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2012年02月24日

独学院 横領の罪から

参りましょう。

<横領の罪>

 刑法典には、横領の罪として、横領罪[252条]、業務上横領罪[253条]、遺失物等横領罪[245条]の3つが規定されている。

 このうち、横領罪と業務上横領罪は、他人から委託された物の占有者だけが犯すことのできる罪であって[真正身分犯]、委託者との間に委託信任関係のあることを前提とする。両者を併せて、「委託物横領罪」という。
 これに対し、遺失物等横領罪は、委託者との間に委託信任関係が無い場合である。

 委託物横領罪が遺失物横領罪に比べて重く処罰されるのは、「委託物横領罪が委託信任関係を破壊するからら」であると解されている。

 横領の罪は、自己が占有する他人の財物に関する犯罪であることから、占有を保護法益とすることは考えられず、「所有権その他の本件」が保護法益である。

 本罪は、他人から預かって占有している財物に関する犯罪である。他人の占有を侵害しない点において、窃盗・強盗・詐欺・恐喝等の各罪と異なる。
 横領の罪には、未遂犯処罰規定は設けられていない。行為者が横領行為を開始すれば、直ちに既遂となるからである。

<横領罪における占有>

 横領罪の客体は、「自己の占有する他人の財物」である。
 横領罪の「占有」は、窃盗罪の「占有」とは、問題となる場面が異なる。

窃盗罪の「占有」→「行為者による侵害の対象となる被害者の支配」
横領罪の「占有」→「行為者による濫用の対象となる行為者の支配」[=「濫用のおそれがある支配力」]

 このように、両罪の「占有」はそれぞれ問題となる場面が異なるため、それぞれの意味も異なり、横領罪の「占有」には、物に対する「事実上の支配」だけでなく、「法律上の支配」も含まれると解されている。この点で窃盗罪の「占有」よりも「広い」

窃盗罪→事実上の支配
横領罪→事実上の支配+法律上の支配

≪横領罪における「占有」が認められるとされた事例≫
[1]横領罪における不動産の占有

●登記済み不動産について、原則として、登記簿上その不動産の名義人となっている者に属する。
●「土地所有者から、その所有土地に抵当権を設定してほしいと依頼され、登記済証、白紙委任状等を交付された者」には、「占有」が認められる。

[2]横領罪における銀行預金の占有
 銀行預金の占有は、預金者にあると解されている。

<委託信任関係>

 委託物横領罪は、「委託信任関係を破ること」に本質がある。「委託信任関係を破らない」横領には、遺失物等横領罪が成立する。

・委託に基づいて占有している他人の物を領得       委託物横領罪
・委託に基づかないで占有している他人の物を領得    遺失物等横領罪
・だれも占有していない他人の物を領得           遺失物等横領罪

 「委託信任関係」は緩やかに解されており、「当事者間の契約の効果として何らかの法的義務を負う関係があれば足りる」と解されている。
 例えば、売主Xが第1買主Aに甲土地を売却した後、自己に登記名義が残っているという場合、Xには、Aとの「『委託信任関係』にもとづく占有」があると解されている。この場合、Xには、売買契約にもとづいて甲土地の登記名義をAに移転すべき法的義務があるからである。

<出題例>

 甲が、乙所有の未登記建物につき、無断で甲名義に所有権保存の登記をしたうえ、丙に売却した場合でも、横領罪は成立しない。
→横領罪は成立しない。甲乙間には「委託信任関係」が存在しないからである。

 Aは、Bから所有建物を買い受けて所有権移転登記をした後、売買契約を解除されたが、建物の登記名義をBに戻す前に、Cから金員を借り入れるに際し、その建物につき、Cに対して抵当権を設定したうえ、その旨の登記をした。
→Aには横領罪が成立する。「委託信任関係」は緩やかに解されており、「当事者間の契約の効果として何らかの法的義務を負う関係があれば足りる」と解されている。
 本問のAは売買契約の解除に基づき建物の登記名義を戻す法的義務を負うので、AB間には「委託信任関係」が認められる。

<他人の物>

 横領罪の客体は、「他人の物」であることを要する。もっとも、自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられたものは、横領罪の客体となる。

<自己の物か他人の物かが問題となる事例1>
[1]ニ重売買
≪事例≫
 売主Xが第1買主Aに甲土地を売却した後、Xは、自己に登記名義が残っているのをよいことに、Xが第2買主Bに甲土地を売却して登記名義を移転した。
→売買契約の成立によって甲土地の所有権は「X→A」に移転しているから、甲土地は、Xにとって「他人の物」となる。

[2]金銭その他の代替物
 
 民法上、金銭については、所有と占有が一致するとされ、金銭の占有が移転すれば、その所有も移転するとされる。そうだとすると、金銭については、「自己の占有する他人の物」はあり得ないことになり、横領罪は成立しないことになると思える。

