にほんブログ村 資格ブログ 司法書士試験へ
にほんブログ村
人気ブログランキングへ

何の記事を読むか、クリックしてね。

憲法 民法 民事保全法 民事訴訟法 民事執行法 供託法

不動産登記法 商業登記法 会社法 刑法


2012年03月10日

独学院 賄賂[わいろ]の罪から

今日で刑法は終わりです。参りましょう。

<賄賂[わいろ]の罪>

 賄賂罪は、公務員がその職務に関して不正の報酬[賄賂]を受け取る等することを内容とする犯罪である。
 賄賂罪の保護法益は、職務の公正及びそれに対する社会の信頼である。

 賄賂の罪の主体は、公務員である。

 「賄賂」とは、公務員の職務に関する不正の報酬としての一切の利益をいう。
 公務員に提供される不正の報酬としての利益の典型例は金銭であるが、その他の財産的利益はもちろん、およそ人の欲望を満足させる利益であれば、すべて賄賂となりうる。
 もっとも、社会慣習上是認される範囲での礼意的贈与は、賄賂にはあたらない。

<職務関連性>

 賄賂としての報酬は、「汚職に関し」てのものでなければならない。これを職務関連性という。
 「職務」とは、法令上、当該公務員等の一般的・抽象的な職務権限に属するものであればよく、具体的に事務分配を受けて担当している職務でなくても良い。一般的・抽象的な職務権限に属する行為の対価として金品の収受等があれば、職務の公正に対する社会一般の信頼が害されるからである。
 たとえば、ロッキード事件では、総理大臣が運輸大臣[現在の国土交通大臣]に特定の民間航空機の購入を勧奨するよう働きかけたことに対する金品の収受について、職務関連性が肯定された。総理大臣は、一般的な職務権限として内閣の明示の意思に反しない限り行政各部に対して、その所管事務について一定の方向で処理するよう指示を与える権限があり、先の総理大臣の運輸大臣に対する働きかけは一般的な職務権限内の行為といえるとしたものである。

 さらに「職務に関し」とは、一般的職務権限に属する行為に対する場合だけでなく、「職務に密接に関連する行為」に対する場合も含まれるとされる。
 「職務に密接に関連する行為」とは、本来の職務行為として法令上の効力は認められないとしても、職務行為と関連性があり社会通念上職務行為として認められ行われるものをいう。
 判例は、市議会議員が市議会議長選挙に関し、同じ会派に属する議員の投票を拘束する趣旨で投票すべき候補者を選出する行為は、市議会議員の職務に密接な関係のある行為とした。

<単純収賄罪>

 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求をし、若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処せられる[197条1項前段]。

 本罪の主体は、公務員である[真正身分犯]。

 本罪の行為は、賄賂の「収受」、「要求」、「約束」のいずれかである。
 「収受」とは、賄賂を取得することである[賄賂収受罪]。
 「要求」とは賄賂の供与を要求することである[賄賂要求罪]。要求行為があれば相手方がこれに応じなくても既遂になる。
 「約束」とは、賄賂を贈る相手方[賄賂者]との間で将来賄賂を収受することについて合意することをいう。現実に賄賂が授受されなくても、約束したことで既遂になる。

 主観的には、賄賂の収受、要求、又は約束にあたり、その目的とされた利益が職務行為の不正な対価[賄賂]にあたることの認識が必要である。このような認識がなければ故意はみとめられない。

<受託収賄罪>

 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求をし、若しくは約束をした場合において、請託を受けたときは、7年以下の懲役に処せられる[197条1項後段]。
 本罪は、収賄が請託を受けてなされることから、単純収賄罪よりも重く処罰するものである。

 「請託」とは、職務に関し、一定の職務行為を依頼することである。請託があった場合、具体的な職務との対価関係が明白となり、職務の公正に対する社会の信頼が強く害されるので、重く処罰されるのである。

 請託は、正当な職務行為に対するものであっても良い。
 また、将来の職務行為に対するものでもよい。判例は、市長が任期満了前に、市長の一般的職務権限に属する事項で、かつ、再選された場合に具体的に担当することになる職務について請託を受けて賄賂を収受したときは、受託収賄罪が成立するとした。

<事前収賄罪>

 公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合において、5年以下の懲役に処せられる[197条2項]。

 本罪の主体は、「公務員になろうとする者」である。

 「その担当すべき職務」とは、将来、相当程度の蓋然性をもって担当する可能性があるという場合である。
 請託を受けてなされることを要する。

 行為者は、公務員となった場合に、罰せられる。 
 市長候補者が、市長の職務に関して請託を受けて賄賂を受け取っても、市長に当選できなかった場合には処罰されない。

<第三者供賄罪>

 公務員が、その職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与させ、又はその供与の要求若しくは約束したときは、5年以下の懲役に処せられる[197条の2]。

 本罪は、公務員が賄賂者から第三者に対して賄賂を提供させることを内容とする犯罪である。

 「供与」とは、第三者に賄賂を受け取らせることをいう。
 供与の「約束」や「要求」があれば、実際に第三者が賄賂を受け取らない場合でも、本罪が成立する。
 公務員等の職務に関し、請託を受けてなされることを要する。

<加重収賄罪>

 公務員が単純収賄罪、受託収賄罪、事前収賄罪、又は第三者供賄罪を犯し、よって不正な行為をし、又は相当の行為をしなかったときは、1年以上の有期懲役に処せられる[197条の3第1項]。

 公務員が、その職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、若しくはその要求若しくは約束をし、又は第三者にこれを供与させ、若しくはその供与の要求若しくは約束をしたときでも、上記と同様に処せられる[同条2項]。

 本罪は、収賄行為とともにそれに関連して職務違反の行為が行われたことを理由に、特に重く処罰するものである。

<加重収賄罪の構成要件>

 本罪の主体は、公務員であるが、事前収賄罪による不正な行為等も処罰の対象となるので、公務員となろうとする者が公務員となった場合も含まれる。

 本罪の行為は、次のとおりである。
@単純収賄罪、受託収賄罪、事前収賄罪、又は第三者供賄罪を犯し、
よって
A不正な行為をし、又は相当の行為をしなかったこと
又は、
@その職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、
A賄賂の収受・要求・約束or第三者へ賄賂を供与させor供与の要求・約束をしたこと

<事後収賄罪>

 公務員であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処せられる[197条の3第3項]。

 本罪は、公務員等が退職後に、在職中の職務違反行為に関連して収賄することを内容とする犯罪である。

 本罪は、@在職中の請託、A職務上の不正行為、B退職後の賄賂の収受・要求・約束により構成される。

 本罪に関連して、公務員等が一般的職務権限を異にする他の職務に転じた後で、転職前の職務に関して賄賂を収受した場合に、単純収賄罪が成立するのかという問題がある。
 すなわち、一般的職務権限を異にする職務に関して賄賂を収受している以上、職務との関係では「公務員であった者」として事後収賄罪として扱われ、その結果請託や職務上の不正行為がないと処罰されないのではないかという問題である。
 判例は、事後収賄罪にいう「公務員であった者」には現在公務員である者は含まれないとして、事後収賄罪の問題にはせず、単純収賄罪の成否の問題であるとした。そして、公務員が一般的職務権限を異にする他の職務に転じた後に、前の職務に関して賄賂を収受した場合であっても、供与の当時、供与を受けた者が公務員である以上、単純収賄罪が成立するとした。

<あっせん収賄罪>

 公務員が請託を受けて、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんすること、又は、したことの報酬として、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処せられる[197条の4]。

 本罪は、たとえば、国会議員が地元の業者等から依頼を受け、その地位を利用して、官僚に不正な行為をさせることについて仲介して便宜を図り、謝礼を受け取るような場合を予定している。
 この場合の賄賂は、自己の職務の対価としてではなく、仲介の便宜を図った対価として収受等するものである。

 本罪の主体は、公務員である。

 「請託を受け」とは、他の公務員の職務行為についてあっせんすることの依頼を受けて、これを承諾することである。
 「あっせん」とは、他の公務員に職務上の違反行為をさせることについて、請託者又は賄賂者と他の公務員との間にたって、仲介し便宜を図ることをいう。
 あっせんは、過去のあっせんでも、将来行われるあっせんでもよく、それに対して賄賂が収受、要求、約束されればよい。

<贈賄罪>

 各収賄罪[197条〜197条の4]に規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処せられる[198条]。

 賄賂の罪においては、賄賂を提供される側のみならず提供する側も、公務の執行の公正を害するものとして、処罰対象とされる。
 「供与」とは、賄賂を相手方に収受させる行為をいう。相手方が収受することを要し、収受しない場合には、「申込み」とされる。
 「申込み」は、賄賂の供与の申出である。相手方が賄賂であることを認識する必要は無いが、認識できる状態で行われる必要がある。
 「約束」とは、将来、賄賂の供与について公務員等と合意することである。

