産上の利益については、横領罪は成立し得ず、背任罪は成立しない。このことは当然である。

 これに対して、「他人のために事務を処理する者が、自己の占有する他人の財物を不法に処分した場合」、横領罪と背任罪の両方が成立するように思える。この場合に横領罪と背任罪のどちらが成立するのかという点が争われている。

 判例は、次のように分けている。

[1]行為者が本人の利益を図る目的であった場合→無罪
[2]行為者が自己又は第三者の利益を図る目的であった場合→本人名義か、行為者名義かで分ける。
・「自己又は第三者の利益を図る目的」で「自己名義」であった場合→横領罪
・「自己又は第三者の利益を図る目的」で「本人名義」であった場合のうち、
@本人の計算であった時→背任罪
A自己の計算であった時→横領罪

<例> Y銀行の銀行員Xが次のような行為を行った。
・「Y銀行の利益のために」Aに融資を行った。→無罪
・「自己の利益のために」、「X名義」で融資した。→横領罪
・「自己の利益のために」、「Y銀行名義」、「Y銀行の計算」で融資した。→背任罪
・「自己の利益のために」、「Y銀行名義」、「X自身の計算」で融資した。→横領罪

※「○○の計算で」とは、その行為による経済的効果が○○に帰属することを意味する。

<横領罪と背任罪の区別2>
<出題例>

 甲が、個人的な債務の弁済のため、自己が代表取締役をしている会社名義で債権者乙あての約束手形を振り出し、乙に交付した場合

 →横領罪は成立しない。「個人的債務の弁済のため」なので、「自己の利益のために」の場合である。「会社名義」の場合でもある。また、会社名義で約束手形を振り出しており[=会社が振出人]、会社が手形金支払債務を負うのであるから、「会社の計算」による場合でもある。

つづく・・・
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2012年02月24日

独学院 横領の罪から

参りましょう。

<横領の罪>

 刑法典には、横領の罪として、横領罪[252条]、業務上横領罪[253条]、遺失物等横領罪[245条]の3つが規定されている。

 このうち、横領罪と業務上横領罪は、他人から委託された物の占有者だけが犯すことのできる罪であって[真正身分犯]、委託者との間に委託信任関係のあることを前提とする。両者を併せて、「委託物横領罪」という。
 これに対し、遺失物等横領罪は、委託者との間に委託信任関係が無い場合である。

 委託物横領罪が遺失物横領罪に比べて重く処罰されるのは、「委託物横領罪が委託信任関係を破壊するからら」であると解されている。

 横領の罪は、自己が占有する他人の財物に関する犯罪であることから、占有を保護法益とすることは考えられず、「所有権その他の本件」が保護法益である。

 本罪は、他人から預かって占有している財物に関する犯罪である。他人の占有を侵害しない点において、窃盗・強盗・詐欺・恐喝等の各罪と異なる。
 横領の罪には、未遂犯処罰規定は設けられていない。行為者が横領行為を開始すれば、直ちに既遂となるからである。

<横領罪における占有>

 横領罪の客体は、「自己の占有する他人の財物」である。
 横領罪の「占有」は、窃盗罪の「占有」とは、問題となる場面が異なる。

窃盗罪の「占有」→「行為者による侵害の対象となる被害者の支配」
横領罪の「占有」→「行為者による濫用の対象となる行為者の支配」[=「濫用のおそれがある支配力」]

 このように、両罪の「占有」はそれぞれ問題となる場面が異なるため、それぞれの意味も異なり、横領罪の「占有」には、物に対する「事実上の支配」だけでなく、「法律上の支配」も含まれると解されている。この点で窃盗罪の「占有」よりも「広い」

窃盗罪→事実上の支配
横領罪→事実上の支配+法律上の支配

≪横領罪における「占有」が認められるとされた事例≫
[1]横領罪における不動産の占有

●登記済み不動産について、原則として、登記簿上その不動産の名義人となっている者に属する。
●「土地所有者から、その所有土地に抵当権を設定してほしいと依頼され、登記済証、白紙委任状等を交付された者」には、「占有」が認められる。

[2]横領罪における銀行預金の占有
 銀行預金の占有は、預金者にあると解されている。

<委託信任関係>

 委託物横領罪は、「委託信任関係を破ること」に本質がある。「委託信任関係を破らない」横領には、遺失物等横領罪が成立する。

・委託に基づいて占有している他人の物を領得       委託物横領罪
・委託に基づかないで占有している他人の物を領得    遺失物等横領罪
・だれも占有していない他人の物を領得           遺失物等横領罪

 「委託信任関係」は緩やかに解されており、「当事者間の契約の効果として何らかの法的義務を負う関係があれば足りる」と解されている。
 例えば、売主Xが第1買主Aに甲土地を売却した後、自己に登記名義が残っているという場合、Xには、Aとの「『委託信任関係』にもとづく占有」があると解されている。この場合、Xには、売買契約にもとづいて甲土地の登記名義をAに移転すべき法的義務があるからである。

<出題例>

 甲が、乙所有の未登記建物につき、無断で甲名義に所有権保存の登記をしたうえ、丙に売却した場合でも、横領罪は成立しない。
→横領罪は成立しない。甲乙間には「委託信任関係」が存在しないからである。

 Aは、Bから所有建物を買い受けて所有権移転登記をした後、売買契約を解除されたが、建物の登記名義をBに戻す前に、Cから金員を借り入れるに際し、その建物につき、Cに対して抵当権を設定したうえ、その旨の登記をした。
→Aには横領罪が成立する。「委託信任関係」は緩やかに解されており、「当事者間の契約の効果として何らかの法的義務を負う関係があれば足りる」と解されている。
 本問のAは売買契約の解除に基づき建物の登記名義を戻す法的義務を負うので、AB間には「委託信任関係」が認められる。

<他人の物>

 横領罪の客体は、「他人の物」であることを要する。もっとも、自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられたものは、横領罪の客体となる。

<自己の物か他人の物かが問題となる事例1>
[1]ニ重売買
≪事例≫
 売主Xが第1買主Aに甲土地を売却した後、Xは、自己に登記名義が残っているのをよいことに、Xが第2買主Bに甲土地を売却して登記名義を移転した。
→売買契約の成立によって甲土地の所有権は「X→A」に移転しているから、甲土地は、Xにとって「他人の物」となる。

[2]金銭その他の代替物
 
 民法上、金銭については、所有と占有が一致するとされ、金銭の占有が移転すれば、その所有も移転するとされる。そうだとすると、金銭については、「自己の占有する他人の物」はあり得ないことになり、横領罪は成立しないことになると思える。

 しかし、「封金」については、受託者に占有が移転しても、その所有権は委託者に残る[=「他人の物」にあたる」と解されている。

 判例は、「使途を定めた金銭」についても、その所有権が委託者のもとに残る[=「他人の物」にあたる]と解している。

<不法原因給付物>

 委託者が不法な原因に基づいて給付した物を受託者が横領した場合に、横領罪が成立するか。この場合、給付物は「不法原因給付物」にあたるので、受託物には給付物の返還義務はないが、それでも「他人の物」にあたるのかという問題である。

・「委託者は返還請求をすることはできない→しかし、依然として給付物の所有権を失っていない」と考えると、給付物は受託者にとって「他人の物」にあたる。
・「委託者は返還請求をすることはできない→その反射的効果として、不法原因給付物の所有権も受託者に移転する」と考えると、給付物は受託者にとって「他人の物」にあたらない。

 判例は、公務員への贈賄を依頼されて金銭を預かった者が、その金銭をほしいままに領得したという事例において、委託者は返還請求をすることはできないが、依然として給付物の所有権を失っていないとして、横領罪が成立するとした。

※ 最高裁は、横領罪成立説をとっている。しかし、その後、民事事件において、不法原因給付物の所有権は受託者に移転すると判示した。そのため、最判S23.6.5の結論も覆されるべきだとする考え方もある。
 これに対して、刑法上の他人性の解釈は、必ずしも民法上の所有権概念と一致させて考える必要はなく、刑法上はなお「他人の物」と認めることができると解して、横領罪の成立を肯定する学説もある。

<出題例>

 甲が、乙の依頼により公務員丙に賄賂として渡すために預り保管中の現金を丙に渡すことなく自ら費消した場合には、横領罪が成立する。

<「他人の物」〜その他の事例>
<出題例>

 Aは、Bからその所有建物を買い受けて所有権移転登記をした後、売買契約を解除されたが、建物の登記名義をBに戻す前に、Cから金員を借り入れるに際し、その建物につき、Cに対して抵当権を設定したうえ、その旨の登記をした。
→横領罪が成立する。売買契約の解除によって、所有権はBに復帰するから、甲土地はAにとって「他人の物」にあたる。