 しかし、「封金」については、受託者に占有が移転しても、その所有権は委託者に残る[=「他人の物」にあたる」と解されている。

 判例は、「使途を定めた金銭」についても、その所有権が委託者のもとに残る[=「他人の物」にあたる]と解している。

<不法原因給付物>

 委託者が不法な原因に基づいて給付した物を受託者が横領した場合に、横領罪が成立するか。この場合、給付物は「不法原因給付物」にあたるので、受託物には給付物の返還義務はないが、それでも「他人の物」にあたるのかという問題である。

・「委託者は返還請求をすることはできない→しかし、依然として給付物の所有権を失っていない」と考えると、給付物は受託者にとって「他人の物」にあたる。
・「委託者は返還請求をすることはできない→その反射的効果として、不法原因給付物の所有権も受託者に移転する」と考えると、給付物は受託者にとって「他人の物」にあたらない。

 判例は、公務員への贈賄を依頼されて金銭を預かった者が、その金銭をほしいままに領得したという事例において、委託者は返還請求をすることはできないが、依然として給付物の所有権を失っていないとして、横領罪が成立するとした。

※ 最高裁は、横領罪成立説をとっている。しかし、その後、民事事件において、不法原因給付物の所有権は受託者に移転すると判示した。そのため、最判S23.6.5の結論も覆されるべきだとする考え方もある。
 これに対して、刑法上の他人性の解釈は、必ずしも民法上の所有権概念と一致させて考える必要はなく、刑法上はなお「他人の物」と認めることができると解して、横領罪の成立を肯定する学説もある。

<出題例>

 甲が、乙の依頼により公務員丙に賄賂として渡すために預り保管中の現金を丙に渡すことなく自ら費消した場合には、横領罪が成立する。

<「他人の物」〜その他の事例>
<出題例>

 Aは、Bからその所有建物を買い受けて所有権移転登記をした後、売買契約を解除されたが、建物の登記名義をBに戻す前に、Cから金員を借り入れるに際し、その建物につき、Cに対して抵当権を設定したうえ、その旨の登記をした。
→横領罪が成立する。売買契約の解除によって、所有権はBに復帰するから、甲土地はAにとって「他人の物」にあたる。

<横領行為>

 横領行為とは、自己の占有する他人の物について不法領得の意思を実現する一切の行為をいう。
 横領罪の「不法領得の意思」とは、「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」をいう。
 法律的処分[売買など]だけではなく、事実的処分[持ち逃げ等]も含まれるとされる。

※【参考】学説の対立
「横領」行為の意義をいかに解するかについては、領得行為説(通説・判例)と越権行為説が対立する。
≪領得行為説≫・・・不法領得の意思を実現する一切の行為・・・横領罪の成立要件として不法領得の意思が必要
<越権行為説>・・・委託信任関係を破ってその権限を超える行為・・・成立要件として不法領得の意思は不要

≪横領行為にあたるとされる事例≫
・自己の占有する他人の物の売却、贈与、質入れ
・自己の占有する他人の不動産への抵当権の設定
・他人から預かった金銭の使い込み、持ち逃げ、着服、隠匿
・自己の占有する他人の物を自己の物だと主張して他人に民事訴訟を提起する行為
・登記簿上自己が所有名義人となって預かり保管中の不動産につき所有権移転登記手続請求の訴えを提起された場合に、自己の所有権を主張・対抗する行為

<横領行為〜出題例>

 Aは、Bから依頼されて、B所有の土地につき登記簿上の所有者名義人になってその土地を預かり保管中、Bから所有権移転登記手続請求の訴えを提起された際に、自己の所有権を主張して抗争した。
→横領罪が成立する。判例は、登記簿上自己が所有権名義人となって預かり保管中の不動産につき所有権移転登記手続請求の訴えを提起された事案において、自己の所有権を主張・抗争する行為について、不法領得の意思の発現「=「横領」にあたる]として横領罪の成立を肯定した。

 Aは、B所有の未登記建物を、Bの同意の下に使用支配していたところ、その建物につき、自己名義で所有権保存登記をした。
→横領罪が成立する。未登記不動産の占有は、事実上それを管理支配している者に属するので、本問の未登記建物の占有はAに属する。そして、他人所有の未登記建物について、自己名義で所有権保存登記をすることは、不法領得を実現するもので「横領」にあたる。

<故意・不法領得の意思>

 横領罪の故意は、自己の占有する他人の物[または公務所から保管を命ぜられて占有する自己の物]を横領[処分]することの表象・認容である。また、故意のほかに、「不法領得の意思」も必要であると解されている。

 判例は、横領罪で要件とされる「不法領得の意思」とは、「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物について権限がないのに所有者でなければできないような処分をする意思」をいうとする。