 贈賄罪の供与と収受、約束とは必要的共犯関係にあり、相手方に賄賂収受罪、賄賂約束罪が成立する。

<没収・追徴>

 犯人又は情を知った第三者が収受した賄賂は、没収される。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴させる「197条の5」。

 賄賂罪における賄賂は、犯罪行為を組成した物[犯罪組成物件]である。刑法上、犯罪組成物件に対する没収・追徴は、任意的なものであるが「19条・19条の2」、賄賂罪において、「収受した賄賂」は、必要的に没収又は追徴される。収賄者側に不法の利益を保持させない趣旨である。

刑法終わり、お疲れ様。つづく・・・

ラベル:刑法各論
posted by 94条2項の類推適用されずじまい at 11:08| Comment(1) | 刑法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月09日

独学院 汚職の罪から

参りましょう。

<汚職の罪>

 汚職の罪[第25章]とは、公務員の職務に関する犯罪で、国家機関を構成する公務員自身が国家の作用を侵害する点に特色がある。

 汚職の罪は、職権濫用の罪[193条以下]と賄賂の罪[197条]とに分かれる。

<職権濫用の罪>

 職権濫用の罪とは、公務員が、その職務権限を不当に行使して、又はその職務を行うにあたって、違法な行為をすることを内容とする犯罪である。

 職権濫用罪の保護法益は、第1次的には、国家の司法作用・行政作用の適正あるいは公務の公正さに対する国民の信頼であるが、第2次的には、職権濫用行為の相手方となる個人の法益である。

 職権濫用罪の類型としては、公務員職権濫用罪[193条]、特別公務員職権濫用罪[194条]、特別公務員暴行陵虐罪[195条]、特別公務員職権濫用等致死傷罪[196条]がある。

<公務員職権濫用罪>

 公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、2年以下の懲役又は禁錮に処せられる[193条]。

 本罪の主体は、公務員であるが[真正身分犯]、通説は、ある行為を命じ、必要に応じて、それを強制しうる権限を有することが必要と解されている。

 本罪の行為は、職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害することである。

 「職権を濫用」とは、職務上の権限を不法に行使することである。すなわち、公務員が、その一般的職務権限に属する事項につき、職権の行使に仮託して実質的、具体的に違法、不当な行為をすることである。

 「義務のないことを行わせ」とは、法律的にまったく義務のない行為を行わせる場合はもちろん、一応義務のあるときに、その義務の態様を変更して行わせる場合も含む。

 「権利の行使を妨害」とは、法律上認められている権利の行使を妨げることをいう。

<特別公務員職権濫用罪>

 裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者がその職権を乱用して、人を逮捕し、又は監禁したときは、6月以上10年以下の懲役又は禁錮に処せられる[194条]。

 本罪の主体は、裁判、検察若しくは警察の職務を行う者、又はこれらの職務を補助する者である。すなわち、裁判官、検察官、司法警察員※であり、これらの者の職務を補助する裁判所書記官、検察事務官、司法巡査※※等である。
 これらの特別公務員が主体であることによって、逮捕監禁罪[220条]に対して刑が加重されている。すなわち、本罪は不真正身分犯である。

※警察官の階級には、警視総監、警視監、警視長、警視正、警視、警部、警部補、巡査部長及び巡査があるが、巡査部長以上の階級にある警察官を司法警察官という。

※※巡査の階級にある警察官をいう。

 本罪の行為は、職権を乱用して、人を逮捕又は監禁することである。

 本罪と公務員職権濫用罪、本罪と逮捕監禁罪とは特別関係に立つ。

<特別公務員暴行・陵虐罪>

 裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うにあたり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は凌辱若しくは加虐の行為をしたとき、7年以下の懲役又は禁錮に処せられる[195条1項]。
 法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は凌辱若しくは加虐の行為をしたときも同様とされる[同条2項]。

 本罪の行為は、職務を行うにあたり、暴行又は凌辱若しくは加虐の行為をすることである。

 「職務を行うにあたり」とは、職務を行う機会に、ということであり、必ずしも、職務遂行の手段・方法としてなされることを必要としない。「暴行」は、広義の暴行であり、人に対する不法な有形力の行使である。
 「凌辱若しくは加虐の行為」とは、暴行以外の方法で、精神的又は身体的に苦痛を与える一切の行為をいう。相当な食事をさせない、侮辱的な言動を弄する、睡眠を妨げる等の行為がこれにあたる。

 被害者の承諾があっても本罪の違法性は阻却されない。本罪は、単に個人的法益を保護するものではなく、公務員の汚職行為を処罰するものであるからである。

 暴行罪は、本罪に吸収される。凌辱若しくは加虐の行為として、わいせつ行為等が行われた場合であっても、本罪の成立のみを認めるのが判例である。

つづく・・・
ラベル:刑法各論
posted by 94条2項の類推適用されずじまい at 10:23| Comment(0) | 刑法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月08日

独学院 偽証の罪から

参りましょう。

<偽証の罪>

 偽証の罪は、法律により宣誓した証人・鑑定人・通訳人・翻訳人が偽証の陳述・鑑定・通訳・翻訳を行う犯罪である。

 保護法益は、国家の審判権あるいは審判作用の安全である。すなわち、証人等が、虚偽の証言等を行うことは、審判機関の正当な判断を誤らせ、審判権の適正な行使を妨げるおそれがあるが、それを防止することを目的とする。

 偽証の罪には、偽証罪[169条]、虚偽鑑定・通訳・翻訳罪[171条]が含まれる。


<偽証罪>

 法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは3月以上10年以下の懲役に処せられる[169条]。

 偽証罪の主体は、法律により宣誓した証人であり、本罪は真正身分犯である。
 行為は虚偽の陳述であるが、その虚偽の意味については争いがあり、客観説と主観説が主張されている。

 客観説は、虚偽とは証人の陳述の内容をなす事実が客観的真実に反することであるとする見解である。仮に証人が偽証の意思で陳述しても、それが真実に合致している限り、国家の審判権あるいは審判作用が害させるおそれはないことを理由とする。

 これに対し主観説は、虚偽とは証人の陳述の内容をなす事実が証人の記憶に反することであるとする見解である。証人が自己の経験した内容を正確に再現することが、国家の審判権あるいは審判作用の適正な行使にとって重要であるということを理由とする。

 判例は、主観説の立場に立つ。すなわち、事実を見聞していない証人が、現にこれを見聞したと称して虚偽の陳述をなす時は、偽証罪は完全に成立するのであって、証人が現に見聞したと偽って供述した事実が実際の事実に符合するかどうかは、偽証罪の成立に何ら影響を及ぼさない、とした。

 偽証罪の虚偽の陳述における「虚偽」についての客観説と主観説との差異は、記憶には反するが真実であると信じて証言したところ、実際には真実ではなかった場合にあらわれる。
 すなわち、この場合、客観説では、偽証罪の故意の内容は自己の陳述の内容が客観的真実に反することの認識ということになるが、そうすると真実だと信じて証言した場合には、偽証罪の故意を欠くことになって、自己の記憶に反することを知りながら客観的に虚偽の事実を陳述したのにもかかわらず、結論として不可罰とせざるをえないことになってしまう。これに対し、主観説では、上記の場合でも記憶に反する陳述である以上、虚偽の陳述にあたり、偽証罪が成立する。

<偽証罪の罪質>

 偽証罪は、抽象的危険犯である。したがって、現実に国家の審判作用が害されたことは必要でない。また、虚偽の陳述が審判作用を害する恐れが全くない場合であっても、偽証罪の成立を認めるのが判例である。すなわち、虚偽の陳述をすれば直ちに偽証罪が成立することを認め、その陳述が当該事件の裁判の結果に影響するかどうかは問わない、とした。ただし、この考え方は少数説であり、通説は、抽象的危険さえない場合には、偽証罪は成立しないとする。

<刑事被告人による偽証の教唆>

 刑事被告人は、自己の刑事被告事件について、偽証罪の正犯たりえないが、正犯たりえない者が他人を教唆して虚偽の陳述をさせた場合にも、偽証教唆罪を構成するかどうかが争われており、肯定説と否定説とが主張されている。

 肯定説は、他人を犯罪に陥れることについても期待可能性を欠くとはいえないし、弁護権の範囲を超えている、ということを理由とする。

 これに対し否定説は、教唆犯は法益を間接的に侵害するものであるから、その犯罪性が正犯より重いということはないにもかかわらず、正犯として処罰されないのに教唆犯としてなら処罰されるのは不都合であるということを理由とする。