<横領行為>

 横領行為とは、自己の占有する他人の物について不法領得の意思を実現する一切の行為をいう。
 横領罪の「不法領得の意思」とは、「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」をいう。
 法律的処分[売買など]だけではなく、事実的処分[持ち逃げ等]も含まれるとされる。

※【参考】学説の対立
「横領」行為の意義をいかに解するかについては、領得行為説(通説・判例)と越権行為説が対立する。
≪領得行為説≫・・・不法領得の意思を実現する一切の行為・・・横領罪の成立要件として不法領得の意思が必要
<越権行為説>・・・委託信任関係を破ってその権限を超える行為・・・成立要件として不法領得の意思は不要

≪横領行為にあたるとされる事例≫
・自己の占有する他人の物の売却、贈与、質入れ
・自己の占有する他人の不動産への抵当権の設定
・他人から預かった金銭の使い込み、持ち逃げ、着服、隠匿
・自己の占有する他人の物を自己の物だと主張して他人に民事訴訟を提起する行為
・登記簿上自己が所有名義人となって預かり保管中の不動産につき所有権移転登記手続請求の訴えを提起された場合に、自己の所有権を主張・対抗する行為

<横領行為〜出題例>

 Aは、Bから依頼されて、B所有の土地につき登記簿上の所有者名義人になってその土地を預かり保管中、Bから所有権移転登記手続請求の訴えを提起された際に、自己の所有権を主張して抗争した。
→横領罪が成立する。判例は、登記簿上自己が所有権名義人となって預かり保管中の不動産につき所有権移転登記手続請求の訴えを提起された事案において、自己の所有権を主張・抗争する行為について、不法領得の意思の発現「=「横領」にあたる]として横領罪の成立を肯定した。

 Aは、B所有の未登記建物を、Bの同意の下に使用支配していたところ、その建物につき、自己名義で所有権保存登記をした。
→横領罪が成立する。未登記不動産の占有は、事実上それを管理支配している者に属するので、本問の未登記建物の占有はAに属する。そして、他人所有の未登記建物について、自己名義で所有権保存登記をすることは、不法領得を実現するもので「横領」にあたる。

<故意・不法領得の意思>

 横領罪の故意は、自己の占有する他人の物[または公務所から保管を命ぜられて占有する自己の物]を横領[処分]することの表象・認容である。また、故意のほかに、「不法領得の意思」も必要であると解されている。

 判例は、横領罪で要件とされる「不法領得の意思」とは、「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物について権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」をいうとする。

※窃盗罪等で要件とされる「不法領得の意思」とは、内容が異なる。

<横領罪の共犯の成否>

 すでにAに売却し、代金全額の受領がされている不動産につき、売主はその事情を秘して、さらにBに売り渡し、その旨の登記を経由した。この場合、Bが契約の時点で、すでにAに売却されていることを知っていたとしても、Bには横領罪の共犯は「成立しない」。

 売主の行為は典型的な二重売買である。売主には横領罪が成立するが、第2売買の買主であるBにも、その共犯が成立するのか。

 民法上、第2売買の買主が単にニ重売買の事実を知りながら購入したとしても[単純悪意者」、先に登記を具備すれば、第三者に対し、不動産の所有権を対抗することができる[177条]。
 このように「民法上適法に」取得することができる場合に、これを「刑法上違法」と評価することはできないから、第2売買の買主Bがニ重売買の事案について悪意であっても、横領罪の共犯は成立しないと解されている。
 したがって、Bについては、横領罪[252条1項]の共犯は成立しない。

※なお、仮に第2売買の買主がいわゆる「背信的悪意者」として民法上保護を受けないときは、刑法上、横領罪の共同正犯ないし教唆犯が成立すると解されている。

<他罪の不可罰的事後行為にあたる場合>

 甲が、割引の仲介をする意思がないのに、仲介をする旨の嘘を言って乙から手形の交付をうけ、これを自己の債務の担保に差し入れた場合でも、横領罪は成立しない。

 甲が「乙を騙して手形の交付を受けた」時点で、詐欺罪が[246条1項]が成立する。
 その後の「騙取後に手形を自己の債務の担保に差し入れた行為」いついては、新たに乙の別の法益を侵害するものではなく、その違法性はすでに詐欺罪によって評価されているから、不可罰的事後行為にあたり、新たに横領罪が成立するわけではない。

<業務上横領罪>
[1]刑の加重

 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処せられる。[253条]
 業務上横領罪は、物の占有が業務上の委託関係にもとづいているため、通常の横領罪よりも刑が加重されている。業務上の委託関係にもとづいている場合には、それにもとづかない場合よりも、より多数者との間の委託信任関係が破壊されうるし、また、より頻繁に発生しやすいからだとされる。

[2]主体
 本罪の主体は、「他人の物を業務上占有する者」である。
 「他人の物の占有者」という身分、「業務者」という身分の両方をそなえていなければならない。ニ重の身分犯である。

※2つの身分のうち、1つは「真正身分犯」、もう1つは「不真正身分犯」である。
・「他人の物の占有者」という身分がなければ犯罪が成立しないという意味で、「真正身分犯」である。
・「業務者」という身分があることによって、通常の横領罪[「単純横領罪」という。]よりも刑が加重されるという意味で、「不真正身分犯」である。

[3]業務
 「業務」とは、社会生活上の地位に基づいて反復又は継続して行われる事務をいう。

≪業務上過失致死傷罪の「業務」と異なる点≫
・本条の「業務」は、業務上過失致死傷罪のそれと異なり、「他人の物を占有する業務」に限られる[例えば、質屋、倉庫業など]。
・業務上過失致死傷罪の「業務」は、「人の生命・身体に対する危険性」を有するものに限られる。これに対し、本罪の「業務」は、それに限られない。

<遺失物等横領罪>
[1]罪質

 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処せられる[245条]。

 横領罪は委託信任関係を破ることを本質とする罪であったが、遺失物等横領罪は委託信任関係を破ることを本質とするものではない。

[2]客体

 「だれも占有していない物[=人の占有を離れた物]」とか、「みずからが委託に基づかずに占有している他人の物」も、その客体に含まれる。
・委託に基づいて占有している他人の物を領得    委託物横領罪
・委託に基づかないで占有している他人の物を領得 遺失物等横領罪
・だれも占有していない他人の物を領得         遺失物等横領罪

 本罪は、他人の占有に属していない他人の物を自分の物のように処分することを内容とするものである。他人の占有を侵害しない点で委託物横領罪と共通し、委託信任関係がない点で異なる。例えば、落し物を勝手に自分の物にした場合には、本罪が成立する。
 「遺失物」とは落とし物であり、「漂流物」とは落とし物が水中にある場合である。
 「その他占有を離れた他人の物」とは、占有者の意思に基づかないで占有を離れ、誰の占有にも属していない物である。例えば、郵便集配人が誤って配達した郵便物がこれにあたる。

[3]行為

 本罪の行為は、遺失物等について、所有者でなければできないような処分を行う行為[横領行為]である。

[4]主観的要件

 主観的な要件としては、「客体が占有を離れた物であること」の表象・認容[=故意]のほか、「不法領得の意思」が必要である。

つづく・・・
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2012年02月23日

独学院 恐喝罪から

参りましょう。

<恐喝罪>

 人を恐喝して財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処せられる[249条1項]。
 人を恐喝して財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同様とされる[249条2項]。

 本罪は、人に恐怖心を生じさせて意思決定・行動の自由を侵害し、財物又は財産上の利益を取得することを内容とする犯罪である。保護法益は、第1次的には「個人の財産」であるが、第2次的には「個人の意思決定・行動の自由」である。

≪強盗罪との共通点≫
 共に暴行・脅迫を手段とする。
≪強盗罪との相違点≫
 暴行・脅迫の程度が異なる。相手方の意思に基づく移転かも異なる。
・強盗罪・・・@相手方の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫を手段とする。
       A相手方の意思に反して財物[財産上の利益]を移転させる。
・恐喝罪・・・@相手方の反抗を抑圧する程度に「至らない」暴行・脅迫を手段とする。
       A相手方の瑕疵ある意思表示によって財物[財産上の利益]を移転させる。

≪詐欺罪との共通点≫
 財物[財産上の利益]の移転が、被害者の瑕疵ある意思表示によって行われる。
≪詐欺罪との相違点≫
 被害者に瑕疵ある意思表示を生じさせるために用いられる手段がことなる。
・詐欺罪・・・欺く行為
・恐喝罪・・・暴行・脅迫

<恐喝罪の構成要件>
[1]恐喝罪の客体
 詐欺罪と同じ
[2]恐喝罪の行為
 本人の行為は、人を恐喝して財物を交付させること、又は、財産上不法の利益を得、又は他人に得させることである。実務上は、「喝取」と呼ばれている。