※窃盗罪等で要件とされる「不法領得の意思」とは、内容が異なる。

<横領罪の共犯の成否>

 すでにAに売却し、代金全額の受領がされている不動産につき、売主はその事情を秘して、さらにBに売り渡し、その旨の登記を経由した。この場合、Bが契約の時点で、すでにAに売却されていることを知っていたとしても、Bには横領罪の共犯は「成立しない」。

 売主の行為は典型的な二重売買である。売主には横領罪が成立するが、第2売買の買主であるBにも、その共犯が成立するのか。

 民法上、第2売買の買主が単にニ重売買の事実を知りながら購入したとしても[単純悪意者」、先に登記を具備すれば、第三者に対し、不動産の所有権を対抗することができる[177条]。
 このように「民法上適法に」取得することができる場合に、これを「刑法上違法」と評価することはできないから、第2売買の買主Bがニ重売買の事案について悪意であっても、横領罪の共犯は成立しないと解されている。
 したがって、Bについては、横領罪[252条1項]の共犯は成立しない。

※なお、仮に第2売買の買主がいわゆる「背信的悪意者」として民法上保護を受けないときは、刑法上、横領罪の共同正犯ないし教唆犯が成立すると解されている。

<他罪の不可罰的事後行為にあたる場合>

 甲が、割引の仲介をする意思がないのに、仲介をする旨の嘘を言って乙から手形の交付をうけ、これを自己の債務の担保に差し入れた場合でも、横領罪は成立しない。

 甲が「乙を騙して手形の交付を受けた」時点で、詐欺罪が[246条1項]が成立する。
 その後の「騙取後に手形を自己の債務の担保に差し入れた行為」いついては、新たに乙の別の法益を侵害するものではなく、その違法性はすでに詐欺罪によって評価されているから、不可罰的事後行為にあたり、新たに横領罪が成立するわけではない。

<業務上横領罪>
[1]刑の加重

 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処せられる。[253条]
 業務上横領罪は、物の占有が業務上の委託関係にもとづいているため、通常の横領罪よりも刑が加重されている。業務上の委託関係にもとづいている場合には、それにもとづかない場合よりも、より多数者との間の委託信任関係が破壊されうるし、また、より頻繁に発生しやすいからだとされる。

[2]主体
 本罪の主体は、「他人の物を業務上占有する者」である。
 「他人の物の占有者」という身分、「業務者」という身分の両方をそなえていなければならない。ニ重の身分犯である。

※2つの身分のうち、1つは「真正身分犯」、もう1つは「不真正身分犯」である。
・「他人の物の占有者」という身分がなければ犯罪が成立しないという意味で、「真正身分犯」である。
・「業務者」という身分があることによって、通常の横領罪[「単純横領罪」という。]よりも刑が加重されるという意味で、「不真正身分犯」である。

[3]業務
 「業務」とは、社会生活上の地位に基づいて反復又は継続して行われる事務をいう。

≪業務上過失致死傷罪の「業務」と異なる点≫
・本条の「業務」は、業務上過失致死傷罪のそれと異なり、「他人の物を占有する業務」に限られる[例えば、質屋、倉庫業など]。
・業務上過失致死傷罪の「業務」は、「人の生命・身体に対する危険性」を有するものに限られる。これに対し、本罪の「業務」は、それに限られない。

<遺失物等横領罪>
[1]罪質

 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処せられる[245条]。

 横領罪は委託信任関係を破ることを本質とする罪であったが、遺失物等横領罪は委託信任関係を破ることを本質とするものではない。

[2]客体

 「だれも占有していない物[=人の占有を離れた物]」とか、「みずからが委託に基づかずに占有している他人の物」も、その客体に含まれる。
・委託に基づいて占有している他人の物を領得    委託物横領罪
・委託に基づかないで占有している他人の物を領得 遺失物等横領罪
・だれも占有していない他人の物を領得         遺失物等横領罪

 本罪は、他人の占有に属していない他人の物を自分の物のように処分することを内容とするものである。他人の占有を侵害しない点で委託物横領罪と共通し、委託信任関係がない点で異なる。例えば、落し物を勝手に自分の物にした場合には、本罪が成立する。
 「遺失物」とは落とし物であり、「漂流物」とは落とし物が水中にある場合である。
 「その他占有を離れた他人の物」とは、占有者の意思に基づかないで占有を離れ、誰の占有にも属していない物である。例えば、郵便集配人が誤って配達した郵便物がこれにあたる。

[3]行為

 本罪の行為は、遺失物等について、所有者でなければできないような処分を行う行為[横領行為]である。

[4]主観的要件

 主観的な要件としては、「客体が占有を離れた物であること」の表象・認容[=故意]のほか、「不法領得の意思」が必要である。

つづく・・・
ラベル:刑法各論
posted by 94条2項の類推適用されずじまい at 15:11| Comment(0) | 刑法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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