 判例は、他人に虚偽の陳述をするよう教唆したときは、偽証教唆の責を免れない、として、肯定説によることを明らかにした。

<自白による刑の減免>

 偽証罪[169条]を犯した者が、その証言をした事件について、その裁判が確定する前又は懲戒処分が行われる前に自白したときは、その刑が減軽され、又は免除させることがある[170条]。刑の減軽又は免除をするかどうかは裁判所の裁量による。

 これは、証人が虚偽の陳述をした場合であっても、裁判確定前又は懲戒処分前に自白すれば、刑の減軽又は免除を認めることとして、誤った裁判又は懲戒処分を未然に防止することを目的とする政策的な規定である。

<虚偽申告の罪>

 人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、3月以上10年以下の懲役に処せられる[172条]。

 虚偽告訴罪が、第1次的には国家的法益を侵害する犯罪であって、国家の審判作用を害する罪であることに争いはないが、第2次的に個人的法益に対する犯罪としての性質も有するかについては争いがある。虚偽告訴により、捜査機関又は懲戒権者が捜査又は懲戒のための調査を行えば、虚偽告訴された者は、その私生活の平穏が害されるおそれがあるからである。
 判例・通説は、このような事情も重視して、虚偽告訴の罪の保護法益は国家的法益だけでなく、第2次的に個人的法益をも含むとしている。

 虚偽告訴罪の行為は、虚偽の告訴、告発その他の申告をすることである。虚偽の申告とは、申告の内容をなすところの刑事、懲戒の処分の原因となる事実が客観的真実に反することをいう、と解されている。客観的事実と合致している事実を申告する場合には、国家の捜査権ないし懲戒のための調査権の行使が不当に害されることはないからである。偽証罪における虚偽の概念とは異なる。したがって、行為者が、客観的に真実である事実を虚偽であると誤信して申告しても、虚偽告訴罪は成立しない。

 なお、虚偽申告罪を犯した者が、その申告をした事件について、その裁判が確定する前又は懲戒処分が行われる前に自白したときは、偽証罪の場合[170条]と同様に、その刑が減軽され、又は免除されることがある[173条]。

つづく・・・
ラベル:刑法各論
posted by 94条2項の類推適用されずじまい at 15:56| Comment(0) | 刑法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月07日

独学院 犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪から

参りましょう。

<犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪>

 犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪は、その保護法益を犯罪の捜査、審判及び刑の執行に関する国家の権能、すなわち国家の刑事司法作用とし、その侵害を内容とする犯罪である。

 その類型として、犯人蔵匿罪[103条]、証拠隠滅罪[104条]、証人等威迫罪[105条の2]がある。

<犯人蔵匿罪>

 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられる[103条]。

 犯人蔵匿罪の客体は、罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者である。

 罰金以上の刑に当たる罪とは、法定刑が罰金以上の刑を含む罪をいう。

 罪を犯した者の意味については、真犯人であることを要すかについて争いがあるが、判例は、刑法103条は司法に関する国家の作用を妨害する者を処罰しようとするものであるから、罪を犯した者は、犯罪の嫌疑によって捜査中の者を含むと解釈しなくては、立法の目的を達し得ないとする。また、同様の理由から、罪を犯した者には、犯人として逮捕・勾留される者も含まれる、とする。

 また、真に罰金以上の刑にあたる罪を犯した者であることを知りながら、官憲の発見、逮捕を免れるように、その者をかくまった場合には、その犯罪がすでに捜査官憲に発覚して捜査が始まっているかどうかに関係なく、犯人蔵匿罪が成立する、とした。


<犯人蔵匿罪の行為・故意>

 犯人蔵匿罪の行為は、蔵匿し、又は隠避させることである。

 蔵匿とは、官憲の発見・逮捕を免れるべき場所を提供してかくまうことをいう。

 隠避とは、蔵匿以外の方法で、官憲の発見・逮捕を免れさせる一切の行為をいう。
 例えば、犯人に金員を供与したり、他人を身代わり犯人として、警察に出頭させ、警察官の取調べに対し、虚偽の陳述をさせた場合が隠避にあたる。
 また、罪を犯した者には、犯人として逮捕・勾留されている者も含まれるが、このような者について現になされている身柄の拘束を免れさせるような性質の行為も同条にいう隠避にあたると解されている。
 なお、隠避の場合を犯人隠避罪ということがある。

 犯人蔵匿罪の故意の内容について、蔵匿・隠避の客体が、罰金以上の刑にあたる罪を犯した者、又は拘禁中逃走した者であることについては、どの程度の認識が必要であるかか問題であるが、判例は、犯罪の嫌疑によって捜査中の者をも含むと解するのであるから、真犯人であるかどうかの認識は不要であるとした。また、非蔵匿者が密入国者であることを認識してこれを蔵匿した以上、その刑が罰金以上であることの認識がなくても、犯人蔵匿罪が成立する、とした。

<証拠隠滅罪>

 他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられる[104条]。

 証拠隠滅罪の客体は、他人の刑事事件に関する証拠である。
 他人とは、行為者以外の者をいう。
 証拠とは、刑事事件につき、捜査機関又は裁判機関が、国家刑罰権の有無を判断するに当たり、関係があると認められる一切の資料をいう。物証の他、証人・参考人等の人証も含む。そして、証拠は、刑事事件に関するものに限られており、民事事件の証拠を隠滅しても証拠隠滅罪は成立しない。
 刑事事件は公訴提起後の刑事被告事件だけでなく、控訴提起前の被疑事件、さらには、将来、係属しうるものも含まれると解されている。
 
 証拠隠滅罪の行為は、隠滅、偽造、変造、偽造・変造の証拠の使用である。このうち、隠滅とは、証拠そものもを滅失させる行為のほか、証拠の顕出を妨げ、又はその証拠価値・効力を滅失・減少させるすべての行為をいう。証拠物件を廃棄・隠匿する行為はもちろん、証人となるべき者又は参考人となるべき者を隠匿する行為も隠滅にあたる。

<犯人等による犯人蔵匿罪等の教唆>

 犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪は行為者以外の他人を蔵匿・隠避し、あるいは他人の刑事事件に関する証拠を隠滅する犯罪であるから、犯人や逃走者がみずから犯人蔵匿あるいは証拠隠滅を行っても犯罪は成立しないが、他人を教唆して自己を蔵匿・隠避させ、あるいは自己の刑事事件に関する証拠を隠滅させた場合に犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪の教唆犯が成立するかどうかが問題となる。

 この点につき判例は、多数説である肯定説の立場に立つ。すなわち、犯人蔵匿罪につき、犯人自身の単なる隠避行為は、いわゆる防御の自由に属するが、他人を教唆した自己を隠避させ、犯人蔵匿罪を実行させるに至っては、防御の濫用に属し、法律の放任行為として干渉しない防御の範囲を逸脱したものといわざるをえないから、被教唆者に対し、犯人隠避罪が成立する以上、教唆者である犯人は犯人隠避教唆の罪責を負わなければならない、とした。また、証拠隠滅罪についても、教唆犯の成立を認めている。

 なお、肯定説には、犯人・逃走者自身が行う場合と異なり、他人を教唆した場合には、他人を罪におとしいれるものであるから、もはや期待可能性がないとはいえないということを主たる理由とする見解もある。

<親族による犯人蔵匿罪、証拠隠滅罪に関する特例>

 犯人蔵匿の罪[103条]、証拠隠滅等の罪[104条]については、犯人又は逃走した者の親族が、これらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除される場合がある[105条]。

 親族による犯人の蔵匿等や、証拠の隠滅等は、親族間の人情に基づく行為であって、適法行為の期待可能性が少なく、責任が減少すると考えられることから、裁量的な刑の免除事由とされた。

つづく・・・
ラベル:刑法各論
posted by 94条2項の類推適用されずじまい at 11:27| Comment(0) | 刑法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月06日

独学院 国家の作用に対する罪から

参りましょう。

<国家の作用に対する罪>

 刑法は、国家の立法、行政、司法の各作用が、円滑・公正に行われるようにするため、国家の作用に対する罪を規定している。
 なお、これらの中には国家自体の作用を害するものの他、地方公共団体等の作用を害するものも含まれている。すなわち、逃走の罪、犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪・偽証の罪がもっぱら国家自体の作用を害する犯罪類型であるのに対し、公務の執行を妨害する罪、汚職の罪、虚偽告訴の罪は、地方公共団体の作用をも害する犯罪類型である。