 「恐喝とは、暴行又は脅迫により、相手方の反抗を抑圧するに「至らない」程度に畏怖させることをいう。

 「財物を交付させる」とは、畏怖した相手方の処分行為にもとづいて財物の占有を移転させることをいう。

 相手方が畏怖して「黙認」しているのに乗じて、行為者が財物を奪う場合も、「交付させ」にあたると解されている。

[3]因果関係
 恐喝罪が成立するには、@恐喝行為、A相手方の畏怖、B畏怖に基づく交付[処分行為]、C財物又は財産上の利益の移転があり、かつ、@〜Cについて相当な因果的関連性があることを要する。

 恐喝行為に及んだが、相手方が畏怖しなかった場合は、未遂[250条]となると解されている。例えば、脅迫して財物の交付を要求したが、相手方が畏怖せず、「かわいそう」だと思って交付した場合には、財物の交付があっても恐喝未遂罪になる。

[4]恐喝罪の主観的要件
 主観的には、恐喝により相手方を畏怖させ、これに基づいて財物又は財産上の不法の利益を得ることの表象・認容[=恐喝罪の故意]及び「不法領得の意思」が必要である。

つづく・・・
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2012年02月22日

独学院 詐欺罪 財産的処分行為から

いつも通り参りましょう。

<財産的処分行為>

 詐欺罪が成立するには、相手方が錯誤に陥り、その錯誤にもとづいて相手方が「処分行為」を行うことを要する。
 財産的処分行為とは、欺く行為の相手方が錯誤にもとづいて財物「又は財産上の利益」を移転することをいう。財物の処分を、特に「交付」という。

 意思能力を欠く幼児等を欺いて財物を交付させても、「処分行為」[交付]を欠くために詐欺罪は成立せず、窃盗罪[235条]となる。
・客体が「財産上の利益」である場合、相手方の処分行為がないと、詐欺罪は不成立。「利益窃盗」として不可罰。

 処分行為[交付行為]は、財産について「処分の事実」と「処分の意思」から成る。詐欺利得罪[246条2項]の処分行為については、後述する。

<出題例>

 甲が、自己の氏名以外の文字を全く知らない乙に対し、甲の乙に対する債務を免除する旨記載された書面を手渡し、これが市役所に対する陳述書であると偽り、乙を誤信させて署名、押印させたうえ、乙からその書面の交付を受けた場合。→詐欺罪は成立しない。乙は、当該書面が甲の債務を免責する旨を記載したものであることを認識しておらず、「処分の意思・事実」に欠け、財産的処分行為と認められないからである。

 財産について処分しうる権限ないし地位のない者は、処分行為を行うことができないため、これを欺いても詐欺罪は成立しない。

 通常は、詐欺行為をした者に財物が交付されるが、「第三者」に対して交付させてもよい。この場合の第三者とは、行為者から受取を依頼された者など、行為者と特別の関係のある者に限られる。

<出題例>

「人を欺いて、自己以外の第三者に財物を交付させた場合には、詐欺罪が成立する余地はない。」というわけではない。

<詐欺罪も財産犯である以上、その成立要件として「財産上の損害の発生」が必要である。
 詐欺罪の「財産上の損害」の内容をいかに解するかについては、争いがある。

≪個別財産喪失説≫[通説・判例]・・・個別財産の喪失で足りる。財物の交付自体が損害。
≪全体財産減少説≫[少数説]・・・被害者の全体としての財産が減少することが必要。

 個別財産喪失説によると、財物の交付自体が財産上の損害といえる。よって、欺く行為が行われなければ財物を交付しなかったであろうと認められる場合において、被害者が財物を交付しさえすれば、「たとえ財物の交付に際して相当の対価が支払われていても」、詐欺罪が成立する。←[重要]

 例えば、100万円の財物を交付したとしても、その代わりに100万円の代金を受け取っていたのであれば、被害者の「全体としての財産」は減少していない。
 「全体財産説」とは、一方でマイナスがあっても、他方で対価が支払われる等プラスがあり、全体としてマイナスにならない場合には、詐欺罪は成立しないとする考え方である。

<出題例>

 Aは、Bに対し、単なる栄養剤をがんの特効薬であると欺いて販売し、代金の交付を受けた。この場合、「真実を知っていればBがAに代金を交付しなかったとしても、Aの提供した商品が、Bが交付した代金相当のものであれば、詐欺罪は成立しない」というわけではない。
→詐欺罪は成立する。相当の対価が支払われても、財物[=代金]を交付したこと自体が「損害」であると認められる。「真実を知っていればBがAに代金を交付しなかった」という事情のもとで、単なる栄養剤をがんの特効薬であると欺いて代金の交付を受けている以上、詐欺罪が成立する。

<詐欺罪の主観的要件>

 本罪の故意は、他人を欺いて財物[又は財産上の利益」を処分[交付]させることの表象・認容である。
 具体的には、@詐欺行為、A相手方の錯誤、B錯誤に基づく処分行為、C財物[又は財産上の利益]の移転、及び@からCについて相当な因果的関連性があることの認識である。また、故意以外に不法領得の意思が必要である。

<着手時期・既遂時期>

 詐欺罪の実行の着手時期は、人に対して欺く行為を開始した時点であり、財物が交付されてその占有が行為者又は第三者に移転した時点で既遂となる。

<詐欺利得罪>

 人を欺いて、財産上不法の利益を得た者、又は他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処せられる[246条2項]。

 本罪は、欺く行為により他人の財産上の利益を取得することを内容とする犯罪である。
 例えば、債権者を欺いて債務を免除してもらう場合が当てはまる。1項詐欺罪と同様に処罰される。

 詐欺利得罪に関しても、@詐欺行為、A相手方の錯誤、B詐欺に基づく処分行為、C財産上不法な利益の移転という一連の要素から構成され、これらの間に相当な因果的関連性があることを要する。

 また、主観的には、人を欺いて財産上不法の利益を得ることの表象・認容[故意]と、不法領得の意思が必要である。

<詐欺利得罪の構成要件>

 「財産上の利益」とは、財物以外の財産的価値のある利益の一切をいう。
 例えば、「債務の免除」を承諾させること、「債務の弁済の一時猶予」のほか、無銭飲食、無賃乗車といったサービスの提供も含まれる。

 財産上の「不法の利益」とは、利益を得る手段の不法性をいい、財産上の利益が不法であるということではない。
 「処分行為」とは、欺く行為によって錯誤に陥った相手方が財産上の利益を移転することをいう。

≪財産的処分行為にあたる場合≫

 被害者が「○○を差し上げます」、「○○を売却したします」、「○○代金の支払を免除したします」、「○○代金の支払を3か月間猶予いたします」などの意思表示をした場合には、被害者の「財産的処分行為」があったと認められる。

・判例は、財産上不法の利益が、債務の支払を免れることであるとするには、相手方たる債権者を欺いて「債務免除の意思表示をさせること」と要し、単に逃走して事実上支払をしなかっただけで足りるものではないとした。

・宿泊客が代金を踏み倒す意思で、「ちょっと散歩に出かけてくる」と言って外出し、旅館主がこれを見送ったという場合には、代金を免除するという意思表示、つまり処分行為がないために詐欺利得罪は成立しないとされる。
 この場合は、「利益窃盗」となるが、刑法には利益窃盗を処罰する規定がないため、不可罰となる。

<出題例>

 タクシーで目的地に着き、運賃の支払を求められた際に所持金がないことに気付いたAは、支払を免れようと考え、「このビル内にいる友人から金を借りてきて、すぐに支払う。」などと嘘を言ったところ、タクシー乗務員は、Aの言葉を信じて運賃を受け取らずにAを降車させた。
→Aには詐欺利得罪が成立する。タクシー乗務員は、錯誤に陥った結果、ただちに料金を請求することができるのにしないという「黙示の処分行為」を行ったとみることができるからである。

<無銭飲食>

[1]当初から代金を支払う意思がなく、飲食物を注文して飲食した場合
 この場合、飲食物という「財物」に対する詐欺利得罪[246条1項]の成否が問題となる。
 代金を支払う意思がないことを隠して注文する行為が、「欺く行為」にあたる。
 これにより、相手方を欺いて錯誤に陥らせ、飲食物という「財物」を「交付」させることによって、詐欺取財罪が成立する[246条1項]。

[2]飲食した後に代金を踏み倒そうと思いつき、詐欺的手段により支払を免れた場合
 この場合、飲食物の代金支払債務を免れるという「財産上・・・利益」に対する詐欺利得罪[246条2項]の成否が問題となる。

 詐欺利得罪が成立するには、行為者が相手方の「処分行為」によって財産上不法な利益を得ることを要する。相手方が「処分行為」をし、財産上の利益が移転した時点で「既遂」となる。相手方の「処分行為」があったと認められない場合には、「利益窃盗」として不可罰となる。

<例1> すきを見て逃げる

 Xは、店の主人が気づかないうちに、裏口からサッと逃げた。→Xには詐欺罪は成立せず、不可罰。食い逃げ。店の主人の「処分行為」がないので、詐欺利得罪は成立しない。「利益窃盗」として不可罰となる。