<公務の執行を妨害する罪>

 公務の執行を妨害する罪の保護法益は、公務の執行、すなわち国又は地方公共団体の作用である。公務員は、保護の客体ではなく、行為の客体にすぎない。

 公務の執行を妨害する罪には、公務執行妨害罪[95条1項]、職務強要罪[95条2項]、封印等破棄罪[96条]、強制執行妨害罪[96条の2]、競売等妨害罪[96条の3第1項]、談合罪[96条の3第2項]の類型がある。

<公務執行妨害罪>

 公務員が職務を執行するにあたり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万以下の罰金に処せられる[95条1項]。

 公務執行妨害罪の主体となり得る者については、制限されていない。公務員の職務執行の客体である者でなくても、主体となり得る。そのような者でない第3者でも保護法益である公務の執行を妨害することができるからである。たとえば、友人が警察官に逮捕されるところに居合わせた者が、その警察官に暴行を加えて友人の逮捕を妨害するような場合である。
 公務員であっても、主体となり得る。

<公務執行妨害罪の客体>

 公務執行妨害罪の保護法益は、公務の執行であるが、行為の客体は公務員である。ただし、公務執行妨害罪は、わが国の公務の執行を保護法益とするものであるから、外国の公務員は、行為の客体にはならない。

 公務員には、特別法上、公務員とみなされる者を含む。たとえば、日本銀行の職員[銀行法19条1項]等は、公務に従事する職員に準ずる性格を有するので、公務員とみなされ、その職務について、公務員と同様の保護が与えられるのである。

<公務執行妨害罪の行為>

 公務執行妨害罪における行為は、公務員が職務を執行するにあたり、これに対して暴行又は脅迫を加えることである。
 職務については、ひろく公務員が取り扱う各種各様の事務のすべてを含むとするのが判例・通説である。したがって、たとえば、国立大学における事務や講義等に関してなされた暴行又は脅迫についても公務執行妨害罪が成立する。

<職務の適法性>

 職務の執行は、適法になされることを要する。刑法上、そのことは規定されていないが、違法な公務員の行為まで保護する必要は無いとして、職務の適法性を要件に加えるのが判例・通説である。

 職務が適法であるという為には、一般に、@行為が、当該公務員の抽象的職務権限[一般的職務権限]に属すること、A当該公務員がその職務を行う具体的職務権限を有すること、Bその行為が、公務員の職務行為の有効要件である法律上の重要な条件・方式を履践していること、という要件が必要であるとされている。

 @については、公務員は、通常、その職務の範囲が法令上限定されており、その範囲を逸脱してなされた行為はもはや公務の執行とはいえないことから必要とされる。たとえば、巡査が行う租税の徴収は適法な職務とはならない。

 Aについては、当該公務員に抽象的職務権限があるだけでは、なお公務員の具体的な職務執行と言えない場合が多いことから必要とされる。たとえば、執行官が適法に民事執行を行うことができるのは、自己に委託された事件に限るとされている。

 Bについては、公務員の職務行為には、その有効要件として、法律上、一定の条件・方式が要求されることが多く、それらの重要な部分を欠く職務は保護に値しない、ということから要求される。

<職務の適法性の判断基準>

 職務の適法性が構成要件要素であるとして、適法性はどのように判断するのか、その判断基準が問題となる。
 この点については、当該公務員が適法と信じたかどうかで決定したり[主観説]、一般人の見解を基準として決定する[折衷説]のではなく、裁判所が客観的に法令を解釈して客観的に決定すべきであり[客観説]、また、事後的に純客観的な立場から判断されるべきではなく、行為当時の状況に基づいて客観的、合理的に判断されるべきであるとする、とするのが判例の立場である。


<職務を執行するに当たりの意義>

 職務を執行するに当たりとは、職務を遂行するに際して、の意味であるとされている。すなわち、職務の執行を開始しようとした時から、職務の執行を終えた時点までの時間的範囲を指す。職務の執行中はもちろん、職務の執行に着手しようとしている場合も含まれるが、職の執行後は含まれない。

 具体的には、休憩中や一時的に雑談をしている場合、職務を執行するために待機中の場合等が問題となる。
 この点、判例は、95条1項の趣旨は、公務員によって行われる公務の公共性にかんがみ、その適正な執行を保護しようとするものであるから、その保護の対象となるべき職務の執行というのは、漫然と抽象的・包括的に捉えられるべきものではなく、具体的・個別的に特定させていることを要するものと解すべきとしている。

 そして、同条同項に「職務を執行するに当たり」と限定的に規定されている点からして、ただ漫然と公務員の勤務時間中の行為は、すべて職務執行に該当し保護の対象となるものと解すべきではなく、具体的・個別的に特定された職務の執行を開始してからこれを終了するまでの時間的範囲、及びまさに当該職務の執行を開始しようとしている場合のように当該職務の執行と時間的に接着しこれを切り離し得ない一体的関係にあるとみることができる範囲内の職務行為にかぎって、公務執行妨害罪による保護の対象となるものと解するのが相当であるとする。

 もっとも職務の性質によっては、その内容、職務執行の過程を個別的に分類して部分的にそれぞれの開始、終了を論ずることが不自然かつ不可能であって、ある程度継続した一連の職務として把握することが相当と考えられるものもあるが、そのような職務については、ある程度継続した一連の職務として把握するとしても当該職務行為の具体性・個別性を失うものではない、とした。※

※ 日本電信電話公社[現NTT]の電報局長の、局の事務全般を掌握し部下職員を指揮監督する職務及び同電報局次長の、局長を助け局務を整理する職務。

≪暴行・脅迫>

 公務執行妨害罪においては、暴行・脅迫によって職務の執行を妨害する必要があり、暴行・脅迫以外の方法、たとえば偽計により職務を妨害する行為は、公務執行妨害罪を構成しない。

 公務執行妨害罪における暴行又は脅迫は、それぞれ広義の暴行・脅迫である。

 公務執行妨害罪における暴行は、不法な有形力ないし物理力の行使が公務員の身体に対してなされる必要は無く、公務員に向けられていれば足りる。すなわち、公務員の職務の執行に当たりその執行を妨害するに足りる暴行を加えるものである以上、それが直接公務員の身体に対するものであると否とは問われない。
 したがって公務員の指揮の下に、その手足となって、職務の執行に密接不可分の関係にある補助者に加えられる場合や、物に対して加えられた有形力が公務員の身体に物理的に強い影響を与え得る場合[間接暴行]でもよいとされる。

 たとえば、執行官がその職務をなすに当たり、公務員でないがその補助者として、当該執行官の命により、その指示に従って被告人方の家財道具を屋外に搬出中の者に対し暴行・脅迫を加えた場合、公務員である執行官に対して直接なされたのではないとしても、当該執行官の職務の執行を妨害する暴行・脅迫に該当するとされ、また税務署員が差押えた密造酒入りの瓶を鉈で粉砕し内容物を流失させる行為や公務員が密造タバコを押収しトラックに積み込んでいた際に、トラックに乗り込んでタバコを街路上に投げ捨てた行為も、公務員に対して加えられた暴行と解すべきものとされた。

 公務執行妨害罪における脅迫は、恐怖心を起こさせる目的で他人に害悪を告知することの一切を含む。必ずしも、直接に公務員に対してなされる必要は無く、第三者に対する脅迫でも、公務員の職務の執行を妨害しうるものであれば足りる。

■ 覚せい剤取締法違反の現行犯人を逮捕した現場で、警察官が証拠物として適法に差し押さえ、整理中の覚せい剤注射液入アンプルを警察官の面前で踏みつけて損壊すれば、公務執行妨害罪が成立する。

<解説>

 公務執行妨害罪における暴行は、不法な有形力ないし物理力の行使が公務員の身体に対してなされる必要は無く、公務員に向けられていれば足りる[広義の暴行概念]。公務員の職務の執行に当たり、その執行を妨害するに足りる暴行を加えるものである以上、それが直接公務員の身体に対するものであると否とは問われないのである。
 設問における行為、すなわち警察官が証拠物をして適法に差し押さえ、整理中の覚せい剤注射液入アンプルを警察官の面前で踏みつけて損壊する行為は、直接、警察官に向けられていはいないが、公務員の職務の執行に当たり、その執行を妨害するに足りる暴行であるといえる。
 したがって、設問の暴行について公務執行妨害罪[95条1項]が成立する。 

<既遂時期>

 公務執行妨害罪は、暴行・脅迫が行われれば直ちに既遂に達する。現実に公務員の職務の執行が妨害されたことは要しない。暴行・脅迫は、公務員の職務の執行に当たりその執行を妨害するに足りるものでなけらばならないから、暴行・脅迫を加えること自体が、妨害と解されるのである。
 なお、この意味で、通説は本罪を抽象的危険犯であるとする。

<故意>

 公務執行妨害罪の故意の内容は、相手方が公務員であること、及びその公務員が職務を執行するに当たり、暴行・脅迫を加えることの認識である。

 公務の執行を妨害する目的は不要である。

<封印破棄罪>

 公務員が施した封印若しくは差押えの表示を損壊し、又はその他の方法で無効にした者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられる「96条」。

 封印等破棄罪は、公務員が施した封印若しくは差押えの表示を損壊し又はその他の方法で無効にすることを通じて、公務の執行を妨害する犯罪である。

 封印とは、物に対する任意の処分を禁止するために、開くことを禁止する意思を表示して、その外装に施された封緘[ふうかん]等の物的設備をいう。たとえば、執行官が債務者に差押物を保管させる場合の差押物について封印[民執法123条3項]がこれに当たる。
 封印等破棄罪における差押えとは、公務員がその職務上保全すべき物を自己の占有に移す処分をいい、その処分を明白にするのが差押えの表示である。すなわち、差押えの表示とは、貼札や立札等、差押えによって取得した公務員の占有を明らかにするために施された表示であって、封印以外のものをいう。

 損壊とは、物質的に毀損・破壊して、事実上の効力を減殺・滅却することをいう。
 その他の方法で無効にするとは、封印・差押えの表示自体を物質的に破壊することなく、その事実上の効力を減殺・滅却することをいう。

<強制執行妨害罪>

 強制執行を免れる目的で財産を隠匿し、損壊し、若しくは仮装譲渡し、又は仮想の債務を負担した者は、2年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる[96条の2]。

 強制執行妨害罪の保護法益については争いがあるが、判例は、強制執行は、債権の実行のための手段であって、96条の2は究極するところ債権者保護をその主眼とする規定であるとし、もっぱら債権者の債権の実現という利益を保護するものであるとの見解をとっている。

 強制執行妨害罪は目的犯であり、強制執行を免れる目的を必要とするが、現実に強制執行を免れたことは必要ではなく、現実に強制執行の全部又は一部が実行されたことも必要でない。

 そして、強制執行とは、民事執行法による強制執行又はこれを準用する強制執行をいう。国税徴収法に基づく滞納処分については、差押えその他の執行手続に関し、同法に詳細に規定されていて、民事執行法の強制執行に関する規定を準用するものではないことから、ここでいう強制執行には含まれない。

<競売等妨害罪>

 偽計または威力を用いて、公の競売又は入札の公正を害すべき行為をした者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処せられる[96条の3第1項]。
 公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、同様とされる[同条第2項]。
 96条の3の保護法益は、公の競売又は入札の公正であるが、公の競売又は入札への干渉の態様により、競売入札妨害罪[1項]、談合罪[2項]が規定されている。

 競売入札妨害罪における公正を害すべき行為とは、公の競売又は入札に不当な影響を及ぼすような行為をいう。談合行為も本来含まれるはずであるが、談合罪がある関係で競売入札妨害罪では処罰されない。
 偽計又は威力を用いて公の競売又は入札の公正を害すべき行為があれば、現実に公の競売又は入札の公正が害されなくても、直ちに既遂に達する。

 談合罪における談合とは、公の競売又は入札において、公正なる価格を害し又は不正な利益を得る目的で、競争者が互いに通謀してある特定の者をして、契約者たらしめるため他の者は一定の価格以下又は以上に入札しないことを協定することをいう。それ以上その協定に従って行動されたことを必要としない。

 談合罪の主体について、判例は、多くの場合、競買等の希望者であろうが、これに限られる必要は無く、自らはその希望を持たない者であっても、自己と特別な関係にある競買等の希望者があって、これに影響を及ぼすことのできる地位にあるものであれば足りるものと解するのが相当である、としている。

つづく・・・
ラベル:刑法各論
posted by 94条2項の類推適用されずじまい at 12:06| Comment(0) | 刑法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月05日

独学院 公然わいせつ罪から

参りましょう。

<公然わいせつ罪>

 公然とわいせつの行為をした者は、6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処せられる[174条]。

 本罪の保護法益は、公衆の健全な性的風俗である。

 「公然」とは、不特定又は多数人が認識できる状態をいう。
 「わいせつの行為」とは、その行為者又はその他の者の性欲を刺激興奮又は満足させる行動であって、普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道義観念に反するものをいう。

<わいせつ物頒布等罪>

 わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処せられる。犯罪の目的でこれらの物を所持した者も、同様に処せられる[175条]。

 わいせつな画像を録画したビデオテープ、わいせつな音声を録音したテープ、わいせつな画像を記憶、蔵置させたホストコンピュータのハードディスクは、わいせつ物にあたるとされる。

 本罪の行為は、わいせつ物の頒布、販売、公然陳列、又は販売目的をもって所持することである。
 「頒布」とは、不特定又は多数人に対して配布することをいい、「販売」とは、不特定又は多数人に対して有償で譲渡することをいう。
 「公然と陳列」するとは、不特定又は多数人が認識できる状態に置くことをいう。不特定又は多数人に対する、映画フィルムの上映、わいせつな音声を録音したテープの再生がこれにあたる。また、ダイヤルQ2の回線を通じて、誰でも、どこからでも聴取できる状態にする行為も公然陳列にあたるとされる。

 「販売目的所持」の販売目的は、本罪が日本国内における公衆の健全な性的風俗を保護するものであるから、国内での販売目的をいい、国外での販売目的は含まない。

<賭博罪・常習賭博罪>

 賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処せられる。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りではない[185条]。

 常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処せられる[186条1項]。

 賭博は、国民に怠惰浪費の弊風を生じさせ、勤労の美風を害するばかりでなく、甚だしいと暴行その他の副次的犯罪を誘発し、または国民経済の機能に重大な障害を与えるおそれすらあることから、処罰される。

 「賭博」とは、2人以上の物が偶然の事情に係る勝敗によって財物の得喪を争うことをいう。
 偶然性は、当事者間において確実に予測できないという意味であり、当事者の技能が勝負の決定に影響するものであってもよい。判例は、囲碁について賭博罪の成立を肯定した。
 当事者の一方が詐欺的手段によって勝敗を支配している場合には、詐欺的手段をした者について詐欺罪が成立するが、他方の者には賭博罪は成立しないとされる。

 賭博で得喪を争う財物は、有体物に限らず、財産上の利益の一切である。
 ただし、一時の娯楽に供する物、つまり、関係者が娯楽のために消費するような物を賭けたにとどまるときは、賭博罪は成立しない[185条後段]。その場で消費してしまうお菓子、食事などを賭ける場合である。

<死体等損壊罪>

 死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処せられる「190条」。

 本罪は、宗教生活上の善良な風俗、国民の正常な宗教的感情を保護法益とする。

 死体の「損壊」とは、死体を物理的に損傷、毀壊[きかい]する場合をいう。

 「遺棄」とは、死体を他の場所に移して遺棄する場合のほか、習俗上の埋葬とは認められない方法で放棄することをいう。
 行為のみならず、不作為によるものも含まれる。ただし、不作為による死体遺棄は、法律上死体の埋葬義務のある者についてのみ成立する。
 判例は、埋葬の責務を有する者が、葬祭の意思なく死体を放置して立ち去ることは遺棄にあたるとした。

つづく・・・
ラベル:刑法各論
posted by 94条2項の類推適用されずじまい at 11:24| Comment(0) | 刑法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月04日

独学院 公文書偽造罪から

参りましょう。

<公文書偽造等罪>
 
 行使の目的で、公務所若しくは公務員の作成すべき文書若しくは図画を偽造した者は、公文書偽造罪として処罰される[155条1項]。
 これらを変造したものも、同様に公文書変造罪として処罰される[同条2項]。

 公文書の偽造・変造が公務所若しくは公務員の印章・署名[偽造した印章・署名も含む。]を使用して行われた場合には、有印公文書偽造罪・変造罪として1年以上10年以下の懲役に処せられ、無印である場合には、無印公文書偽造罪・変造罪として3年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられる。

 「公文書」とは、公務所又は公務員が、その名義をもって、権限内において所定の形式に従って作成すべき文書若しくは図画をいう。その権限が法令によると内規又は慣例によるとを問わない。
 公文書は、私文書より証明力が高いので、公文書偽造等罪は私文書偽造等罪より刑が重くなっている。

 公文書偽造等罪の主体に制限は無い。ただし、作成権限を有する公務員が虚偽の文書を作成しても作成名義の冒用ではないので、公文書偽造等罪にはならない。この場合は、虚偽文書作成罪の問題となる。
 公務員であっても、作成権限のない文書を作成すれば、公文書偽造等罪が成立する。