<例2>

 Xは、支払うつもりがないのに、店の主人に「後で支払う」と告げ、その了承を得た上で店の外に出て、そのまま逃亡した。
→Xには詐欺利得罪が成立する。代金支払債務の一時猶予。判例によると、これも「財産上・・・の利益」にあたる。

<例3> 「知人を見送る」と言って逃げる

 Xは、宿泊・飲食をした後、主人に「知人を見送る」と嘘を言い、その了承を得た上で店先に出て、そのまま逃亡した。
→Xには詐欺罪は成立せず、不可罰。この事例では、店の主人がXの外出を承認しておらず[「店先まで行くだけ」と誤信していた]「財産上の利益」を移転していない[=「処分行為」を行っていない]と評価されたと考えられる。

<キセル乗車とは何か>

 キセル乗車とは、交通機関を使って「A→B→C→D」に移動する場合において、「A→B」間の乗車券と「C→D」間の乗車券を用いて、途中の「B→C」間の運賃を不正に免れることをいう。キセル乗車は、自動改札機の無い時代にしばしば鉄道で行われた。

 一般に、キセル乗車をした者には詐欺利得罪[246条]が成立すると考えられるが、ただ、具体的に、その「欺く行為」「処分行為」「財産上の利益」「既遂時期」をどのように捉えるかについては、争いがあり、「乗車駅基準説」と「下車駅基準説」が対立する。

≪乗車駅基準説≫

 「乗車駅」の改札係員を欺いて「輸送の利益」を得たと考えて詐欺利得罪[246条2項]の成立を認める見解

≪下車駅基準説≫

 「下車駅」の改札係員を欺いて「不足運賃支払債務」を免れたと考えて詐欺利得罪[246条2項]の成立を認める見解

※自動改札機が導入された鉄道においては、キセル乗車を行うことは困難になった。

<乗車駅基準説による解釈>

@欺く行為

 キセル乗車をする意思を隠して、改札係員に「AからB」間の乗車券を提示して、乗車駅Aの改札を通過するという行為を、「欺く行為」と捉える。この行為によって、「乗車駅Aの改札係員」を「錯誤」に陥らせたとみる。

A処分行為と財産上の利益

 乗車駅Aの改札係員がキセル行為者に改札口の通過・入場を許したこと、および鉄道会社職員による鉄道運送役務の提供を、「処分行為」とみる。

B既遂時期

 キセル行為者が「輸送の利益を得た時点」、すなわち「電車が動き始めた時点」で詐欺利得罪が既遂となる。

<乗車駅基準説の弱点>

@ 例えば、Xが、キセル乗車の意思で「AからB」間の乗車券をA駅改札係員に提示して入場し、乗車したものの、途中で気が変わり、結局B駅で下車した場合にも、詐欺既遂犯が成立することになってしまう。

A 例えば、Xが、下車する際には運賃を精算するつもりで「AからB」間の乗車券を提示して入場したが、乗車後、キセル乗車の意思が生じ、D駅で「CからD」間の乗車券を提示して改札口を出たという場合には、詐欺罪が成立しないことになってしまう。

B キセル行為者は、乗車駅の改札口を通過して入場する際に、正規の乗車券・定期券を示している以上、これを通過させた改札係員に「錯誤」はなく、これに対する「欺く行為」はない。

C 乗車駅改札係員は単に駅構内への入場を許したにすぎず、輸送役務の提供という処分行為を行ったとみるのは難しい。輸送役務の提供という処分行為は、輸送を担当した乗員が行ったとみるべきであるが、そうすると、「欺かれた者」と「処分行為者」が一致しないことになってしまう。

※「処分行為者」と「被害者」が異なっても良いとされるが、「欺かれた者」と「処分行為者」は常に一致していなければならない[重要]

<下車駅基準説による解釈>

@ 欺く行為

 下車駅改札口において、不足運賃を精算しなければならないにもかかわらず、そのことを隠して「CからD」間の乗車券を提示して改札口を出る行為を、「欺く行為」と捉える。この行為によって、下車駅Dの改札口係員を錯誤に陥らせたとみる。

A 処分行為と財産上の利益

 下車駅改札口係員が不足運賃の支払をうけることなくキセル行為者の通過を許した行為を、「処分行為」とみる。不足運賃の支払を免れることを「財産上の利益」と捉える。

<下車駅基準説の弱点>

 キセル行為者が下車駅改札口を通過して外へ出るに際して、下車駅改札口係員が不足運賃支払債務を免除するなどの「処分行為」を行ったとみるのは難しい。
 下車駅の改札口係員は、キセル行為者に不足運賃の未払いがあることを知りながら改札口を出ることを許したというわけではなく、「債務免除の意思」を表示したとは認められないからである。

つづく・・・
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2012年02月21日

独学院 詐欺罪から

参りましょう。

<詐欺罪>

[1]人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処せられる[246条1項]。また、人を欺いて、財産上不法の利益を得た者、又は他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処せられる[246条2項]。
 前者を後者と区別して、「詐欺取財罪」とか「1項詐欺罪」といい、後者を「詐欺利得罪」とか「2項詐欺罪」という。

 詐欺罪及び恐喝罪は、窃盗罪及び強盗罪とは次の点で異なる。
≪詐欺罪・恐喝罪≫・・・相手方の瑕疵ある意思に基づいて、財物を取得する。
≪窃盗罪・強盗罪≫・・・相手方の意思に反して、財物を取得する。

 詐欺罪は、恐喝罪とは次の点で異なる。
≪詐欺罪≫・・・欺く行為によって相手方を錯誤に陥らせるという手段をとる。
≪恐喝罪≫・・・暴行・脅迫によって相手方を畏怖させて、財物を取得するという手段をとる。

[2]詐欺罪の保護法益は、個人の財産である。
 個人の財産と無関係な利益を「欺く行為」によって侵害しても、詐欺罪は成立しない。

・結婚すると偽って貞操を奪っても、詐欺罪は成立しない。いわゆる「結婚サギ」は、結婚すると偽って「財産を騙し取る」からこそ詐欺罪になる。

<国・地方公共団体に対する詐欺罪の成否>
・肯定説[判例・通説]
 国・地方公共団体も財産権の主体となりうる以上、その財産権を侵害した場合には、国・地方公共団体に対する詐欺罪も成立する。
・否定説[少数説]
 国・地方公共団体に対する詐欺的行為は「公共的法益」に向けられており、詐欺罪の保護法益である「個人の財産」には向けられていない。よって、国・地方公共団体に対する詐欺罪は成立しない。

≪詐欺罪の成立が肯定された事例≫

 配給物資を騙し取って受け取った行為、国有地を騙して買受けた行為、生活保護の不正受給、健康保険証の不正交付

≪詐欺罪の成立が否定された事例≫

 判例は、旅券や印鑑証明書等の不正取得については、詐欺罪の成立を否定した。ただ、これらについて詐欺罪の成立が否定されたのは、公共的法益に対して向けられた行為だからという理由ではなく、旅券や印鑑証明書に財産的価値がなく「財物」にあたらないという理由によると解されている。

<詐欺罪の構成要件>

 本罪の行為は、人を欺いて財物を交付させること、つまり、騙して財物を交付させることである。具体的には、@欺く行為、A相手方の錯誤、B錯誤に基づく処分行為[交付行為]、C財物の移転があり、かつ、@→A→B→Cの過程に因果関係があることを要する。

@→A欺く行為に「よって」相手方を錯誤に陥れること
A→B錯誤に陥ったことに「よって」、財産的処分行為をしたこと
B→C財産的処分行為に「よって」、財物又は財産上の利益を取得したこと

平成7年改正前は、条文上「欺いて」は「欺罔して」となっていたため、欺罔行為といった。

<詐欺罪の客体>

 本罪の客体である「財物」には、動産のほか不動産も含まれる。
 財物は、原則として、「他人の財物」であることを要するが、「自己の財物」であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守する物であるときは、他人の財物とみなされる[251条242条]。また、電気は財物とみなされる251条・245条]。

<各種証明書の不正取得>

 判例は、健康保険証、簡易生命保険書の不正取得については詐欺罪の成立を肯定しているが、印鑑証明書や旅券の不正取得については詐欺罪の成立を否定している。

 国・地方公共も財産権の主体になりうる以上、欺く行為によってその財産権を侵害すれば、詐欺罪が成立しうる。ただ、その証明書を発行することが受給者に何らかの財産的利益を移転するものではないときには、「財物」にはあたらず、詐欺罪は成立しない。結局、ポイントとなるのは、「その証明書の取得によって、行為者に財産的利益が移転するのか否か」である。

≪旅券≫・・・一定の資格について官庁の証明を受けさせるものにすぎず、「財物」にはあたらない。
≪健康保険証≫・・・健康保険証があることにより、事実上医療費の一部を免れることができるので、一定の財産的価値を有すると評価しうる。よって、「財物」にあたる。