<虚偽公文書作成等罪>

 公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造した時は、印章又は署名の有無により区別して、公文書偽造等罪の例により処罰される[156条]。

 本罪は、公文書の社会的信用性に鑑み、無形偽造を処罰するものである。

 本罪の主体は、文書の作成権限を有する公務員である。職務上、作成権限を有する公務員が、真実に合致しないことを知りながら虚偽の内容の文書等を作成することを内容とする犯罪である。

◆虚偽公文書作成等罪の間接正犯の成立

≪否定説1≫

 虚偽公文書作成等罪[156条]は、公務所の作成権限者たる公務員を主体とうる身分犯である。身分犯は、身分ゆえに科せられた義務の違反が実行行為となるものであるから、義務違反を観念できない非身分行為が実行行為に出ることはできない。したがって、非身分者による間接正犯は成立しない。

≪否定説2≫

 身分を有しない者であっても身分者を利用することにより法益を侵害することが可能であるから、一般的には、非身分犯による間接正犯も認められる。
 しかし、虚偽公文書作成等罪の間接正犯的形態が、公正証書原本等不実記載罪※[157条]として規定されており、しかも、公正証書原本等不実記載罪の方が刑が軽いのであるから、法は、それ以外の間接正犯を処罰しない趣旨であると解される。

※公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿等に関する公正証書の原本に不実の記載させたことを内容とする犯罪

◆虚偽公文書作成等罪の間接正犯の成立

≪判例≫

 公務員としての身分を有しない非身分者[私人]については、虚偽公文書作成等罪の間接正犯は成立しない。
 しかし、作成権限者たる公務員の職務を補佐して公文書の起案を担当する職員が、その地位を利用し、行使の目的をもって職務上起案を担当する文書につき内容虚偽のものを起案し、これを情をしらない上司に提出し、上司をしてその起案文書の内容を真実なものと誤信して署名若しくは記名、捺印せしめ、もって内容虚偽の公文書を作らせた場合には、虚偽公文書作成等罪の間接正犯が成立する。

<公正証書原本不実記載罪>

 公務員に対し虚偽の申立てをして、@登記簿、戸籍謄本その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又はA権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる[157条1項]。

 本罪は、私人の申告に基づいて作成される特に重要な証明力を有する公文書について、記載内容の真正を確保する趣旨で定められた。虚偽公文書作成等罪[156条]の間接正犯的な形態を独立罪としたものである。

<公正証書原本不実記載罪の客体>

 本罪にいう「公正証書」とは、公務員がその職務上作成する文書であって、権利義務に関するある事実を公的に証明する効力を有する文書をいう。
 一般的には、公正証書は公証人が作成する文書を指すが、本罪にいう公正証書はこれよりも範囲が広い。

 本罪の客体は、「権利義務に関する」公正証書の原本である。この「権利義務」とは、財産上の権利義務のほか身分上の権利義務を含む。
 たとえば、登記簿、戸籍謄本のほか、土地台帳や住民票などである。また、「権利義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録」とは、たとえば、自動車登録ファイル、住民台帳ファイルである。

<公正証書原本不実記載罪の行為>

 本罪の行為は、公務員に対し虚偽の申立てをして、@権利義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせること、又はA権利義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせることである。

 「公務員」とは、公正証書の原本[電磁的記録を含む]に対し記載[記録]する権限を有する公務員をいう。作成権限のない公務員が不実の記載をすれば、公文書偽造等罪[155条]が成立する。

 申立てを受ける公務員は、不実の申立てであることを知らない者であることを要する。公務員が不実であることを知ってする場合、当該公務員に実質的審査権があれば、その公務員について、虚偽公文書作成等罪[156条]が成立する。形式的審査権しかない公務員が事情を知って公正証書の原本に不実の記載をする場合には、当該公務員については、罪責に問われない※とされている。

※虚偽が一見して明白な場合は、虚偽公文書作成等罪が成立する。

 「虚偽の申立て」とは、客観的真実に反する申立てをいう。

 「不実の記載」とは、存在しない事実を存在するものとし、存在する事実を存在しないものとして記載することをいう。

<私文書偽造罪>

 行使の目的で、権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、私文書偽造罪として処罰される。
 これらを変造した者も、同様に私文書変造罪として処罰される[159条]。
 私文書の偽造・変造が他人の印章・署名[偽造した印章・署名も含む。]を使用して行われた場合には、有印私文書偽造・変造として3月以上5年以下の懲役に処せられ、無印である場合には、無印私文書偽造・変造として1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられる。

 私文書とは、作成名義人が日本国の公務所・公務員以外のものである文書をいう。そのため、外国の公務所・公務員が作成名義人である文書も私文書である。

 私文書は、公文書よりも公共的信用が低いため、公文書偽造等罪に比べて刑が軽くされている。

<私文書偽造等罪の客体>

 本罪の客体は、他人の「権利義務に関する文書」及び「事実証明に関する文書」である。
 「権利義務に関する文書」とは、権利義務の発生・存続・変更・消滅の法律効果を生じさせることを目的とする意思表示を内容とする文書をいう。公法上のものか私法上のものか問われない。たとえば、契約書、無記名定期預金証書がこれにあたる。
 「事実証明に関する文書」とは、実社会に交渉を有する事項を証明するに足りる文書をいう。
 判例は、いわゆる替え玉受験において、他人名義で作成した答案は志願者の学力の証明に関するものとして、実社会に交渉を有する事項を証明する文書にあたるとした。

<人格の同一性>

 偽造は、作成権限のない者が他人名義を冒用することである。他人名義の冒用については、文書を通じて認識できる人格主体としての名義人と、文書の作成者※が誰であるかを明らかにした上で、両者の間に人格の同一性が一致するか否かによって判断する。人格の同一性が一致しない場合には、他人名義の冒用として有形偽造となる。

※文書の記載をさせた意思の主体[観念説]

 作成者が他人の名義を使用する場合であっても、名義人からあらかじめ承諾を得ていれば、原則として、人格の同一性について偽りは無く、他人名義の冒用ではない。
 もっとも、交通事件原票の供述書のように文書の性質上、名義人自身によって作成されることが予定されており、他人名義で作成することが法令上許されないものについては、たとえ名義人の承諾があっても名義の冒用であるとされた。

 また、通称名を使用して文書を作成しても、原則として他人名義の冒用にはあたらないが、文書の性質上、自己以外の名前を書くことが別の者を表示することになる場合には、人格の同一性が偽られたことになり、名義の冒用があるとされる
 判例は、同姓同名の弁護士が実在することを利用して、弁護士の肩書を使用して「弁護士報酬請求書」を作成した事案で、その文書が弁護士資格を有する者が作成した形式・内容のものである以上、文書に表示された名義人は実在する同姓同名の弁護士であって、弁護士資格をもたない被告人とは別人格の者であるから、名義人と作成者の人格の同一性にそごを生じ、名義の冒用があるとした。

<私文書偽造罪に関する判例[要旨]>
◆≪最決S56.4.8≫
 他人名義で交通反則切符中の供述書を作成した場合、この供述書作成について、あらかじめその他人から承諾を得ていても、私文書偽造罪が成立する。

◆≪最判S26.5.11≫
 他人名義の預金通帳に基づいて、その他人名義の預金払戻証書を作成した場合は、その他人がすでに死亡していたとしても、私文書偽造罪が成立する。

◆≪最決S42.11.28≫
 共同して会社を代表する定めがある会社の代表取締役の一人が、行使の目的で、他の代表取締役の署名や印鑑を冒用して、共同代表の形で当該会社名義の文章を作成した場合は、私文書偽造罪が成立する。

<虚偽診断書等作成罪>

 医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をしたときは、3年以下禁錮又は30万円以下の罰金に処せられる[160条]。

 本罪は、私文書の無形偽造を処罰するものである。
 医師が公務所に提出すべき診断書等は、私文書であっても法律関係の証明書類として特に重要性が高いため、無形偽造を処罰対象とした。私文書の無形偽造を処罰するのは、本罪の場合のみである。

 主体は「医師」である。歯科医師を含む。

 客体は、医師が「公務所に提出すべき」診断書、検案書※、死亡証書[死亡診断書]に限られる。医師自らが提出する場合のほか、他の者によって提出される場合も含む。

※医師が死体について死因、死期、死所などの事実を医学的に確認した結果を記載した文書

つづく・・・
ラベル:刑法各論
posted by 94条2項の類推適用されずじまい at 22:03| Comment(0) | 刑法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月03日