<各種証明書の不正取得 出題例>

 Aは、旅券発給の事務に従事する公務員Bに対し、内容虚偽の申立てをしてBを欺き、自己名義の旅券の交付を受けた。この場合、「真実を知っていればBがAに旅券を発給しなかったとすれば、詐欺罪が成立する」というわけではない。→詐欺罪は成立しない。これは、旅券は、一定の資格について官庁の証明をうけさせるものにすぎず、「財物」にあたらないからだと考えられている。

 Aは、簡易生命保険契約の事務に従事する係長Bに対し、被保険者が傷病により療養中であることを秘し、健康であると欺いて契約を申込み、簡易生命保険契約を締結させて、その保険証書の交付を受けた。この場合、真実を知っていれば、BがAに保険証書を交付しなかったとすれば、詐欺罪が成立する。→詐欺罪は成立する。簡易生命保険書は、国家に対する保険金請求権が存在することを証明する文書である。
 
 もちろん、欺く行為によって生命保険金を受ければ詐欺罪が成立する。同判決は、その前段階の、「欺く行為によって保険証書を取得した時点」で、詐欺罪が成立するとしたのである。

 簡易生命保険証書の発行は、国の保険金給付義務を発生させるものであって、単なる証明を超えて財産的利益の移転を伴うものと言え、簡易生命保険書はそれ自体が財産的価値をもち、「財物」にあたる。

<欺く行為〜「機械」に対しては×>

 詐欺罪の実行行為は、人を「欺く行為」である。欺く行為は、財物の交付[処分行為]に向けて人を錯誤に陥らせるものであることを要する。

[1]欺く行為は、「人」に対して向けられたものでなければならず、「機械」に対して詐欺的行為を行っても、詐欺罪は成立しない。
 例えば、盗んだキャッシュカードを使ってATMで現金を引き出す行為は、詐欺罪ではなく、窃盗罪が成立する。

ATMの管理者[=銀行]の占有する金銭を、その意思に反して取得したことになるから。

<そもそも「欺く行為」がなければ、詐欺罪X>

 Aは、所持金がないにもかかわらず、係員が出入り口で客にチケットの提示を求めて料金の支払いを確認している音楽会場でのコンサートを聴きたいと考えて、人目につかない裏口から会場に忍び込み、誰にも見とがめられずに客席に着席してコンサートを聴いた。Aの行為について詐欺罪は成立しない。

→そもそも「欺く行為」が存在しないので、詐欺罪は成立しない。また、財産的処分行為もない「財産的処分行為については後述]。

<欺く行為〜不作為でも○>

 欺く行為は、作為・不作為を問わない。
 不作為による詐欺行為の例としては、「つり銭詐欺」がある。

 たとえば、買主Aが売主Bから物品を購入してつり銭を受け取ったとする。この場合に、買主Aが売主Bの差し出したつり銭が多すぎることに気づきながら、そのまま黙って受け取ると、詐欺罪[246条1項]が成立すると解されている。

 買主Aは、売主Bの差し出したつり銭が多すぎることに気付いた場合、多すぎることを告げるべき作為義務[=告知義務]を負う。それにもかかわらず告げなかったという不作為が「欺く行為」にあたるからである。

※ これに対し、「買主つり銭を受け取る時点ではそれが多すぎることに気づかず、家に帰ってからつり銭が多いのに気付いたものの、そのまま返還しなかった」という場合には、詐欺罪は成立しない。占有離脱物横領罪[245条]が成立する。→つり銭の占有の移転が相手方の錯誤を利用して意図的になされたものではなく、偶然に自己の下に占有の移転してきた物を領得したにすぎないからである。

<欺く行為〜財産的処分行為に向けたもの>

 欺く行為は、人の財産的処分行為に向けられてたものでなければならない。欺く行為の相手方は、財産的処分行為を行う権限ないし地位を有する者[「処分権者」]でなければならない。

 甲が、乙作成名義の不動産売渡証書その他登記の申請に必要な書類を偽造し、これらを行使して登記官を欺き、乙所有の不動産につき乙から甲に対する所有権移転の登記をさせた場合→詐欺罪は成立しない。登記官は、不動産を処分しうる権限ないし地位をもたないからである。

 甲が、友人乙の住居するマンションに赴き、管理人丙に対し、「乙から頼まれてきた」旨うそを言って誤信させ、乙の居室のカギを開けさせて室内からテレビを搬出した場合→詐欺罪は成立しない。管理人丙は、乙のテレビについての「処分権者」ではないからである。

<横領行為を行うにあたって、人を欺く手段が用いられた場合>

 例えば、横領行為によって得られた財物[財産上の利益]の返還を求められた際に、嘘をいって返還を免れた場合である。

 この場合、人を欺く手段は「横領行為を完成させるための手段」として行われるにすぎないし、また、相手方の財産的処分行為も認められないと解されるからである。

 他人から借りたカメラを自分のものにするため、持主に対してそのカメラが盗まれたと嘘をついて、これを返さなかった場合→詐欺罪は成立しない。横領罪が成立する。本問の嘘は、「横領罪を完成させるための手段」にすぎない。

 預かっていた財物を横領するため、その財物を自己に預けた人に嘘をついて返還を免れ、これを領得した。→この場合、「横領罪と詐欺の両罪が成立する」というわけではない。

つづく・・・
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2012年02月20日

独学院 強盗罪から

ささ、参りましょう。

<強盗罪>

 236条

・1項「暴行または脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。」
・2項「前項の方法により、財産上不法の利得を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。」

≪窃盗罪との共通点≫・・・他人の意思に反して財物の占有を取得する点
≪窃盗罪との相違点≫・・・@暴行または脅迫を手段とする点
                 A財産上の利益をも客体とする点

 強盗罪は、暴行・脅迫を手段とする点において、財産罪であると同時に、「人の身体・自由に対する罪」としての側面も併せもっている。そのため、窃盗罪よりも重い刑が科せられる。

≪恐喝罪との共通点≫・・・@「暴行・脅迫」を手段とする点。
                 A「財産上の利益」をも客体とする点。
≪恐喝罪との相違点≫・・・その手段である「暴行・脅迫」の程度が異なる。
                 強盗罪・・・「相手方の犯行を抑圧する程度」
                 恐喝罪・・・「相手方の犯行を抑圧するに至らない程度」

≪強盗罪≫・・・相手方の意思に反して、財物の占有は財産上の利益の移転がなされる。→「意思に基づく処分[交付]がない。
≪恐喝罪≫・・・相手方の瑕疵ある意思表示に基づいて、財産的処分行為がなされる。→「意思に基づく処分[交付]がある。

<強盗罪の手段としての暴行・脅迫>

[1]強盗罪の手段としての暴行・脅迫は、「相手方の反抗を抑圧するに足りる程度」のものでなければならない。

≪暴行・脅迫が「相手方の反抗を抑圧するに足りる程度」かどうかの判断基準≫

 その暴行・脅迫が一般的に相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものかどうかについて、具体的状況に照らして、「客観的に判断」する。→被害者が現実に反抗を抑圧されたか否か[=被害者の主観]により判断するものではない。

 例えば、客観的・一般的には、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものではないが、たまたま被害者が臆病者であったために反抗を抑圧されて財物を交付したという場合には、強盗罪ではなく恐喝罪。

[2]暴行・脅迫は、「強盗の手段として」なされたものでなければならない。

≪事後的に奪取意思を生じた場合→強盗罪は×≫

 強盗の手段としてではなく暴行・脅迫をし、相手方が反抗を抑圧された状態に陥った後に、事後的に奪取する意思を生じ、金品を奪取したという場合→強盗罪は成立しない。暴行罪[又は脅迫罪]と窃盗罪の併合罪。

<出題例>

 Aは、うらみを晴らす目的でBになぐるけるの暴行を加え、Bを失神させた後、この機会に金品を奪おうと考え、Bが身に付けていた背広のポケットを探り、中にあった財布を奪った。「H13−25] 
→判例の趣旨に照らしてAについて強盗既遂罪は成立しない。暴行を加えた後に奪取意思を生じているからである。

<強取>

「強取」とは、暴行・脅迫によって相手方の反抗を抑圧し、それによって、相手方の意思に反して財物の占有を自己又は第三者に移転させることをいう。

@「暴行・脅迫」→A「相手方が反抗を抑圧されること」→B「相手方の意思に反して自己又は第三者に占有を移転させること」の一連の過程に「因果関係」がなければならない

<出題例>

 Aは、金品を奪う目的でBにナイフを突き付けて金品を要求したところ、驚いたBは、反射的に逃げ出し、その途中でポケットから財布を落としたが、それに気づかないまま逃走した。Bの姿が見えなくなった後、Aは、財布が路上に落ちているのに気付き、Bが落としたものと思って、これを奪った。「H12−25] 
→暴行・脅迫と財物の占有の取得との間に因果関係がない。したがって、Aには、「強盗既遂罪」は成立しない。「強盗未遂罪」が成立するにとどまる・