独学院 文書偽造罪の罪から

おはっす、参りましょう。

<文書偽造の罪>

 文書偽造罪は、文書に対する公共的信用を保護法益とする。
 公正証書、契約書、卒業証明書といった各種の文書は、社会生活上重要な機能を果たしているが、これらが偽造されたものであれば円滑な社会生活は望めない。そこで、文書に対する公共的信用を保護し、社会生活の安定を図るため、文書偽造罪が定められた。

 もっとも、具体的な保護の内容については議論がある。
 すなわち、文書が真正な作成名義人によって作成されたものであるという形式的事実を保護する考え[形式主義]と、文書の内容が真正なものであるという実質的真実を保護する考え[実質主義]の対立がある。
 たとえば領収書について、形式主義によれば、債権者[領収書の名義人]が作成すれば、真正な作成名義人により作成されたのだから、金額が虚偽であっても偽造ではないが、債務者が勝手に作成すれば金額が真実と合致していても偽造とされる。
 これに対し、実質主義によれば、作成名義人である債権者が作成しても金額が虚偽であれば偽造となるが、債務者が作成しても金額が真実と合致していれば偽造ではないとされる。

 判例、通説は、形式主義の立場を基本とし、特に重要な場合に限って実質主義を採用する。

<文書>

 本罪の客体である[文書]とは、@文字その他の可読的符合を用い、Aある程度持続すべき状態において、B特定人の意思又は観念を物体上に表示したもので、Cその表示の内容が、法律上又は社会生活上重要な事項に関する証拠となりうるものをいう。

 たとえば、砂浜に書かれた文字はすぐに消えるので文書ではないが、黒板に白墨で書かれたものは、文書とされる。
 また、刑法が保護すべき文書は社会生活上証拠となりうるものであることを要するから、小説、書画といった芸術作品は文書にはあたらないとされる。
 また、「文書」は、確定的な人の観念・意思を表示するものとして他に代替を許さない唯一のもの、つまり原本であることを要する。
 写しは、基本的にその作成者の意思・観念が入り込む余地があるため、公共的信用は希薄であり文書として保護に値しないからである。

◆写真コピーは「文書」にあたるか。

≪肯定説≫[最判]
・たとえ原本の写しであっても、原本と同一の意識内容を保有し、証明文書としてこれと同様の社会的機能と信用性を有するものは文書に含まれると解すべきである。
・写真コピーは、写しであるが、機械的に正確な複写版であって、原本と全く同じく正確に再現され、一般にそのようなものとして信頼される性質のものであり、また、それゆえに実生活上原本に代わるべき証明文書として一般に通用し、原本と同程度の社会的権能を信用性を有する場合が多い。

≪否定説≫
・写しは、原本を正確に写し出しても写しであることに変わりは無く、写真コピーの作成者の意思・観念が入り込む余地のあるものである。

 写真コピーについては、文書性のほか、「偽造」にあたるかどうかについても議論がある。偽造[狭義]とは、文書の作成権限を有しない者が他人の名義を冒用して文書を作成することをいう。
 写真コピーについて「偽造」を肯定する見解は、写真コピーの作成名義人は、原本作成名義人であるとし、写真コピーの作成者による原本作成名義人の名義の冒用があるとする。
 これに対し「偽造」を否定する見解は、写真コピーの作成名義人は、写真コピーの作成者であるから、名義の冒用にはならないとする。
 判例は、公文書の写真コピーについて、原本作成名義人が作成名義人であるとした上で、原本の有印公文書を写真コピーした場合は、その写真コピーの上に印章、署名が複写されていることから、有印公文書の偽造にあたるとした。

≪作成名義人≫

 文書から理解されるその意識内容の主体を名義人という。
 文書偽造罪の罪の対象となる文書については、名義人が存在していることが必要である。
 誰が、作成したかわからないような文書では、誰も信用しないであろうから、作成名義人が不明の文書は保護に値しないからである。

 この関係で、死者や架空人を作成名義人とする文書について偽造罪が成立するかという問題がある。これに関し、判例・通説は、死者や架空人を名義人とする文書でも、文書偽造罪は成立すると解している。一見実在しそうな人物が名義人とされた場合には、当該文書に対して公共的信用が生じるので、これを保護する必要があるとの理由による。

<有形偽造と無形偽造>

 偽造とは、虚偽の文書を作成することであるが、これには「有形偽造」と「無形偽造」とがある。
 有形偽造とは、作成権限のない者が他人名義の文書を作成することをいい、無形偽造とは、作成権限のある者が内容虚偽の文書を作成することをいう。

 形式主義を基本とする立場からは、有形偽造が本来の偽造であるとされる。

<狭義の「偽造」>

 「有形偽造」は、@作成権限のない者が他人名義を冒要して文書を作成する「狭義の偽造」と、A真正に成立している文書に変更を加える権限のない者がその非本質部分に変更を加える「有形変造」とに区別される。

 一般に「偽造」といわれるのは、有形偽造のうち変造を除いて狭義の偽造である。
 近時は、狭義の偽造について、文書の作成者と名義人との人格同一性を偽ることであると定義されることもある。
 「人格の同一性」とは、文書を通して認識できる人格主体の同一性をさし、文書から認識できる意識内容の主体としての文書の作成「名義人」と、文書の「作成者」とが一致するかどうかという視点で有形偽造の有無を判断する。実質的には、前述の有形偽造の内容と同じであるとされる。

 偽造と変造とは、変更を加えるのが本質的部分か非本質的部分かで区別される。真正に成立した他人名義の文書の本質的部分に変更を加え、もとの文書と同一性を失うに至った場合は、変造ではなく偽造となる。

 「無形偽造」についても、@作成権限のある者が新たに内容虚偽の文書を作成する「狭義の無形偽造」と、A真正に成立している文書に権限ある者が内容虚偽の変更を加える「無形変造」とに区別される。
 無形偽造[無形変造を含む。]が処罰されるのは、一定の場合に限定されている。

◆代理・代表名義の冒用
 無権代理人乙が、「甲代理人乙」という名義で文書を作成した場合の文書の名義人は誰か。

≪有形偽造説≫[最判]
 代理人であると誤信させるに足りるような資格を表示して作成された文書名義人は、本人「甲」である。
[理由]
 文書に対する公共的信用は、文書の効果帰属主体である本人が実際に文書の内容どおりの意思・観念を有しているという点に向けられるが、代理形式の文書によって表示された意識内容に基づく効果は、代理された本人に帰属するものである。→無権代理による代理形式の文書の作成は、作成者[乙]による名義人[甲]の名義人を冒用して有形偽造にあたる。

≪無形偽造説≫
 文書の名義人は、無権代理人[乙]である。
[理由]
 「甲代理人乙」という名義で文書を作成した場合、「甲代理人」という部分は単なる肩書にすぎず、文書の内容の一部を偽るものにすぎない。
→無権代理による代理形式の文書の作成は、代理人としての資格を偽るものであり、文書の内容の真実を偽るものとして無形偽造にあたる。

 私文書偽造罪は、有形偽造を原則とするため、無形偽造と解する立場では、代理・代表名義の冒用を不可罰とするはずであるが、無形偽造説は、無印私文書偽造罪[159条3項]は、例外的に無形偽造も含む趣旨であるとする。

 なお、代理権限を有する者が、代理権限を濫用して本人名義の文書を作成した場合、権限内の行為である以上、名義の冒用は無く、偽造には当たらない。この場合には、背任罪の成否が問題になる。

<有印偽造・無印偽造>

 有印偽造は、印章又は署名を用いた偽造であり、無印偽造は、そうでない場合である。

 「印章」とは、いわゆる印影[はんこ]である。
 「署名」とは、記名[印刷や代筆による氏名の記載]であると自署[サイン]であるとを問わない、とするのが判例である。
 これに対し、署名は、自署に限るとする見解もあるが、判例の見解によれば、結局、有印か無印かは、文書上に作成名義人の名称が記載されているかどうかで判断されることになる。印影[はんこ]の有無ではない。

 偽造された文書に、印章又は署名のいずれか一方が用いられていれば、有印偽造となる。印章又は署名自体が、真正なものか偽造されたものかであるかは問題にならない。

 有印偽造は無印偽造に比べて文書に関する公共的信用を害する程度が高いので、重く罰せられている。

<行使の目的>

 文書偽造罪が成立するには、原則として、行使の目的で偽造が行われることを要する[154条〜156条・159条]。

 「行使」とは、偽造文書[虚偽文書を含む。]を真正に成立したものとして他人に交付、提示等して、その閲覧に供し、その内容を認識させまたは認識しうる状態におくことをいう。文書偽造罪の保護法益は、文書の真正に対する公共的信用であるが、偽造文書が行使されることにより公衆が真正な文書として誤信するおそれがない限り、公共的信用を害することがないからである。

 文書の本来の用法に従って使用する目的でなくても、何人かによって真正・真実な文書として誤信される危険があることを認識していれば、行使の目的があるとされる。

つづく・・・
ラベル:刑法各論
posted by 94条2項の類推適用されずじまい at 10:54| Comment(0) | 刑法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月02日

独学院 有価証券偽造罪から

参りましょう。

<有価証券偽造罪>

 行使の目的で、公債証書、官庁の証券、会社の株券その他の有価証券を偽造し、又は変造した者は、3月以上10年以下の懲役に処せられる[162条1項]。

 有価証券偽造罪の罪は、有価証券に対する公共の信用を保護するものである。

<有価証券偽造罪の構成要件>

 本罪の客体である「有価証券」とは、財産上の権利が証券に表示されており、その表示された権利の行使又は処分につき証券の所持を必要とするものをいう。

 手形・小切手、化物引換証等、商法上の有価証券のほか、鉄道乗車券、定期券、宝くじ、商品券等がこれにあたる。
 これに対し、郵便預金通帳、無記名預金証書は、有価証券ではないとされている。権利の行使に必ずしも証券の所持を必要とせず[他の方法で証明できれば権利を行使できる]、証券に権利が化体するものではないからである。これらは、その性質により公文書偽造罪又は私文書偽造罪の客体となる。

 本罪の行為は、行使の目的で、偽造又は変造することである。

 「行使の目的」とは、真正な有価証券として使用する目的をいう。他人に対して流通させる目的は必要ない。

 「偽造」とは、作成権限のない者が、他人の名義を冒用して有価証券を作成することである。架空名義の有価証券を作出する場合でも、行使の目的をもって外形上一般人が真正な有価証券であると誤信する程度に作成されていれば、有価証券に対する公共の信用を害するので、偽造にあたるとされる。

 「変造」とは、作成権限のない者が、真正に成立している他人名義の有価証券の非本質的部分に変更を加えることをいう。

<有価証券偽造罪に関する判例[要旨]>

◆≪大判T12.2.15>
 期間経過により無効となった鉄道乗車券の、なお有効であるかのように装うための終期に改竄は、有価証券の「偽造」にあたる。

◆≪最判S39.12.25≫
 廃業後に死亡した者の名義での約束手形の振り出しは、相続人の承諾を得ていても、有価証券偽造罪が成立する。

◆≪大判T3.5.7≫
 手形の振出日付や受付日付の改竄は、有価証券の「変造」にあたる。

◆≪最判S36.9.26≫
 小切手の金額欄の数字の改竄は、有価証券の「変造」にあたる。

◆テレホンカードの有価証券性

 テレホンカードの中核は、磁気部分であり、可視性・可読性をもたない電磁的記録にすぎないから、有価証券にあたらないのではないか。

≪肯定≫判例

 テレホンカードについては、磁気情報部分並び券面上の記載[作成名義人、通話可能度数]及び外観を一体としてみれば、電話の役務の提供を受ける財産上の権利がその証券上に表示されていると認められ、かつ、これをカード式公衆電話に挿入することにより使用するものであるから、テレホンカードは有価証券に当たると解するのが相当である。→磁気情報部分に記録された通話可能度数を権限なく改ざんすれば、有価証券変造罪[162条1項]が成立する。
 なお、テレホンカード等のプリペイドカードの偽造・変造は、平成13年改正で新設された支払用カード電磁的記録不正作出等罪[163条の2]の対象となったことで、上記の判例の意義はほとんど失われたといえる。

<有価証券虚偽記入罪>

 行使の目的で、有価証券に虚偽の記入をした者も、有価証券偽造罪と同様に処せられる[162条2項]。

 「虚偽の記入」とは、既成の有価証券に対すると否とを問わず、有価証券に真実に反する記載をするすべての行為をいう。
 判例は、自己名義によるものか他人名義によるものか、つまり作成権限の有無を問わないとする。
 ただし、有価証券の基本的な振出し行為に関するものについては、虚偽記入ではなく有価証券偽造にあたるとする。

◆≪大判T14.9.25≫
 設立が無効の会社の登記上の取締役が作成した株券は、会社の設立登記がある以上、刑法上の有価証券に該当し、株主名簿・資本金額・一株の金額・その払込なることを記入した時は、有価証券虚偽記入罪が成立する。

<偽造有価証券行使罪>

 偽造若しくは変造の有価証券又は虚偽の記入がある有価証券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者は、3月以上10年以下の懲役に処せられる[163条1項]。

 「行使」とは、偽造有価証券を真正なものとして、また、虚偽記入の有価証券を真実を記載したもののように装って使用することをいう。
 本罪の行使は、偽造通貨行使罪のように流通に置くことを必要としない。したがって、単に資力を仮装する目的で呈示する場合も、行使に当たる。

 解釈上、単に保管を依頼しただけの場合には、それが偽造有価証券であっても、いまだ公共の信用を害するまでには至っていないとの理由から、「行使」に該当しないとされている。

 「行使」と「交付」は、同一の刑罰であるが条文上、区別されている。相手方が偽造有価証券であることの事情を知らない場合が行使、相手方がそれを知っている場合は交付となる。

つづく・・・
ラベル:刑法各論
posted by 94条2項の類推適用されずじまい at 10:36| Comment(0) | 刑法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月01日

独学院 通貨偽造罪から

参りましょう。

<通貨偽造罪>

 行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者は、無期又は3年以上の懲役に処せられる[148条1項]。

 通貨偽造罪の保護法益は、取引手段としての通貨に対する公共の信用である。

<通貨偽造罪の構成要件>

 本罪の客体は、「通用する貨幣、紙幣又は銀行券」である。

 「通用する」とは、法律上によって強制通用力を与えられていることをいう。
 「貨幣」とは硬貨のことであり、「銀行券」とは日本銀行が発行する証券であり、日常的には紙幣といわれているものである。なお、本罪が規定する意味での「紙幣」は現在発行されていない。

 行為は、偽造又は変造することである。
「偽造」とは、通貨の製造・発行権を有しない者が、一般人に真貨として誤信させるような外観のものを作り出すことをいい、「変造」とは、通過の製造・発行権を有しない者が、真貨に加工してその名価を偽ることをいう。

 本罪が成立するには、故意のほか、行使の目的が必要である。「行使の目的」とは、偽造又は変造の通貨を真貨として流通に置こうとする目的をいう。
 したがって、教材として銀行券を偽造しても、行使の目的を欠くため偽造罪には問われない。

<偽造通貨行使等罪>

 偽造又は変造の貨幣、紙幣又は銀行券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者も、通貨偽造罪と同様に処罰される[148条2項]。

 「行使」とは、偽貨を真貨として流通に置くことをいう。同じ「行使」でも、偽造有価証券の行使や偽造文書の行使は、流通に置くことを要しない点で大きく異なる。
 代金として支払うことに限られず、両替や贈与も流通に置くことに変わりがなく、「行使」とされる。

 「行使の目的」とは、他人の手により真貨として流通におかせる目的も含むとされている。

 「交付」とは、偽貨であることの事情を告げて相手方に引渡すことをいう。交付は、行使の予備罪的なものであるといわれるが、法定刑は同じである。「行使」と「交付」は、相手方が偽造通貨であることを知っているか否かで区別される。
 「輸入」とは、外国から偽貨を国内に搬入することをいう。
 交付・輸入は行使の目的で行われることを要する。

 偽貨の行使により財物を取得した場合には、詐欺罪の成否が問題となるが、偽貨を行使するときは、一般に詐欺的行為が随伴すること、本罪の法定刑が著しく重いことから、当然に詐欺罪にあたる行為は本罪で評価し尽くされており、別に詐欺罪は成立しないとされる。

<偽造通貨収得後知情行使・交付罪>

 貨幣、紙幣又は銀行券を収得した後に、それが偽造又は変造のものであることを知って、これを行使し、又は行使の目的で人に交付した者は、その額面価格の3倍以下の罰金又は科料に処せられる。ただし、2000円以下にすることはできない[152条]。

 偽貨であると知らずにこれを受け取った者が、他の者にその損害を転嫁することは、期待可能性が低いことから、偽造通貨行使罪よりも刑が減軽されている。

 本罪の行為は、偽貨であることを収得後に知って行使すること、又は人に行使させる目的で交付することである。

 なお、偽貨の行使によって財物を取得した場合には、さらに詐欺罪の成否が問題になるが、本罪の法定刑が特に軽減されていることに鑑み、詐欺罪の規定は適用されないと解されている。

つづく・・・
ラベル:刑法各論
posted by 94条2項の類推適用されずじまい at 13:40| Comment(1) | 刑法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
トップページへ
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。