<客観的には相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫がなされたが、相手方が犯行を抑圧されずに財物を交付した場合>

 一般人ならば反抗を抑圧される程度の暴行・脅迫がなされたものの、相手方が豪胆な性格であったために「反抗を抑制されず」、ただ憐みの気持ちから犯人に財物を与えたという事例において、判例は、強盗罪が既遂になるとした。

※被害者反抗を抑圧されてはいないものの、一応、「暴行・脅迫」と「財物の交付」との間に「因果関係」はみとめられる。判例が強盗「既遂」罪になるとしたのは、そのためだと考えられる。
 学説は、判例に反対し、被害者が反抗を抑圧されなければ、強盗罪は「未遂」にとどまると解している。

<出題例>

 Aは、金品を奪う目的でBにナイフを突き付けて金品を要求したところ、Bは、恐怖心は感じたものの、合気道の達人であるので、反抗ができないわけではないと思ったが、万一けがをしてはいけないと考え、自らAに所持金を差出し、Aは、これを奪った。[H13-25]
→判例の趣旨に照らすと、強盗既遂罪が成立する。

<実行の着手>

 強取の目的で「暴行・脅迫」を開始すれば、実行の着手となる。

<出題例>

 Aは、コンビニに押し入って売上金を強奪することを計画し、深夜、拳銃をもって営業中の店に侵入したが、たまたま店員が不在であったため、レジから売上金を奪った。[H13−25]
→強盗罪の実行の着手が認められない。窃盗罪が成立するにすぎない。

<居直り強盗>

 当初は単なる窃盗のつもりで財物を取得しようとしたところ、人に見つかり居直って財物奪取のために暴行・脅迫を行い、財物奪取を実現した場合「居直り強盗」は、財物奪取に向けた暴行・脅迫の開始をもって強盗罪の実行の着手とする。すでに窃盗に着手していた場合には、窃盗罪は強盗罪に吸収され包括的に評価される[→強盗罪とは別に窃盗罪が成立するわけではない。]。

<既遂時期>

 被害者の財物の占有を自己又は第三者に移転させた時点で既遂となる。

<強盗利得罪>

 「財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者」も、強盗の罪とされる[236条2項]。これを「強盗利得罪」とか「二項強盗罪」などという。

[1]「財産上・・・利益」とは、財物以外の財産的利益を指す。例えば、次のようなものがある。
・被害者に一定の財産的処分を行わせること・・・[例]債権者を脅して債務を免除させる
・被害者に一定の意思表示をおこなわせること・・・[例]地主を脅して山林の伐採を承諾させる
・被害者に一定の役務の提供を行わせること・・・[例]タクシー運転手を脅して、目的地まで運転させる。

「財産上の不法の利益」は、被害者から犯人の下に「移転することのできるもの」でなければならない。移転する性質のないものは、強盗利得罪の客体とならない。情報は、その保有者から犯人に移転するという性質のものもではない[保有者の下から失われない]ので、「財産上・・・の利益」にあたらない。

[2]「財産上不法の利益」とは、「利益自体が不法であること」ではなく、「不法に利益を移転させること」を意味する。

[3]「既遂」となるためには、暴行・脅迫を用いて、被害者から自己又は第三者に「財産上の利益を移転させること」が必要である。暴行・脅迫を行ったものの、財産上の利益が移転しなければ、強盗利得罪は「未遂」にとどまる。

<「財産上の利益が移転した」というためには「被害者が処分行為をしたこと」を要するか>

 例えば、債務者がみずからの債務を免れるために債権者に暴行・脅迫を加えたとする。この場合、どのような事情があれば強盗利得罪が既遂となるのかという問題である。

 かつては、被害者が処分行為をしたことを要するという判例もあった。確かに、このように考えると「財産上の利益が移転した」時点は明確になる。

 しかし、暴行・脅迫により反抗を抑圧された相手方に対して自由な意思による処分行為を要求することはできない。例えば、被害者が何の意思表示をする間もなく殺害された場合に、強盗利得罪が成立しないことになってしまうというのでは妥当ではない。
 したがって、現在では、強盗利得罪が既遂となるためには、被害者に処分行為をさせることは「不要」だと解されている。

 判例も、債権者殺しの事案において、「債権者をして支払の請求をしない旨を表示せしめて支払を免れた場合」だけでなく、「債権者をして事実上支払の請求をすることができない状態に陥らしめて支払を免れた場合」にも、強盗利得罪が成立するとした。

※ 処分行為とは、例えば、「もはやAには債務の履行を請求しない」など、債務を免除する意思表示を行うことをいう。

<事後強盗罪>

 窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡[ざいせき]を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗をとして論ずる[238条]。
 本罪は、窃盗犯人が、犯行中又は犯行終了後に、@財物の取り返しの防止のため、A逮捕を免れるため、B罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫に及ぶことが多いという刑事学上の実態に着目し、「人身の安全」という見地から、強盗罪と同様に扱い処罰することとしたものである。

<事後強盗罪の構成要件1>

[要件1]主体

 本罪の主体は、「窃盗犯人」である[「真正身分犯」]

[要権2]目的

 本罪の行為は、@財物を取り返されることを防ぐ目的、A逮捕を免れる目的、B罪跡を隠滅する目的をもって、「暴行・脅迫」を加えることである[「目的犯」である。]。
 「罪跡を隠滅する」には、例えば、証人となる人を殺す場合などが当てはまる。

[要権3]暴行・脅迫

・本罪も強盗罪として罰せられるので、暴行・脅迫は、「相手方の反抗を抑圧するに足りる程度」のものであることを要する。

・暴行・脅迫の相手方は、必ずしも「窃盗の被害者」に限られない。
「犯行を目撃して追跡してきた第三者」に暴行を加えた場合、逮捕を免れるために警察官に暴行を加えた場合にも、事後強盗罪が成立する。

<出題例>

 事後強盗罪における暴行・脅迫の相手方は、窃盗の被害者であることを要しない。

・暴行・脅迫の結果、現実に[2]の目的が達成されたか否かは問わない。

[要件4]暴行・脅迫が「窃盗の現場又はその機会の継続中」になされたものであること

 窃盗と、それとは全く無関係の暴行・脅迫をもって「強盗として論ずる」ことはできない。「窃盗+その後の暴行・脅迫」をもって「強盗として論ずる」ためには、暴行・脅迫が「窃盗の現場又はその機会の継続中」になされたものであることを要する。
 ここで「窃盗の機会」とは、窃盗の現場及びそれと時間的・場所的に接着した状況をさす。

<強盗として論ずる>

 事後強盗罪は「強盗として論ずる」とされる。「強盗として論ずる」とは、通常の強盗罪と同じ取扱いがなされるという意味である。事後強盗の手段である暴行・脅迫によって死傷の結果が生じた場合には、強盗致死傷罪[240条]が成立する。

<出題例>

 電車内で乗客Bから財布をすりとったAは、直ちにその電車を降りようとしたが、Bに呼び止められてその場で逮捕されそうになったため、これを免れようとして、その顔面を殴りつけて傷害を負わせた。→Aは強盗傷人罪。事後強盗の手段である暴行・脅迫によって死傷の結果が生じた場合には、強盗致死傷罪[240条]が成立する。

<事後強盗罪の未遂>

 事後強盗の未遂とは、「窃盗の未遂」を意味するのか、「暴行・脅迫の未遂」を意味するのか。
 
 判例は、事後強盗の未遂とは、「窃盗が未遂」である場合をいうと解している。暴行・脅迫を基準とすることは、財産犯であるという事後強盗罪の性格にそぐわないからだとされる。

≪事例1≫

 Aが留守中のB宅にて金品を物色していたところ、Bが帰宅した。Aは、Bによる逮捕を免れるため、Bに暴行・脅迫を加えてその反抗を抑圧し、B宅からの逃亡に成功したものの、金品を得ることはできなかった。→窃盗は未遂なので、事後強盗未遂罪

≪事例2≫

 Aが留守中のB宅からダイヤの指輪を盗み門外に出たところ、Bが丁度帰宅して発見された。Bは、Aとの格闘の末、指輪を取り返した。Aは、指輪を採り返されたものの、何とか逃亡することができた。→窃盗は既遂になっている。その後、AはBに暴行を加えているので、事後強盗既遂罪が成立する。

<強盗致死傷罪>

 強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処せられ、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処せられる[240条]。

 刑事学上、強盗の機会に死傷の結果が生じていることが多いことから、「人の生命・身体の安全の保護」を図るため、死傷の結果に対して特に重い刑が設けられた。

<死傷結果につき故意ある場合を含むか>

<事例>

@Aは、Bを殴ってその反抗を抑圧し、金品を奪取した。Bは、Aに蹴られたことによって顎の骨を折る重傷を負った。殴った際、AにはBに怪我をさせるつもりはなかった。
AAは、Bを殴ってその反抗を抑圧し、金品を奪取した。Bは、Aに蹴られたことによって顎の骨を折る重傷を負った。Aは最初からBに怪我をさせるつもりであった。
BAは、Bを殴って反抗を抑圧し、金品を奪取した。Bは、当たりどころが悪かったため、死亡した。殴った際、AにはBを殺害するつもりはなかった。
CAは、Bを殴って殺害し、金品を奪取した。Aは最初からBを殺害して金品を奪うつもりであった。

@傷害結果について故意がない場合→「強盗致傷」という。
A傷害結果について故意がある場合→「強盗傷人」という。
B殺害結果について故意がない場合→「強盗致死」という。
C殺害結果について故意がある場合→「強盗殺人」という。

 「させた」という文言があることから、240条は「結果的加重犯」の規定であって、傷害結果について故意ある場合を含まないと解する見解もあった。この見解によると、240条が適用されるのは@とBに限られ、AとCの場合には240条は適用されないという結論になる。
 しかし、通説・判例は、240条は故意ある場合を「含む」と解している。

 それはなぜか、
 この点、240条に故意ある場合を「含まない」と解する見解によると、死傷の故意ある場合は強盗罪[236条]と殺人罪[199条]の観念的競合[54条1項前段]となる。
 
 しかし、そうるすと「故意のない場合」よりも「故意ある場合」の方が刑の下限が軽くなるという不均衡が生じてしまう。この刑の不均衡等の理由から、240条は「故意ある場合」を「含む」と解されているのである。

※不均衡
<故意のない場合>→240条が適用→無期〜死刑
<故意ある場合>
≪故意ある場合を含むとする説≫(判例・通説)と≪故意ある場合を含まないとする説≫とで、次のように結論が異なる。

≪故意ある場合を含むとする説≫
→240条が適用→無期〜死刑
≪故意ある場合を含まないとする説≫
→236条と199条の観念的競合→5年〜死刑

<強盗の機会>

 死傷の結果は、必ずしも実行行為である暴行・脅迫から生じたものでなくともよく、「強盗の機会に生じたもの」であればよい。240条は、強盗の機会に死傷結果の発生することが多いことに鑑みて設けられた規定だからである。

 例えば、次のような場合には、「強盗の機会に生じたもの」と認められ、強盗致傷罪が成立する。
・暴行脅迫を加えたところ、被害者が「みずからの行為によって」傷害を負った場合
・強盗犯人が、強盗現場から少し離れた場所で、逮捕を免れるために被害者に暴行を行い、それによって傷害を負わせた場合

 判例は、タクシーから現金を強取するため拳銃を突きつけたが運転手が応じないため一旦下車し、その後再び同じタクシーに乗車したところ、5,6分後に交番前で停車されてもみあいになり、拳銃で殴って傷害を負わせた事件において、強盗の機会に生じたものであるとした。

<出題例>

 Aは、Bの財布を強取する目的でBに短刀を突き付けて脅迫したが、Bが抵抗したためもみ合いになり、たまたまBがAの持つ短刀を両手で握ったため、Bは傷害を負った。この場合、Aには強盗致傷罪が成立する。
→傷害の結果は、手段たる暴行によって発生したものではなく、「被害者自身の行為」によって発生したものであるが、「強盗の機会に生じたもの」といえる。

※ 判例は、強盗犯人が脅迫の目的でつきつけた日本刀に被害者がしがみついて負傷したという事案において、強盗致傷罪が成立するとした。同決定は、日本刀を突き付ける行為が「暴行」であると捉えた。これに対し、「脅迫からの致傷」とみる学説もある。

・強盗の機会に殺傷したものでなければ、強盗罪と傷害罪「又は殺人罪」が成立する。

<240条の未遂>

 240条の未遂とは、どのような場合か。
 判例は、財物の取得が完成したかどうかと関係なく、死傷の結果が発生すれば、既遂になるとする。

<事例1>
 殺して奪うつもりで殺したものの、後の財物奪取は未遂。→強盗殺人既遂罪
<事例2>
 殺して奪うつもりで斬ったものの、命を取り留めた。後の財物奪取には成功→強盗殺人未遂罪
<事例3>
 怪我をさせて奪うつもりで怪我をさせたものの、後の財物奪取は未遂。→強盗傷人既遂罪
<事例4>
 怪我をさせて奪うつもりで殴りつけたものの、被害者がうまく攻撃をかわして、怪我をしなかった。後の財物奪取には成功した→強盗罪※

 ※事例4について

 傷害の未遂は暴行である。よって「強盗傷人未遂罪」ではなく「強盗罪」が成立するという見解がある。
 これに対して、強盗傷人未遂の成立を認める見解もある。ただ、「強盗傷人未遂罪」の成立を認めた判例はない。

 結局、本罪の未遂は、「強盗殺人罪[殺意ある強盗」について殺人が未遂にとどまった場合」であると解されている。ポイントは、「殺してしまえば強盗殺人既遂罪」。

<出題例>

 強盗が財物奪取の目的を何ら達成せずに未遂に終わった場合でも、その暴行により相手に傷害の結果を発生させたときは、強盗致傷罪の既遂のときは、強盗致傷罪の既遂の責任を負う。
→Aは強盗致傷罪の既遂となる。傷害結果が発生したか否かが基準となる。

<出題例>

 AはB宅に侵入し、Bをナイフで脅迫して金品を強取しようとしたが、Bに騒がれたため、何も取らずに逃げようとしたところ、Bに足をつかまれたため、殺意をもってナイフでBの胸部を刺してこれを殺害した。
→Aは強盗殺人罪。「殺してしまえば強盗殺人既遂」だからである。

<強盗強姦罪、強盗強姦致死罪>
<242条>

 強盗が女子を強姦したときは、無期又は七年以上の懲役に処する。よって女子を死亡させたときは、死刑又は無期懲役に処する。

 強盗犯人が反抗を抑圧された婦女子を強姦することが少なくないことから、本条が定められた。
 本罪の主体となるのは、「強盗」すなわち「強盗犯人」である[身分犯]。

<出題例>

≪「強盗」犯人が「強姦」を行えば強盗強姦罪だが、「強姦」犯人が「強盗」を行っても、強盗強姦罪とはならない≫

 強姦を遂げた直後、当該被害者の畏怖に乗じて強盗の犯意を生じ、財物を奪取したときは、強盗強姦罪が成立するのではなく、強姦と強盗の2罪が成立する。
→判例のとる立場である。強姦犯人が強盗を行っても、強盗強姦罪とはならない。

つづく・・・
タグ:刑法各論
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2012年02月19日

独学院 窃盗罪の行為から

参りましょう。

<窃盗罪の行為>

 窃盗罪の行為は、「窃取」である[235条]。
 「窃取」とは、他人の占有する財物を、その者の意思に反して、自己又は第三者の占有に移すことをいう。

 窃取については、その手段・方法を問わない。詐欺的方法がとられていも、詐欺罪を構成するのであれば、窃取にあたる[詳しくは「詐欺罪」にて後述]。

 ≪詐欺的手段が財産的処分行為に向けられたものではない→詐欺罪ではなく窃盗罪≫

・衣料品店の顧客を装い、上衣を試着したまま、便所に行くと偽って逃走する行為→詐欺罪ではなく窃盗罪

※ 詐欺罪は、「人を欺いて錯誤に陥らせ、錯誤に陥った被害者の処分行為にもとづいて、犯人が財物の占有を取得すること」が必要である。
「欺く行為→被害者が錯誤に陥ること→錯誤に陥った被害者が財産的処分行為をすること→犯人又は第三者が財物の占有を取得すること」という「因果関係」がなければならない。
 「欺く行為」は、被害者の財産的処分行為(例えば、財物の交付)に向けられたものでなければならず、その「欺く行為」によって被害者が錯誤に陥り、それにもとづいて財産的処分行為を行ったと認められる場合でなければならない。
 「便所に行く」と偽る行為によって、店員は錯誤に陥ったが、それによって「上衣の占有を犯人に移転する」という意思はない。店員としては、犯人は「便所に行くだけでまた戻って来る」と考えていたからである。

≪詐欺的手段が「人」に向けられたものではない→詐欺罪ではなく窃盗罪≫

 詐欺罪の実行行為である「欺く行為」は「人」に対するものでなければならず、「機械」に対する行為は、たとえ詐欺的な行為であっても、「欺く行為」とはならない。窃取行為あたる。

・パチンコ玉を磁石で誘導して穴に入れて当たり玉を出して取得する行為
・不正に取得したキャッシュカードを用いて銀行の現金自動支払機から現金を引き出す行為
・送金銀行の手違いで自己の口座に過剰入金されたことを奇貨として、自己のキャッシュカードを用いて銀行の現金支払機から現金を引き出す行為

<窃盗罪の着手時期>

 財物に対する他人の占有を侵害する行為ないしそれに密接に関連する行為を開始した時点。いつの時点で侵害行為が開始されたかは、行為の場所・状況や、財物の性質・形状などをもとに具体的に判断される。←刑法総論第2部 未遂犯で学習済み。

[1]住居侵入窃盗の場合

 判例は、他人の財物に対する事実上の支配を犯すについて密接な行為をした場合には、実行の着手が認められるとし、具体的には「金品物色のために箪笥に近づいた時点」に実行の着手が認められるとした。

[2]すりの場合

 「他人のズボンのポケットにある財布を狙って、そのポケットの外側に手を触れた時点」に、実行の着手が認められれる。

※ ただし、ポケット内に財布があるかないかを確かめる行為[いわゆる「あたり行為」であれば、実行の着手が認められないと解される。]。

<窃盗罪の既遂時期>

 通説・判例は、不法に領得する意思で、「他人の支配内にある物件を自己の支配内に移した時点」で既遂となると解している。つまり、「行為者が占有を取得した時点」である[「取得説」とよばれている。]。

 具体的には、@財物の大小、A搬出が容易なものか、B他の者の支配領域内であるのか等によって、判断される。

●店頭にある靴下をその場で懐中におさめた時は、その時に既遂に達する。

●棚や囲い等を設けて管理・警戒されている坑内から窃取する場合は、現実に警戒を突破して財物を構外に持ち出さなければ既遂にならない。

●倉庫から持ち出した財物をトラックの荷台の廃品の山をかきわけて積み込み、その上からさらに廃品をかぶせて隠匿したような場合は、そのときに窃盗罪は既遂となる。

<不可罰的事後行為>

 窃盗罪は、「状態犯」である。「状態犯」とは、一定の法益侵害が発生したことにより犯罪が終了するもので、犯罪によって発生した法益侵害状態が持続してもそれが犯罪とは見られないものをいう。

 例えば、窃盗犯人が指輪を盗むと、盗んだことにより犯罪は終了する。その後、窃盗犯人が指輪を捨てたり、壊したりしても、新たな犯罪は成立しない。それらの行為の違法性は、窃盗罪により評価し尽くされているからである。既遂に達した後は、違法状態が存続するが、それは犯罪事実ではない。したがって、窃盗罪が既遂に達した後、行為者が目的物を使用・処分しても、それが窃盗罪として包括的に評価されている限りにおいて、いわゆる「不可罰的事後行為」として扱われるにすぎない。

 もっとも、事後の処分行為が新たな法益の侵害を伴うために、窃盗罪としての評価を超えるような場合には、別の犯罪が成立する。

 例えば、預金通帳を窃取した後に、これを利用して現金の払い戻しを受ける場合には、預金通帳についての窃盗罪とは別に詐欺罪等が成立する。そして窃盗罪とは併合罪[45条]となると解されている。

<不動産侵奪罪1>

[1]終戦後、他人の不動産の不法占拠が横行した。そのような事態に対処すrため、昭和35年に本罪が設けられた。

[2]客体

 他人が占有する他人の不動産である。
 「不動産」とは、土地及びその定着物をいい[民法86条1項]、土地には、一定範囲で地上の空間及び地下を含む。不動産から分離して動産と化した物に対しては、本罪ではなく、窃盗罪が成立する。

<出題例>

 Aは、自己所有の家屋の2階部分を隣家の庭の上に張り出して増築した。判例の趣旨に照らすと、Aに不動産侵奪罪が成立する→増築により、隣家の「土地上の空間」を侵奪したと認められる。

<出題例>

 Aは、他人所有の畑に生育している作物を抜き取った上、その地表の肥土を持ち去った。→不動産侵奪罪ではなく窃盗罪が成立。不動産から分離して動産と化しているから。

[3]行為

 「侵奪」とは、不動産に対する他人の占有を排除して、その不動産に自己又は第三者の占有を設定することをいう。その態度を問わない。
 例えば、「他人の土地上に建物を建築する」、「他人の建物に住みつく」、「囲壁を設けて監視する」、「境界線を移動させて隣地を取り込む」などがある。

●窃盗罪と同様、不動産侵奪罪で問題となる「占有」とは、事実上の支配である。不動産の登記を自己名義に改変することは、「侵奪」にはあたらない。事実上の支配が移転していないからである。

●賃借人が不動産賃貸借契約終了後にそのままその不動産を占有し続けても、「侵奪」にはあたらない。「賃貸人の占有を排除して新たに占有を設定した」というわけではないからである。

<出題例>

 建物の賃借人であるAは、賃料不払いのため賃貸借契約を解除され、賃貸人から引渡請求を受けたにもかかわらず、その後も居住し続けた。判例の趣旨に照らすと、「Aに不動産侵奪罪が成立する」というわけではない。

●これに対し、従来の占有状態を質的に変化させ、新たに自己又は第三者のために占有を設定したと認められる場合には、「侵奪」にあたる。
 判例は、従来からの土地利用者がその利用権限を超えて、その土地上に大量の廃棄物を堆積させて、容易に原状回復することができないような状態にした行為について、不動産侵奪罪の成立を肯定した。

<親族間の犯罪に関する特例[親族想盗例]>

[1]趣旨

●「配偶者、直系血族又は同居の親族との間」で窃盗罪、不動産侵奪罪又はこれらの罪の未遂犯を犯した者は、その刑を免除される[244条1項]。

●「244条1項に規定する親族以外の親族との間」で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない[=「親告罪」という。]とされる[244条2項]。

●「前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。」[244条3項]

 これは、「法律は家庭に入らず」の考え方にもとづく規定であると解されている。親族間の財産秩序に関する問題は、親族間の処分に委ねたほうがよいと考え、国家による干渉を差し控えることにしたのである。

[2]法的性格

●本特例は、親族という身分のあることを基礎として、一身的に処罰だけを阻却したものと解されている[「一身的処罰阻却事由」という。]。→「構成要件該当性」「違法性」「有責性」の要件を充たし、犯罪は成立するが、ただ処罰だけが阻却される。

●同じ親族であっても、その親密さの度合いには様々ある。そこで、親密さの度合いに応じて、効果に違いが設けられている。

≪配偶者、直系血族又は同居の親族との間≫・・・刑の免除
≪244条1項の親族以外の親族との間≫・・・親告罪

[3]誰と誰との間に親族関係が必要か。
 
 例えば、AがB所有の財物を占有していた。Xがその財物を窃取したとする。この場合に、Xと誰の間に親族関係があれば、244条が適用されるのか。

 判例は、窃盗犯人が所有者以外の者の占有する財物を窃取した場合において、刑法244条1項が適用されるためには、同条1項の親族関係は、「窃盗犯人と財物の占有者との間」のみならず、「所有者との間にも」存することを要するとした。
 つまり、上記の例では、例えば、XとAB双方の間に親族関係がなければならないことになる。

<例> 父親がAが同居中の弟Bから借りている時計を、同居中のAの子Xが窃取した。→244条1項が適用される。

<死者の占有>

 死者には、占有の事実も、占有の意思も存在しないはずである。よって、出題例のように、被害者を殺害してから、その財物を奪取する意思を生じた場合、占有離脱物横領罪が成立する。

出題例

「長年恨んでいた知人を殺害するため、深夜、同人が一人暮らしをするアパートの一室に忍び込んで、寝ている同人の首を絞めて殺害し、死亡を確認した直後、枕元に同人の財布が置いてあるのが目に入り、急にこれを持ち去って逃走資金にしようと思い立ち、そのまま実行した場合、持主である知人は死亡していても、占有離脱物横領罪ではなく、窃盗罪が成立する」というわけではない。(H20-26)

 しかし、判例は、「当初から財物を領得する意思は有していなかったが、野外において、人を殺害した後、領得の意思を生じ、右犯行直後、その現場において、被害者が身につ行けていた時計を奪取した」という場合には、「被害者が生前有していた財物の所持はその死亡直後においてもなお継続して保護するのが法の目的にかなう」とい、「被害者からその財物の占有を離脱させた自己の行為を利用して右財物を奪取した一連の被告人の行為は、これを全体的に考察して、他人の財物に対する所持を侵害したものというべきである」として、窃盗罪が成立するとした。

■これに対し、殺人犯人と無関係な第三者[=殺害現場を物陰から覗いていた者など]が、殺人犯人が去った後、死体から財物を奪っても、窃盗罪ではなく占有離脱物横領罪が成立するにとどまる。死者の生前の占有が死亡直後に保護されるのは、あくまでも、「殺人犯人」との関係において、だけである。

■強盗犯人が、初めから殺して財物を奪うつもりで、被害者を殺害した場合には、その時点で、強盗殺人罪が既遂となる。

つづく・・・
タグ:刑法各論
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